押愛=自由なき世界
血にまみれた、明るい朝を曖昧な感情を抱きつつ、迎える。
『吸血鬼』に頸動脈を食いちぎられ、出血多量で苦しみながら血を吸われた、中年の女性。
繁華街で“誘った”時に着ていた、派手な深紅のドレスは、自らの血液に濡れて、もっと赤黒く染まっていた。
女性の首筋には大きな穴がぽっかりと空いており、その周辺の皮膚はしぼんでいた。
まだ血は残っているのだろうが、全て吸い付くす程美味いものではない。
ー愛してもいない者の血など、泥水以下なのだ。
しかし、恋をしていない期間に生存する為には、吐きたくなるような液体でも、同じ【血】として吸うしかないのだ。
俺は、毎日、自分の身体を売り、誘いに乗った女性の首筋に食らいつき、血を吸う。
(もう…こんなことはしたくない…)
愛していない女に快感を与えるフリをして、どんどん黒くなっていく自分が嫌だった。
ー1人の吸血鬼は、決断する。
この、自らの嘘で塗り固めたこの街を、出て行く事に決めたのだ。
●◯●
「本当ですか!?」
錆びれたビルの狭間から入る、一部の人間しか知らない、秘密の喫茶店で、俺は酒を呷り、そして吹き出した。
「……やめてくれ、人前で感情を露にするのは」
冷たく言い放つバーテンダーを気にせず、彼の首につかみかかり、もう一度聞いた。
「俺を、こんな俺でも、雇ってくれる所があるのか!?」
「しかも、吸血鬼ならもっといいだなんて言う雇い主がいるのか!?」
バーテンダーは、テーブル下から住所の書かれたメモを取り出して、俺に突きつけた。
「早くそこに行け。ここから消えろ」
ー俺は、新たなる出会いを、そこで見つけることになる____。
 




