幕間02話
私はフィアナ=カトラル。カトラル侯爵家の次女で、今年フローラル学園に入学したわ。
私の両親はこの国で宮廷魔術士をしており、父親は宮廷魔術士長をしている。
カトラル侯爵家は国に魔法関係で尽くしてきた歴史があり、兄と姉が一人ずつ居る為そこまで求められはしないが、私も小さい頃から魔術や魔法学を叩きこまれた。
なので、才能も努力も負けない自信があったが、この学園に入って一人の少女に驚かされた。
その子はルームメイトのシェラハ。彼女の使う魔法は、私が教えられた魔術と違った。
魔力レベルや魔術の威力等は私とそう変わらないが、兄や姉は疎か、両親と同じレベルの魔術師に思える位、応用の利く自由な魔法だった。その後も闘気レベルや武器の腕前、それだけ強いのに魔具科に行ったり等、色々驚かされるが、彼女に魔法を教わり、魔法を競い、魔法を開発するのはとても楽しく、彼女とルームメイトだった幸運に感謝したいと思う。
ローレンとユリウスとシェラハと私で闘技会に出る事を約束して、四人で訓練する事になった。
途中からシェラハが魔具科で出来た友達のノエルを連れてきて五人になる。
今はその五人でドズルの森に入った所だ。
今回シェラハは索敵に集中するらしい。シェラハの霧魔法は凄く便利だ。その話をしていたら、私にも出来るんじゃないかと言われた。
シェラハに魔法を教えられて、二人で開発したりしていたが、まだ自分の思ったように魔法を使える程慣れていない。
これを機会に出来るようになるべきかも知れない。
…風魔法は空気の流れを操れる。嵐魔法は単純に強くなるだけじゃなくそれに色々付加出来る。…微小な空気の流れの空間を作り出し、その流れが妨げられれば其処に何かあるということで…、…流れの変わりかたで止まってるか動いているか判断して…、風が当たった時に魔力に反応するようにして…。
…これで取り敢えず使ってみよう。
…やっぱり制御と把握が難しい。色々改良が必要だけど、でもなんとなく使い方が見えたわ。後は何度も試して頑張るだけね。
魔法を色々試していたら、ギガントスパイダーの巣に着いた。
二人ずつで対応するらしい。最近シェラハに指示を任せっきりだけど、これが一番良さそうだし、問題無いでしょう。
ローレンと二人で蜘蛛一匹と戦う事になった訳だけど、先ずは様子見で雷撃を放つ。
雷撃は蜘蛛の身体の一部を焦がした。怒った蜘蛛が私に向かって来たが、ローレンが立ちふさがり足止めする。
ローレンが蜘蛛の攻撃は危なげなく防げており、私の雷撃が少しずつダメージを与える。
八回程当てた所で、蜘蛛は動かなくなった。
ギガントスパイダーはDランクの魔物だが、二人で楽に倒せる位私達は強くなっているようだ。
依頼は三匹で、ユリウス達が二匹目に向かったので、素材の剥ぎ取りにかかる。
依頼の分の蜘蛛を倒し、帰り道ブラウンウルフがあまりにも居ない事を変に思い、シェラハが索敵範囲を大きく広げる。
結果、ウルフの群が村に向かっているらしい事が解った。
ブラウンウルフはFランク、群でEランクの魔物だが、ブラックウルフは一匹でDランク、群だとCランクの魔物でブラックウルフリーダーはBランクの魔物である。
そんな奴等の群が百匹程…村の壊滅の恐れがある。
村にはそんなに冒険者は居なかったので、戦える人もそう多くはないでしょう。
私とシェラハが先行し村に行き、ローレン達三人は群の後ろから襲う事になった。
村に着くと村人達は戦闘態勢で集まっていた。
私達に少し遅れて、ウルフの群が来た為、先ずはシェラハとの複合魔法で数を減らす。
ブラウンウルフしか倒せなかったが、ブラウンウルフは半分程に減っている。
シェラハがリーダーに一人で向かっていき、私は村人の様子を見つつ、ブラックウルフを相手取る。
「くっ、結構素早いわね」
雷撃を数匹まとめて当たるように放つが一匹以外には避わされた。
ローレン達も苦戦しているようだ。
ローレンはノエルも庇っている為、反撃が出来ていないし、ノエルはブラックウルフの相手は厳しい、ユリウスは戦えているが一匹一匹に時間が掛かりそうだ。
その時、シェラハとブラックウルフリーダーが白い霧で包まれて見えなくなる。
少し心配だけど、任せるしかない。私達は犠牲を出すことなく、こいつらを仕留めなければ。
「サンダーケージ!」
とにかく数を減らさなければ拙いので、少し固まっている場所に雷の檻を発生する。
この檻は完成と同時に内側に向かって収束していく。
三匹のブラックウルフを捕まえる事が出来た。なんとか出ようとしているが感電して倒れていく。脅威と思われたのか、六匹のブラックウルフが私に向かってきた。
私は風を纏うと、他の人が居ない場所に誘導する。一番近い一匹が飛びかかってきた。私は避わしつつ、杖でぶん殴る。
シェラハと偶に近接した状態での訓練もしていて良かった。
人の居ない所まで来たので、風魔法でブラックウルフを一ヶ所にまとめつつ、雷の檻を発生する。敵の数も減ってきたが、こっちの怪我人も増えている。動けない状態の人もチラホラ見られる。
「怪我の軽い人は怪我の重い人を連れて下がって下さい!私がフォローします!」
私は下がる人達をフォローする為、ウルフが近付けないよう魔法を放つ。今の状況を確認すると、ブラックウルフが後十匹位、ブラウンウルフは残り数匹、リーダーはまだシェラハと白い霧の中、こっちは村の人が五人と私達四人だけになっている。
私の魔力も残り少なく、大技は使えない。数を減らすのはユリウスに任せ、フォローに徹する事にした。
風で足止めしたり、雷撃を偶に放つ、そうやって少しずつ敵の数を減らしていると、白い霧が解ける。
シェラハもリーダーも満身創痍に見えた。シェラハのあんなに余裕のない表情は初めて見る。
だけど魔力の無い私ではどうする事も出来ない。ローレンは行きたそうにしていたが、ローレンがいるから此方の被害が少なく済んでいる。ローレンもそれがわかっているのか、シェラハを信じてブラックウルフを倒す事を優先するようだ。
私達の心配をよそに、こっちが全部倒すより早く、シェラハ一人でリーダーを倒してしまった。残りのウルフは逃げていく。
私は魔力切れでの頭痛を我慢しながら、周りの状況を確認する。
シェラハはローレンが負ぶっていき、ユリウスとノエルは何とか自分で動けるようだ。最後まで残った村の人もそこまで酷い怪我は無いようなので、安心してユリウスとノエルと一緒に村に帰る事にした。
シェラハは寝ちゃったらしい。私達は治療をしてもらった後、ローレンは嫌がるユリウスを連れて置いてきた荷物を取りに行った。私はノエルと少し話しながら休憩することにした。
「ちょっと危なかったわね。シェラハがもし負けていたら拙い事になってたわ」
「うん。でも一人で倒せるとは思わなかった」
「そうね、今の状態でBランクに勝てるなんて、成長したらどれほどになるのかしらね?」
「私も頑張らないと」
「そう、でも焦らなくても良いわよ。今でも十分強くなってるから」
「うん」
話していると、ギルドの人が呼びに来た。ギルドまで来て欲しいらしい。シェラハが起きて、今居ない二人が帰ったら行く事を伝えた。
その後、シェラハも起きてギルドに行き、報酬を貰う。
宿に帰ったら宴会が行われていた。
…全く、あのバカは何をやってるんだか。
ユリウスが剣を振り回している。酒を飲んだらしい、褒められておだてられたらしいが、何で剣を振り回しているかはよくわからない。
私は手に弱い雷を纏わせると、思いっきりユリウスの頭を叩いた。
ユリウスは気絶したようで、そのままぶっ倒れた。
「ローレン、部屋に運んでやって」
「わかった」
後をローレンに任せると、私達も疲れていた為、そこそこで切り上げて、部屋で休んだ。
今、私は魔術科の授業で、訓練場で実習中である。もう直ぐ試験が近い事もあって皆気合いが入っている。
私はシェラハの氷霧のように、雷と嵐魔法を合わせた魔法を使えないか、試していた。
雷を伴う嵐を生み出すまでは出来る。だけど制御と維持が難しい。魔力も技術もまだまだ足りてないようだ。
今は諦める事にして、風による索敵を練習する事にする。目をつぶって、周りの生徒の動向を知る事を目標に練習する。
完成までは届かないが、思うように使えるようにはなってきた。
…はぁ、最近授業が自習ばっかりになっている。他の生徒は上級魔法を使える者が私の他に二人しか居らず、その二人もそれ程使いこなせていない。先生はレベルの低い者の指導が中心の為、実習がつまらなくなってきている。ローレンやユリウスが羨ましい、お互いがライバルとしていつでも競えて、キャロルやシュラといった身近な壁になる存在もいる。
やっぱりシェラハに魔術科に来て欲しかった。
試験も無事終わり、魔術科で一番の成績を取れた。休みに入れば王都に帰るつもりだ。
父と母に魔法を見て貰い、シェラハに負けない魔術師になって、学園に戻って来よう。