第06話
休みに入り、皆と別れコーラルに帰って来た。
試験の結果は殆ど満点で、何故か鍛冶と裁縫も満点だった。ノエルもそうだったらしいので、工夫が認められたのだろう。これはもっと遊んでいいですよという事と受け止めよう。
「ただいまー」
「おかえり」「おかえりなさい」「アー」
何と、家族総出でお迎えしてくれた。
「この子が私の弟?」
「ええ、ルードよ」
「ルード、お姉ちゃんですよー」
「アーッ」
ルードは青緑の髪に緑の瞳の母親似の可愛い子だった。私の呼び掛けに笑顔で返してくれるのが嬉しい。
抱かして貰ったり、色々話し掛けたりして、少しするとルードの目が塞がってきた。「あらあら、おねむみたいね。寝かせてくるわ」
母さんが私からルードを取り上げると両親の部屋にある、ベビーベッドに連れて行った。
「学園はどうだ?」
「うん、とても楽しいよ。友達も出来たし、授業も面白いし」
「そうか。無茶な事はしてないか?」
「…うん、大丈夫だよ」
「…まあいい、無事に帰ってきてくれて嬉しいよ。休みの間はゆっくりしなさい」
「うん」
…暇だなー。
帰ってきて数日、ルードのお世話をしたり、母さんの薬作りを手伝ったりしていたけど、ちょっと退屈してきた。
…うん、決めた!
「母さん、ちょっといい?」
「どうしたの?」
「お願いがあるんだけど…」
それから、数日後。
「おぉ、凄いね」
私の目の前には立派な炉が有った。家に私の作業場を作って貰ったのだ。これで鍛冶作業が家で出来る。ノエルと魔力や闘気を込めての加工がかなり楽しかったので、この休みの間頑張って、ミスリルを扱えるようになりたいと思う。フィアナがびっくりするような性能のミスリルの杖を休み明けにプレゼントするのが目標だ。
今僕は槍術の練習を家の庭でしている。でも成長出来ている気がしない。このままだとシェラハともっと差が付きそうだ。シェラハに頼めば見てくれるかもしれないけどそれは嫌だし、どうしよう?
悩みながら槍を振っていると、僕を呼ぶ声に振り返る。
「ローレン、そんなやり方じゃ意味ないぞ。ちょっと着いて来い」
父さんに言われるまま着いて行く。僕の父さんはシェラハのお父さんと同じ漁師で、今までは僕の行動に口出す事もなく、シェラハと魔物退治に行くときも、シェラハと同じ学園に行きたいと言った時も、頑張って来いとだけ言って送り出してくれた。いきなり連れられた事を不思議に思いつつも着いて行くと僕の家の二倍程もありそうな家に着く。
「父さん、ここは?」
「俺の友人の家だ。足を悪くして辞めたが昔騎士だった奴だ。槍の腕前はなかなかのものだったらしいし、騎士だったこともあり守りに特化した戦い方をする。お前と属性も同じだから得るものがあると思う。話は通してあるから頑張って来い」
父さんは僕の事をよく見てくれていたみたいだ。悩んでいた事がバレバレだったのがちょっと恥ずかしいけど嬉しかったりもする。
「ありがとう、父さん。僕頑張るよ」
もっと強くなって、休み明けに皆をびっくりさせよう。
「では参ります。お兄様」
「ああ、かかって来なさい」
今私は、お兄様であるフォード=カトラルと相対している。王都にある実家に帰って来た私は、王都にある学校の高等部に通うお兄様に、成長を見てもらう為お願いしたのだ。
私は始めから私が使える最強魔術を唱える。雷を伴う嵐、サンダーストームの魔術を。
兄は私の詠唱が終わるまで待ってくれて、それを雷の壁を作り打ち消す。
やっぱり私の魔術だと兄には効果が無いようだ。レベルの低い魔術で相殺されてしまう。
なので、ここからはシェラハに教えてもらった魔法を使う。まだ充分会得出来てはいないが、これなら兄にも通用するはずだ。
先ずは雷撃を兄の左右から放つ。兄は一瞬驚いた顔をしたが直ぐに後方に下がって避ける。
私はその雷撃を曲げ、兄を追わせる。兄も雷撃を作り私の雷撃を打ち消す。
今度は圧縮した風の弾を幾つも作り、兄に連続で放つ。一発目は肩に当たり、二発目まで当てる事が出来たが兄が纏った風の衣にそれ以降は全て防がれる。
私が先行出来たのはそこまでだった。私が無詠唱で出来る攻撃では兄の纏う風の衣を貫く事は出来ず、詠唱しようとした所で兄に反撃され、兄の作った風に押し潰された。
「フィアナ、強くなったね。見違えたよ」
「ありがとうございます。ですが殆ど何も通用しませんでした」
倒れた私に手を貸しつつ兄にほめられる。
「いや、そんなことは無いよ。あの風弾は痛かったしね。無詠唱であれだけのことが出来るようになっているのはびっくりしたよ」
「はい、それは学園で出来た友達に教えてもらったんです。その友達にはまだ全然敵いませんが」
「へぇ、それは凄いねフィアナが及ばないなんて」
「ですので、この休みの間に強くなりたいのです」
「うん、僕は喜んで協力するよ。父さんの手伝いとかがあるからそんなに時間取れないかも知れないけど」
「いえ、とてもありがたいです。よろしくお願いします」
お兄様、それともう直ぐ帰って来る予定のお姉様に沢山相手してもらおう。出来ればお父様とお母様にも相手して欲しいけどお兄様以上に時間が取れないだろうから、厳しいかもだけど。
休みの間にシェラハに魔法の腕だけでも追いついて見せよう。
やった。親父が家にいるようだ。
「ただいまー、親父、修行付けてくれ!」
「おかえり。こらっ!全く、帰って早々何言ってるの。父さんも仕事から帰ってきたばかりなのよ。先ずはゆっくり休みなさい」
親父に修行をつけてもらいたくて声を張り上げたら、お袋に叱られた。
「いや、でもたくさん修行しないと不味いんだよ」
「まだ学園一年目じゃない、そんなに焦らなくてもいいわよ」
「ふぁー…ん、どうした?」
お袋と口論していると、親父が欠伸をしながら部屋から出てくる。
「おっ、親父修行付けてくれ!」
「んー?別にいいが。また随分張り切ってるな」
「もっと強くならないといけないんだ!」
「ふーん?まあいいや。じゃあ今の腕を見てやる。外に出ろ」
「よし!行くぞ親父!」
「はぁ、全く落ち着き無いわね」
ため息をついているお袋に構うことなく、大剣以外の荷物を置いて外に飛び出す。
外の少し開けている所で親父と相対する。
親父が構えたと同時に突っ込む。先ずは自分の出せる最高の一撃を見せたいと思う。
シェラハに一撃対決で負けた後、どうして威力に差が出たかを色々説明してくれた。
が、殆ど意味がわからなかった。シェラハの頭はどうかしていると思う。
なので力の込め方を色々試しつつ訓練したら、と言われた。
色々試しつつ感覚で判断して、自分に最適な闘気の使い方と力の使い方を知ればいいと。
それから思いつく限りのやり方で、剣を振ってみた。
そうして出来た自分の必殺技を親父にぶつけてみた。
「ほう」
その攻撃は親父に防がれるが、今までは簡単に弾き返されていたので強くなれていると思う。
そこから二撃、三撃と続けるが今度は弾き返されてしまう。連撃になると上手く力を込められないのはなんとかしないといけないと思う。
それから何度か攻撃させてもらったところで、大きく弾き返され剣を喉の手前に突きつけられ、終わった。
「なかなか上達したな」
「ホントか!?よしっ!」
「短い間に剣の使い方が上手くなってる。学園に入れたのは正解だったな、良い教師がいるようだ」
まあ、教えてくれたのは同い年の女だけどな。
「LVも上がって、身体も作られてきているし、一つ今のお前が使えるであろう剣技を教えてやる」
「ほんとかっ!?」
「ああ、この休みの間に頑張って習得しろよ」
「おう!任せとけ!」
やった、初めて技を教えてもらえる。絶対に覚えて、シェラハやローレンを驚かせてやろう。