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俺が求める平穏はいったいどこに…  作者: gokazoo
ルドワール学院編入編

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6

 俺は今窮地に立たされている。

 まず、女の子が男を押し倒している構図がある。しかし、良く見ると、男は女の子の胸を鷲掴みし、太ももの間に手を入れている。さあ、ここで問題です。

 事情の知らない第三者からこの状態を見られた時、果たしてどういう事が起こり得るでしょう?


 答えは簡単。俺が不埒を働いたということで、女性たちに集団リンチという制裁を食らった後、間違いなく瀕死の状態で縄に掛かります。

 この世界は男女間のパワーバランスが地球とは異なるので、当然文化や価値観が異なるものが存在する。しかし、何故か男女間のセクシャル的問題は女性が優遇されている。男が見知らぬ女性に声をかけるだけで、下手したら痴漢騒ぎになるぐらいには。

 まして、この状況は下手をしなくても完全にアウトである。俺がこれから起こり得る未来を浮かべて冷や汗を流して硬直していると、俺の上に乗りかかっている女の子はやっと自分の状況に気付いたようだ。そして、俺を押し倒していることを知覚すると、その場を飛び退き顔を真っ赤にして俯いた。


 そんな彼女を尻目に俺は妄想タイムトリップし始めていた。

 まず、この場に居る女性陣にボコられ、風紀員に虫の息で捕まる。風紀員の取り調べを経て、学院に入学を取り消される。そして、犯罪者ということで衛兵所に連れていかれ、然るべき手順を踏んだ後、牢に入れられる。そこまでならまだいい。怖いのは、もし、母さんたちが俺を引き取りに来た後だ。冤罪だということは信用してくれるだろう。ただ、こんな不甲斐ないことになったのは俺が悪いということにされて、間違いなく「紳士の嗜み」だとか「女性に嫌がられない○○の手法」とか言って、地獄のようなせっか…、教育を施すに違いない。そうなれば、幾度となく超えた死線をもう2、3度味わうだろう。ああ、終わったな。


 「あ、あの?」


 たぶん、母さんは「能力ばっかりじゃなくて、世間の渡り方ももっと教えておくべきだったんだわ。ごめんね、トシヒデちゃん。次に旅立つときには、絶対に失敗しないようにキッチリみっちり、それはもうばっちりに仕上げてあげるからね。」なんて言って、俺を教育という名の調教を施すに違いない。あの人のことだから、物理的に俺が壊れることはないだろう。精神持つかなぁ~?


 「だ、大丈夫ですか?」


 さっきの女の子が恐る恐ると言った感じで俺に話しかけてくる。


 「……大丈夫ですよ。」


 俺は、心配をかけないように笑顔を丁寧に作ってから返事をした。何故か、後退りされたが…。


 「い、いや、ほ、本当に大丈夫ですか?なんか自棄になって答えていません?その笑顔が妙に迫力あって怖いですし。」


 おっと、いけない。どうも、さっきの想像を引きずっていたようだ。今度は目を見てしっかりと言おう。


 「ええ、大丈夫ですよ。」


 「ヒッ!」


 …怯えられてしまった。なぜだ?


 「……もしかして、私の体を押し付けてしまったことが原因ですか?」


 「……え?」


 「やっぱりそうなんですね…。本当にすみません。すみません。」


 「え?え??」


 なんかよくわからんが、彼女は謝り始めた。てか、彼女を責めた覚えはないのだが…。誤解しているようだし、止めておくべきだろう。


 「いや、あの、ちが……。」


 「サラ!どこ、サラ!!…、いた!あんた、ここで何やってんのよ。あんたが運ぶの遅いせいで支障が出ているんだけど。……、もしかして、あんた、また人とぶつかったの?」


 俺の話し声を完全にシャットアウトされた。俺って、事あるごとに傍目から見ても結構ぞんざいに扱われている?


 「あ、レイラさん…。その~、…はい。」


 「はぁ~、全くもう~。お客さん、お怪我はありませんか?…ん?男?もしかして、噂の編入生?」


 「ええっと、まぁ、噂かどうかは知りませんけど今日編入試験に合格した人であれば、俺で間違いありませんよ。」


 俺がそういうと、彼女は目を輝かせて俺を見た。


 「やっぱり!あたしはここの店長やっているレイラというものです。いやー、噂の編入生をすぐさま見れるなんて今日は運がいいわ。お客さん、たぶん寮区域の店で初めて来たのここでしょう?」


 「そうですね。ここが初めてですね。」


 俺がそういうと、店長レイラさんは目を日本円マーク(¥)にして、不気味な笑い声をあげている。因みに、この国における通貨単位は奇しくもイェンである。


 「ぐへへ、これは使えるわね。…あぁ、それはそうと、店の者が失礼を働いたようで申し訳ありません。…ほら、あんたも謝る。」


 「ま、誠に申し訳ございません。」


 「い、いや、こちらこそすみません。こっちもよそ見していたものですから。」


 むしろ、失礼を働いたのは俺の方だ。申し訳なさで居た堪れない。


 「いえいえ、こちらも周りに気を配れずにお客様を困らせてしまいましたので、お客様は謝る必要はございませんよ?」


 「じゃあ、差し出がましいとは思うのですが、どちらにも非があったということでお互いこの件はなかったことにしませんか?」


 彼女に対する罪悪感は半端ないが、背に腹は代えられない。捕まるぐらいなら、とことん甘えてやる。


 「…あら、優しいのね。サラもそれでいいでしょう?」


 「え?はい!ありがとうございます!」


 なぜだろう。心が痛い。


 「では、お客様、本日は何をお求めに?」


 「えっと、調味料と食糧かな。今日の晩飯の材料が特に優先しなきゃいけないんだけど。」


 「なるほどなるほど。では、私がご案内いたしましょう。」


 「ありがとうございます。凄く助かります。」


 「じゃあ、サラ、私、この子の案内をするけど、その仕事はしっかり終わらせておいてちょうだい。」


 「は、はい。」


 「じゃあ、お客さん、お待たせいたしました。どうぞ、こちらです。」


 俺は後ろ髪を引かれる様に彼女を見たが、彼女は俺にお辞儀をするとそそくさと荷物を運び始めた。


 


 結局、店長さんのおかげで買いたいものは何でも揃った。凄いのは米があった。それも日本米とほぼ同等のジャポニカ種である。インディカ種や酒米というフェイクではなく、日本人がこよなく愛するジャポニカ種!

 …いかん、興奮のあまりはしゃいでしまった。

 他にも米を炊くための釜もあった。残念ながら炊飯器はなかったが、米を喰えるというだけでも僥倖だ。

 更に、魚醤ぎょしょう、マイナーなものとして、肉醬にくしょうまであった。勿論買った。ただ、穀醤こくしょうはなかった。とはいえ、製法は違えど醤油があるのは嬉しい。なんやかんやで作る料理は醤油が必要な料理が多いから本当に助かる。他にも野菜、肉多数。卵も買って、両手にはたくさんの荷物が。

 考えなしで欲しいものを買っていたら、女性の買い物に付き合わされ荷物をたくさん抱える羽目になった男のような状態になってしまった。これらを持って、部屋に戻ると考えたら気分が萎えてきたが俺の生活がかかっているので仕方がない。

 そうして、俺は部屋に辿り着き、片付けを行っている時、とあることに気付いた。


 調理器具が一切備え付けられていない。


 急いで片づけを終えた俺が慌ててさっきの店に行き、調理器具一式を買い付け、店長さんに生暖かい目で見られながら会計を済ませ、さっきの荷物と変わらないぐらい重いそれらを運んでようやく一息つけたのは余談である。







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