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頭撫でという罰とは決して言えないご褒美を堪能した(どっちがとか聞くな)ところで、気を取り直して本来の目的を果たすべく、フローラと俺は何もなかったように次の目的地へと急いでいた。あのやり取りで思いのほか時間を取られたので、少し早歩きである。
「…ふぅ~、着いたよ。食堂の次はここ。闘技場だよ!」
どうやら、次は俺が編入試験を受けたときに使われた闘技場だ。
「トシヒデは編入試験でここを使ったから見覚えがあると思うけど、ここは様々な学院行事で使われることが多いからしっかり覚えといてね。」
彼女は闘技場の解説を行いながら、俺を中に案内していく。
「闘技場って実は周りに流れ弾や魔法の余波が飛ばないように結界が何重にも張られているんだ。決闘場と観客席の間に五枚、さらに闘技場全体に三枚張ってあるらしいよ。その強固さは八枚全部でどの属性の究極魔法一発分までは耐えられるものらしいよ。飽くまで人伝なんだけどね。」
凄まじい耐久力だ、としか言いようがない。その結界を張った人物はさぞや高名で物凄い実力を兼ね備えた魔術師であるに違いない。
ここで魔法と魔術について少々触れておこうと思う。まず、魔法と魔術の違いだが、大まかに言ってしまえば、魔法は唱えるもの、魔術は書き記すものとして違いを定義されている。しかし、ステータス上では魔法は魔術の一部として扱われているため、同時に魔法は魔術の括りに包括されているという定義も存在する。要は魔法は詠唱、魔術は筆記、そして魔法は魔術の一部として括られている。そんな程度の認識でいい。もし、詳しく知りたければ大学部の教授を捕まえて講義してもらえればいいと思う。俺は自身の情熱を魔法や魔術の定義に費やすつもりはないので勘弁だが。
さて、魔法には属性と階級が存在する。属性は八つ。前に挙げた曜日の名前、火、水、風、土、光、闇、聖の七つに無という七属性に含まれない一つが魔法の属性である。さらに、属性ごとに六つの階級が存在する。下級、中級、上級、特級、超級、究極級の六つだ。一般人が扱えるのが下級、訓練を受けた者が中級を、その中で優秀な者が上級を、更に一際優秀な者が特級を扱うことができ、超級は天才が、そして究極級は人外・怪物の類が操るものとされている。
なお、結界を張るには結界魔法(無属性)の習得が必要で、究極級を一発分、八枚で受けきれるものを創造するということは、結界一枚は間違いなく超級レベルであるからこの結界八枚を張った魔術師は無属性の結界魔法・超級を扱うことができる天才ということに他ならない。
「因みに、その結界を張った魔術師はこの学院にいるのか?」
「うーん、それがイマイチ分からないんだよね。」
「分からない?どうして?」
「結界の特性上、絶対にこの結界を張った人物がいるはずなんだけど、全く情報がないんだよね。」
結界魔法は魔術の中でも特殊な部類に属する。発動するには基本的に筆記による魔法陣が不可欠であるため、魔法というより魔術に属するはずなのだが、無属性系統の上に階級まで存在するため、同時に魔法として扱われることがしばしばある。そんな特徴を持つ結界魔法だが、一つ大きな特性がある。結界の維持には術者本人の魔力が必要というものだ。つまり、結界は魔法を発動させた本人以外は維持することができないということだ。すなわち、闘技場の八枚の結界が未だに維持されているということは、これらを発動した張本人が健在しているという証である。
「うーん、それほどの結界を作れる人がいるなら、是非ともご教授願いたかったんだけどなぁ。」
「因みに、学校には結界魔法を教える授業ならあるよ。」
「じゃあ、その先生は?」
「残念だけど、その結界を張った人とは別みたい。誰かが聞きに行ったらしいんだけど、その先生は『自分にはあれほどの結界を張る魔力も技量もない。』って言ったらしくて、実際にその先生は特級までしか扱えないから闘技場の結界を張った人物ではないのは裏付けされているよ。」
実に残念だ。選択授業自体、まだ何も見学もしていないからどうのこうの言えるわけではないが、是非とも圧倒的に高い技量を持った人の下で学びたいと思っているので、本当に残念だ。
フローラから闘技場のことを聞いているうちに、俺らは闘技場の観客席の所へ出た。観客席はステージを上から見下ろせるような感じで、編入試験の際ステージで戦った俺からすればある意味新鮮だった。ステージではちょうど何かの授業らしく一対二の戦闘が行われていた。周りを見渡せばちらほら観客もいる。
「今はどうやら模擬戦闘の授業っぽいね。たぶん、一対複数における戦闘方法を学んでいるところじゃないかな?」
「へぇー、結構面白そうな授業だな。実戦にできるだけ近い内容を教えている。」
場に居る三人は共に生徒で、片方は一人で複数を相手にする内容を、もう片方は二人で相手を連携して戦う内容を身をもって教えられている。よく見れば、場外で教師らしき女性が大声で何か指示しているようだ。
「うん。この授業の先生は結構人気があるんだ。毎年、必ずと言っていいほど受講制限が設けられるから、受けたくても受けられない人は多いよ。実は私も受講制限で落ちた人の一人だし。」
「フローラもここを受けようと思っていたのか?」
「うん。残念ながら、人数が制限を超えちゃったから抽選になっちゃって、それで見事に落ちちゃった。」
「悔しくないのか?」
「うん。今は全然。勿論、最初は残念に思ったけど、幸い同じ時間帯に受けたい授業がもう一つあったから、すぐに切り替えてそっちに移ったよ。むしろ、受けたい授業が同じ時間帯に二つあって困っていたぐらいだから、踏ん切りがついて良かったって思っているぐらいだよ。」
彼女は中々にポジティブな性格をしているようだ。しかし、この情報から察するに、人気授業は俺の入る余地がないのでは?
「なぁ、この授業みたいに人気があって人数制限がかけられた満員の授業って俺は選ぶことができるのか?」
「うーん、そういえばそうだね。どうするんだろう?…ごめんね、それはわからないなぁ。」
「いや、俺が後で先生に聞けばいいことだ。」
別にこれといった特定の分野に興味があるわけでもないし、ダメならダメで構わない。
俺たちがそんな会話をしているうちに二対一の模擬戦闘は二人組の勝利で幕を閉じたようだ。しかし、外で何かアドバイスしていた先生はステージに上がると勝ったはずの二人に説教をしているようだ。何か連係ミスでもあったのだろうか?
それはさておき、俺は時計を見る。時刻は間もなく9時50分へ達しそうだった。
そこで俺はフローラに尋ねる。
「もうすぐ1限が終わるみたいだが、大丈夫なのか?」
「え?何が?」
「いや、フローラは2限あるんだろう?」
「あっ!」
あっ!って…、忘れてたんかい。まぁ、そうなるほど学院案内に力を入れていたという事か。
「じゃあ、学院案内はここまでにして、フローラは次の授業の準備をしておくべきだな。」
「うん。じゃあ、中途半端ではあるんだけど、今はここまでにして次はどうする?」
「うーん、フローラが良ければだが、今日の放課後は…。」
「全然いいよ!!」
「………。」
言い終わらないうちに色良い返事をいただいた…。
「そ、そっか。それなら、今日の4限が終わったら、早速頼むよ。」
「うん。じゃあ、私は教室に戻って準備してくるから、ここで一旦お別れだね。…そういえば、この後どうするの?」
「あー、一応理事長のとこへ行く用事があるから、まずそっちへ行って、それから職員室で必要なもの貰って、余った時間は見学・体験授業って感じだな。」
「うん、わかった。それじゃあ、また放課後!」
「おう、授業頑張ってな。」
フローラは手を振って駆け出して行った。彼女の姿が見えなくなってから1限終了のチャイムが鳴る。そいえば、さっきは平然と流したけど異世界学校にもチャイムって存在するんだな。
俺はそう思いながらチャイムを鳴らす時計塔を眺める。
さて、こんなところで突っ立っているのも何だし、理事長室へ行きますか。




