リリアーナ
「エドさん、お待たせ。」
気恥ずかしくてちょっとムスッとしながら帰ると、エドさんは目を逸らしながら言った。
「あぁ、おかえり。さっきはすまない。」
なーんかエドさん謝ってばっかだな。とりあえず謝罪はスルーで。
「エドさん、さっき笛吹いた時に、前の持ち主の金髪美少女が出てきて話せるようになったよ」
あ、敬語崩しちゃった。まぁいいか。
「リリアーナって言うんだって。笛を吹いたことで精神が繋がったみたい。」
「そんなことがあるのか…。そしてリリアーナ…」
「やっぱ伝説に出てくる人?」
「たぶん同一人物だろう。伝説ではリリアンと言われている。遥か昔、人族と魔族が一つだった頃、一人の男がユグドラシルの大木の枝を折った。それによって人々は魔術の恩恵を受けるようになったが、折られた枝からユグドラシルは徐々に弱り、長い時を経て世界の均衡が崩れ始めた。世界崩壊を恐れた人々は、召喚を行い巫女を呼んだ。巫女は聖なる笛でもってユグドラシルを再生させたという。ユグドラシル云々はともかくとして、巫女召喚の記述は確か2500年ほど前の歴史書に記述が残っているため、史実ではないかと言われている。」
「だって、リリアーナ、どうなの?」
『大体合ってるわね。ただ、人々が奪ったのは枝でなく、ユグドラシルのエネルギーそのものよ。カノン、エドの手を握ってくれる?そうすれば彼とも話せるわ。』
「エドさん、手を繋いでもいいですか?そうすればエドさんとも話せるってリリアーナが。」
「わかった…という事は、カノンが呼ばれたのはユグドラシルを再生させるためか?」
『んー、どうかしら。ユグドラシルは、私が完全に再生させたから、問題ないと思うのよね。別の企みがあるんじゃないかしら。でも多分、人族のエネルギーを強くして魔族並みに強くなりたいとか、そんな感じのしょうもない理由よ、きっと。』
リリアーナの身も蓋もない言葉にエドさんは口をつぐむ。
「そっか。じゃあ、召喚者には合わない方がいいよね。でね、エドさん。リリアーナが言ってたんだけど、送還術はエルフが知ってるんだって」
「エルフか…。それも伝説の存在だな」
エドさんは俯き、考え込む。
「リリアーナ、ユグドラシルの元にエルフはいるの?」
『私がユグドラシルを再生しに行った時は、居たわね。だいぶ時間が経っちゃったけど、エルフってほぼ寿命ないし、きっといるわよ。』
「なんかリリアーナの言うことって、軽いっていうかいまいち信用出来ないなー。」
『あら巫女様に向かって軽いとは失礼ね。プンプン』
「「……。」」
『コホン。とりあえず、ユグドラシルに行ってみたら?』
「どうやって行ったの?」
『分からないわ。勇者に連れて行ってもらったもの。でも、すごい大きい木だし、有名でしょ?』
これはまずい雰囲気…。嫌な予感がする。
「エドさん、知ってる?」
「いや、分からないな。そもそも実在していた事を今知った」
やっぱり!!
「無くなったのかな?」
『絶対そんなことないわよ!感じるもの!カノンも分かるでしょ?』
「いやちょっと分かんないです」
『もーー!でも絶対あるよ!』
ムキーッとなってるリリアーナはほっといて、エドさんの方を向く。
「やっぱその情報も、あるとしたら王都?」
「まぁ、そうだろうな。古い記録を掘り返してみれば、もしかしたら地図があるかもしれん。」
「じゃあ結局王都目指すってことですね。」
「そうなるな」
『もうっ、二人して無視してっ。あ、そういえばカノン、なんで飛竜に襲われた時自分を強化しなかったの?』
「確かにそうだ。カノンの防御力強化なら、飛竜のブレスも余裕で耐えられそうだ。」
リリアーナとエドさんが、不思議そうに聞いてくる。
「えっ、だって自分が強化できるなんてリリアーナの知識になかったよ!?」
『あ、当たり前だと思ってたからマニュアルに書くの忘れてた』
テヘペロって感じが伝わってくる。可愛くてウザい。でも、ウザさと可愛さでいうとそれでも可愛さの方が勝つからリリアーナはずるいと思う。
自己強化か。すごく便利そう。
「あっ、リリアーナ、そういえば強化って一個しかかけれないってエドが言ってたけど、どーなの?」
『あ、それはオリジナルを継承してるカノンなら複数かけれるわよ。一個しか出来ない理由はよく分からないけど、たぶん、傍流だからじゃないかしら』
「何個でも大丈夫なの?」
『経験的には、最高強度5個までなら多分誰でも大丈夫よ。でも、エドなんかだったらもっとかけれそうな気がするわね。そこら辺は、人によるわね。』
「そっかぁ。じゃあ、ちゃんと確認した方がいいね。」
また今度エドさんには限界に挑戦してもらおう。
「まぁ複数強化出来るなんて知られたらカノンが召喚者だってバレるだろうから、使う機会は少ないだろう」
エドさんは私をじっと見ながら言う。なんていうか、この世界の人って顔をじっと見て話すのね。エドさんって無駄にイケメンだから恥ずかしくてしょうがないよ。
「さて、今後の方針も決まったし、そろそろ飛竜の卵を採りに行っていいかな。親飛竜は丸焼きにしてしまったから安全に行ける」
忘れてた!
「うん、行こう。じゃ、リリアーナ、バイバイ。またお話ししようね」
『えーん寂しいけどバイバーイ』
よし、じゃ、行くかー!
リリアーナはナビゲーターです。
読んでくれて本当にありがとうございます。