【三題噺】夕陽のガンマン
──二人のガンマン、とある街にて相対す。
狙った獲物は百発百中、《クイックシューター》の異名を持つ二丁拳銃の使い手ジョン・シルバー。
対するは、一発必殺が信条のリボルバーに魅入られし、《ガン・エンジェル》の異名を持つ女メル・ゴールド。
暗雲立ち込め、雷音轟く荒れた天候の下、二人は殺気を放ちつつ佇んでいた。
先に口火を切ったのは、ジョンの方だった。
「よぉ、エンジェル。遺言はもう済ませたかよ?」
「ふん。遺言を書き残す相手もいないからね、必要ない。そっちこそどうなのさ?」
「俺も似たようなもんだ。ま、あえて残すなら、あて先はお前にしとくぜ。俺が死んだら、銃は売っぱらって金に変えちまってくれ。俺の相棒が、他の奴らに使われるのは我慢ならねえからな」
「良いだろう。冥土の土産に、それくらいの望みは叶えてやろう」
それが二人の、最期の言葉となった。
もはや言葉は必要ない。
ガンマンであるならば、互いのプライドを銃に託し、一発の弾丸で全てを語ろう。
空気は次第に重くなり、二人の間を吹き抜ける風は冷えてきていた。
同じタイミングでゆっくりと右手を上げ、腰のホルダーに収めた銃のグリップに指が触れる。
場の緊張感がピークに達しようとした、その時。
──ピシャーン! ゴロゴロゴロ⋯⋯。
近くの荒野に雷が落ちた。
同時に凄まじい雷雨が降り注ぐ。
「ちっ。おい、この決着はひとまずお預けだ! こんな天気じゃあ狙いすら付けられねえ!」
「同感!」
意見が一致した二人は、急いで近くの酒場に駆け込んだ。
「いらっしゃい」
酒場マスターは二人にタオルを投げ渡し、伝票を取り出した。
「突然の嵐の中、災難だったようで。ホットミルクで温まれますかな?」
「ああ。もらおうか」
「同じく」
「かしこまりました」
オーダーを受けたマスターは、早速ドリンク作成に取り掛かった。
初めて入った酒場の店内を見渡していたジョンは、やがてあるものに目が止まった。
「あれは何だ?」
カウンターの隅に置かれた、洒落た雰囲気には到底似つかわしくない、古びた黒い筒。
手に取ってみると、それは見た目の重厚さに反して軽く、蓋のような部分にはレンズのようなものが嵌められていた。
初めて見る奇妙な筒を興味津々で調べているジョンの姿に、隣で見ていたメルは思わず苦笑した。
「ふっ。初めて見るのか?」
「ああ。お前は、これが何なのか知っているのか?」
「それは、東洋の娯楽品さ。えーと、何て言ったか⋯⋯」
「万華鏡、ですよ」
「そうだ、万華鏡だ!」
マスターはホットミルクの入ったカップを二つ、それぞれの手前に置いた。
ジョンは差し出されたカップの取っ手に指をかけながら、マスターに尋ねた。
「マスター、万華鏡ってなんだ?」
「遠く東の異国に伝わる、娯楽品です。筒の下の穴から、窓の外に向かって覗いて見てください」
「お、おぉ⋯⋯。⋯⋯うおっ! 何だこれ、すげぇ!」
穴から覗き見た筒の中は、摩訶不思議な光景が広がっていた。
麦やら干からびた果実が色とりどりに輝いており、それが無数の鏡に映って無数に増殖しているように見えていた。
しかも、筒を回し、角度を変える毎に、筒の中の風景はガラリと変わっていった。
「面白いでしょう? 筒の中に薄い鏡が数枚入っており、中に入れた物を美しく、幻想的に映し出すのです。私も初めて見た時、あなたのように年甲斐もなくはしゃいでしまいました」
「すげぇな⋯⋯。これ、誰からもらったんだ?」
「異国の旅商人ですよ。お酒の仕入れの時に、お近づきの印にといただいたものです」
「そうか⋯⋯」
「ちなみに、中の食材は既に賞味期限切れですからね? 食べようとは思わないようお願いします」
「そんな事ねえよ!」
「ハハハ⋯⋯」
場が賑やかな雰囲気に包まれ、いつしか二人は、外の嵐の事など忘れてしまっていた。
外から夕陽の光が店内に差し込み、嵐が過ぎさった事を告げた。
「どうやら、嵐は去ったようですな」
「そうだな⋯⋯。マスター、お勘定だ」
「では、私もそろそろ行くとしよう」
二人はマスターに代金を支払い、外に出た。
暗雲は既に遠くの空に去っており、晴れた空にはうっすらと虹がかかっていた。
「通り雨だったようだな⋯⋯」
「ったく、嵐の癖に過ぎ去るのが早すぎるだろう⋯⋯」
「何だ? もっと万華鏡で遊びたかったのか?」
「ふん。うるせえ」
ジョンはそっぽを向き、陽が沈む方へと歩き出した。
「⋯⋯決着は次回に持ち越しだ。覚えておけ」
「分かっているさ。その時が来たら、改めて決闘を受けよう」
「「互いの誇りを、銃に賭けてな」」
ジョンは、そのまま振り向かずに去っていった。
メルはその場に佇み、ジョンの後ろ姿を見送っていた。
夕陽に照らされ、伸びたジョンの影法師がメルの影と重なった。




