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遅れて大変申し訳ありません。
「ここが今日からあなたが生活する部屋です。番号は320ですね。」
彼女に着いていって思ったのは途轍もなく大きいなと言う事だった。寮が。
寮は大小合わせて百を超えるらしい。案内されている途中、最初は街中に寮はあると思ったのが、彼女の説明で建物全てが寮であると言われたときは流石に驚いた。案内されている途中で門を潜り抜けたのだが、あそこでルドワール学院関係者以外の人は立ち入りを止められるらしい。そして、中に入れば見渡す限りすべての建物が寮という事だ。なお、寮がある区域は学院からおよそ徒歩十分のところにある。
寮は年ごとに分けられているらしく、ここは中等部専用の寮の一つらしい。そこの三階の隅の部屋を俺の部屋として割り当てられた。因みにこの寮の最上階は三階なので入ってから一番遠い部屋でもある。
「寝具や一通りの家具は揃えてあります。本来は3~4人で過ごす部屋ですが健全な生活を送らせるため、男女の同室はできません。よって、現在、この部屋はあなた1人で使うことになりますが…、質問はありますか?」
ということは、男が三人以下の部屋はないと言う事か。ラッキーだな!
部屋は最大四人で暮らす物だけあって広い。形は1LDKの風呂・トイレ付き。LDKは中央に一部屋に纏められているので、要は2部屋存在する。それをしばらく(もしかしたら、卒業までずっと)一人で使えるわけだ。
まず、玄関を開けて目に入るのは廊下。その廊下を少し歩くとリビング兼ダイニング部屋が迎えてくれる。キッチンは部屋に出る前の廊下の脇に作られ水道、コンロ、冷蔵庫、食器棚等完備である。因みにこの世界では電気の代わりに魔石という不思議な石が存在し、人々の生活に組み込まれている。魔石は基本使い捨てなのだが、ここルドワール学院では中等部以上の寮で中でも希少な魔晶石を使った道具を各部屋に置いている。魔晶石は魔石と違い、中の魔力(動力源)が切れても人の手による補充が可能なエコ極まりない代物である。魔力は魔法を発動する際に消費されるエネルギーであり、魔法に長けた人物は大抵体内に宿す量が多い。それを直接魔晶石に流して補充するわけだ。噂によると魔晶石の補充ができることも進学の選考基準の一つに含まれているとかなんとか。まぁ、それはさておき、この中では魔晶石を用いているのは水道、コンロ、冷蔵庫、他に風呂、トイレ、照明などが挙げられる。
なお、リビング兼ダイニング部屋では大きな丸テーブルに四つの椅子が置かれ、廊下側から見て右手に二つ、奥に一つドアがある。廊下から右にある手前のドアに入るとトイレ。もう一つのドアの向こうには風呂がある。奥のドアを開けて入ると二段ベットが二つ並んであったので、ここは寝室であることが窺える。
驚いたことに、冷蔵庫は冷蔵室、野菜室、冷凍室と用途ごとに分かれていて、トイレも洋式と地球のと大して変わらないものが鎮座していた。
人間は利便性を追求するとどの世界でも似たようなものが生み出されるのだろうかと考えてしまうぐらい作りも精巧だった。唯一大きな違いは動力が電力か魔力かというところぐらいだ。
因みにこの説明はジュリエットさんが解説していたのに地球との比較を加えたものにしか過ぎない。
さて、ジュリエットさんの有り難い入居の注意事項や各道具の取り扱いの説明を受けて、俺は鍵を貰って昨晩まで泊まっていた宿を引き払いに行った。そして、もう一度、荷物をもって部屋へ入る。
しかし、やはり大きいな。ルドワール学院もここら一帯の学生街も寮部屋も。そりゃ、そうか。なんせ、王国唯一にして随一の教育機関で、今朝の学年第七位さん(名前なんだっけ?)の話によれば、生徒数だけで約五万人いる計算だ。他に教師などの関係者を含めると、数字だけで言えば、王国内でも大きな人の集団が学院一つで形成されているようなものだ。当然、必要数に合わせて住居を確保するとなるとそれだけ大きな空間を欲することになるわけだ。
だが、なんかこの寮部屋広すぎて寂しいな。一部屋3・4人で暮らす設計なのだから仕方ないが…。一人であれば気楽だが、一人だと寂しい。どうしようもない葛藤だ。
まぁ、ぐだぐだ言ったところでルームメイトが増えるわけでもないし、これから必要になる物、特に俺は自炊派なので食材を早急に確保しなければならないだろう。卵と肉と野菜は必須だ。主食は恐らくパンに…。
切実に米と炊飯器が欲しいのだが、いくら王都が流通の中心でいくら魔導家電が存在するからといって、麦が主戦力の王国では両方とも期待できそうにない。
無い物を欲しいとごねたところで無いのだから、仮に存在し、自分の目の前にあって買えるのなら買う。買えないのなら買うために手段を講じるし、無いなら、自分の存命中にこの世界のどこかに存在する米好きの天才が炊飯器を発明することを願うだけだ。何が言いたいかというと、買いたいには買いたいが、無いなら諦める。俺に発明は無理だ。
てなわけで、すっかり辺りが茜色から暗い紺色へ移り変わる中で散策兼食糧の調達に精を出しております。食料品店は徒歩五分のところにあったので、後で立ち寄るとして、今は近所の探索を行っている。
ただ、時間はあるものの切り上げようと思っている。理由は、俺が歩いていると矢鱈に女子が多く、俺を見ては「え?男だ!」と言って、歩みを止めてこっちを眺めているのだ。気恥ずかしいったらありゃしない。
そして、ついに我慢しきれなくなった俺は、来た道を引き返し、食料品店へ急いだ。好奇の目に曝されるということがいかに居心地が悪いか学べたことを今回の探索の収穫に、本命へと逃げるように踵を返した俺だった。
で、本命の食料品店なのだが、今まで感じた気まずさが全て吹き飛んだ。一度、入口と看板しか確認しなかったため気付かなかったが、結構大きい!日本でも、家の傍にあればと思うほどの品数!更に値段は激安!なんか興奮してきた!!
なんて、馬鹿なことを思いながら店内に踏み込んでいったせいだろう。人とぶつかってしまった。
「きゃっ!!」
「おっと!!」
重そうな荷物を抱えていたためか、ふらついて倒れそうになった相手を咄嗟の反応で支えた…、ところまでは良かったが、荷物が思いの外重すぎて、結局一緒に倒れこんだ。
どうやら、何かの下敷きになっているようだ。体が重い。それに何故か温もりを感じる。とにかく、脱出を図らなければ…。
俺は手を動かそうと試みた。左手は腕を何かに挟まれ、右手は何か柔らかいものを掴んでいるようだ。左手は引いて抜くしかなく、右手は上に乗っているものをどかしておく必要があるようだ。
「っん!!」
まず、左腕の拘束を解こうと引き抜き始めるが何処からか艶めかしい声が聞こえる。
「ちょっ、ちょっと、それは…!」
構わず、引く抜く力を強めたが、何故か挟む力も強まっていく。それに左腕を挟んでいる何かは妙に温かい。
「い、一回止めてください!ひゃん!や、やめて…!」
どうも、引き抜けそうもないので、右手に力を入れて上の物をどかそうとした。
「あん!こ、今度はそっち!!だ、駄目ぇ~!!」
さっきから何だ?人が動こうとする度に変な声を出しやがって!
俺は周りの状況を確かめるために何故閉じていたかもわからない瞼を開いた。そして、美少女と目が合い、それから、自分の置かれた状況に気付いた。
簡単にいえば、その美少女が俺の上に乗っかっているわけだが、まず体勢がおかしい。彼女は完全に俺の体の上に乗っておらず、上半身を俺の胸辺りに、下半身を左手付近に横たわっているわけだが、俺の左腕を挟む物は彼女の太ももで、右手が握っているのは彼女の胸だった。
何がどうしてこうなった??




