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 やがて。

 日本に春が来た。

 温かい日差しが降り注ぎ、花という花はその蕾の中身を一斉に解放する。

 東北のとある町にも、春が来た。


 山いっぱいに広がる桜の花に混じって、その木は桜ではなく白い花を咲かせていた。

 だれが言い始めたのかは分からないが、地域の人から「白い鶴」と呼ばれるようになったその木の太い枝の一本に、伊吹と水尾は座っていた。

「しかし、賑やかなもんだなぁ」

 酒の入ったコップを片手に、伊吹は眼下で花見にいそしんでいる人間を見下ろす。

 その隣では、団子を食べながら同じように下を見下ろす水尾の姿があった。

「この木も、花どころか葉っぱまで散っちゃった時には、この春はどうなるんだとおもったが、なんとか今年も咲いてくれて、よかったじゃぁないか」

 織羽がこの地に来たとき、彼女との約束を果たしたその花は役目の終わりだと言わんばかりに散り去った。

 一度も散った事の無い花が知らないうちに消えていたこの出来事は、地元の人間の中でも大きかったらしく、大勢の人が集まっては木の皮や根元を持っていき調べた。頑固に花びらを探していた老人もいたが、果たして見つかったかどうか。

 結局だれも真相をつかむ事が出来ずに迎えたこの春、周りの桜に混ざってその木は再び白い花を満開に咲かせた。



「で、あの子達は今度来るのかい? 花見しに」

 水尾が伊吹に声をかけた。

 伊吹はコップに酒を注ぎながら、明るい声で返す。

「おう。多分、明後日くらいにはいったん東京にくるんじゃないか? この前、織羽が言ってたしな」

 コップに注いだばかりの酒をぐいっと口に入れながら、伊吹は先日見送った鶴の娘の事を思い出す。



 数日前、伊吹と水尾の前に織羽がひょっこり現れた。あのおじいさん、おばあさんも一緒だ。

 月に移住するため、その挨拶と一連の出来事に対するお礼をしに、とその鶴は言っていた。

 二人の老人とその間に挟まれた織羽は、まるで年の離れた、本当に仲むつまじい親子のようだった。

「今度こそ、いつまでも仲良く暮らします」

 織羽は笑顔で言っていた。おじいさんも、おばあさんも、涙を流さんばかりに何度も何度も礼を言っていた。

 二人は、なんども口にしていた。

「最高の娘をありがとう」

 織羽は、なんども口にしていた。

「あの時、私に声をかけてくれてありがとう」



「正直、俺は後悔していたんだよ。あの娘さんに声をかけたのは」

 伊吹はコップの中に入り込んだ白い花びらを見つめながら、しんみりと話し出した。

「あの時、罠にかかった鶴をじいさんが助けたのを見た時は、面白いもん見たなと思ったさ。あの鶴の娘に声をかけたのも『鶴が人間に恩返しか、面白そうだったなぁ』と軽く思っただけの事。あの後に、まさかあんな事が起きるとは、分かっていたような分かってなかったような。……しかも俺達はなぁ」

 よっこらせと声を漏らしながら、伊吹は座っていた枝にひょいと立ち上がる。うーんと腰を伸ばす彼の横で、小さく笑って水尾がその言葉の続きを言う。

()だかららねぇ。人間が優しくするところなんざ、見た事もないからねぇ。ちょっと、見てみたいってのも、あったねぇ」



 伊吹と水尾というのは、仮の名前だ。人間と同じ立場で生きていくための、偽名だ。

 といっても、では彼らの本当の名前はというと、それも無いに等しい。人として生まれた時にはちゃんと名前をもらったはずだが、人間とは違ういきもの(バケモノ)になってから長く立った身では、もはや記憶の片隅にすら残っていない。

 人として生まれ、人の道を外れたその末路。それが()だ。

 彼らが鬼として人々から恐れられるようになってから、人々は彼らから人としての名前を奪い、変わりに自分達が付けた鬼としての呼び名を貼付けた。

 大酒飲みの鬼、酒呑童子。

 産まれた時から鬼の血を引いていると蔑まれた、茨木童子。

 それが彼らが唯一の拠り所とする、本名というより通称だ。

 伊吹、水尾というのは、それぞれの生まれ故郷の地の名前だ。とりあえず名前として呼び合っても問題のない響きだったため、人間達の中にいるときはこの名前で呼び合っている。 

 鬼だけでなく、人とは違う存在に対して優しくしてくれる人間なんてそうそういない。特に鬼なんかは人の目につけばいつも、退治だの追い出せだの、そればかり。だから、あの時鶴を助けたのを偶然見かけたときは、思わず二人で顔を見合わせてしまった程だ。

 だから声をかけたのだ。



「そろそろ引き上げるぞー」

「あいよーっと」

 伊吹の声を聞いて、水尾もどっこいしょと立ち上がる。

 そして、鶴の名がついた白い花を咲かせる木の枝から、木々の根元で盛り上がる人間達を一瞥する。

「明日にでも、やとの坊やと打ち合わせでもしなきゃな」

「またあの、兎の嬢ちゃん達来るものねぇ」

「あぁ。今度は、じいさん達も一緒だ。楽しい花見にしてやらなきゃな」

 そういって小さく花をならした酒呑童子と、その隣に立つ茨木童子は——





 それからしばらくたったある日。

「お久しぶりです、姫様。織羽嬢もお元気そうで」

 やとは笑顔で出迎える。

 東京のとある駅前の広場で、月からの電撃ツアーは再び始まる。



 さてと伊吹さん、これでいいのでしょうか……?


伊吹「ふんふんふん……。なんだか、最後の表現をうやむやにしてテキトーに切り上げた感じがするなぁ」


 ひ、ひぃ! そっそれは……。


水尾「まぁまぁ、この話は無理矢理書いてもらったようなものだからさぁ。許してやっても、いいんじゃないんかい?」

伊吹「うーん。そんなものか? この話は、自己満足で済むものじゃ無いんだぞ。読者がいるんだぞ。せっかくここまで読んでくれて『最後終わり方イマイチだったなぁ』て思われたら、謝って済むレベルじゃないだろう」

水尾「そうは言ってもさぁ、ホラ、見てご覧よ、あの作者。さっきっから机の上に突っ伏しちゃって、死にかけてるよ」

伊吹「……しっかたねぇなぁ。わーったよ、これで完結させりゃいいんだろ。ほら、そろそろ俺たちもひっこむぞ」

水尾「はいはいー」


 ようやくお許しをいただけました。もうくんな、しっしっ。


 改めまして、こんにちは。

 今度こそ完結です。最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

 ただいま私はパソコンの前で屍と化し、もう一文字も書く気がありません!

 なので簡単にご挨拶を。


 この作品は、私がネットに小説を投稿するようになって初めて完結した作品です。

 なので、誤字脱字、「こりゃねーよ」という表現、多々あるかと思います。

 その時は優しく、こそっと教えて下されば速攻で直します。


 更新の遅さにもめげずに読んで下さった方々。さらにはブックマークまでしていただいた方々。

 レビューを書いて下さった上地様。

 企画締め切り直前に連絡しても、怒る事無く丁寧に返事をして下さったナツ様。

 その他、もうたくさんの方々。本当にありがとうございました。


 あ、ちなみにですが、私は「タケノコ」派です。

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