第4話 お守りのち大金
「……なあ、雪那、1つだけ訊いてもいいか?」
俺は、気がつけば、そう口にしていた。
「良いけど……どうしたの?」
「いやさ……そのお守り、なんで、そんなにボロボロなんだ……?」
俺は、雪那が握っているお守りに視線を向けながら、そう質問した。
「えっ……このお守り? ……本当だ、いつの間にかにボロボロに……」
雪那は、自分でも気づいていない様子だった。
「これで三個目なんだけどな……。ずっと握ってたら、ボロボロになっちゃったみたい」
「っ……そ、そっか……」
雪那は、ジロジロとお守りを見つめる。
お守りには、『足の守護』と書かれていた。
足専用のお守り……?
……雪那が足を悪くしたなんて話、聞いたことないし……十中八九、俺の為に手に入れたものだろう。
「……もしかして、祈ってるだけのあたしに、失望した?」
すると、突然、雪那が暗い表情で呟いた。
「え……?」
「そうだよね……。でも、あたしは、残念なことにユウの怪我に対して、何もできない……お医者さんだから、診てあげることも治療してあげることもできない……だから、こうやって、祈ることしかできないの」
雪那は、お守りをギュッと握りしめると、光ない瞳で、俺をじっと見つめて――
「でもね、だからこそ、沢山、祈ったよ。多分、一日の殆どは祈ってたと思うな……」
そう言った。
「っ……そ、そっか……」
雪那も花恋と同じかよぉ……!
俺に助けられただけだよな?
それだけ、普通、ここまで病むか?
俺は別に死んだわけではなく、足を骨折しただけで、ちゃんと生きてるぞ?
「え、えっと……俺の無事を祈ってくれたのは凄く嬉しいけど……そこまで、俺のことを気にしすぎる必要はないんだぞ?」
「……それは無理」
「だって、ユウは命っていう全てを投げ捨ててでも、あたし達を助けたんだよ? なら、あたしだって、全てを捨てるくらいの覚悟はするべきでしょ?」
「そ、それは……」
俺のことを引き合いに出されると、何も言えなかった。
「……もしかして」
すると、雪那は何かに気がついたかのように、目を見開いた。
「あたしは……邪魔、だった?」
「え?」
「あたしなんかに心配されること自体、嫌だった? ……そうだよね、元々、あたしは貴方に酷いことを思ってたし……嫌われてて当然だよね」
雪那の表情は――絶望一色に染まっていた。
手はブルブルと震えており、瞳は焦点があっておらず、虚ろであったのだ。
「雪那? 別に、俺はそんなこと思ってない――」
「――ユウは……優しいからさ、そうやって気を遣ってくれてるんだよね」
「え……? い、いや、違っ――」
「――今日、ここに来るのも迷った。あたしに、あなたの側にいる資格があるのかなって」
だ、ダメだ。何を言おうとしても、雪那に遮られる……!
そして、雪那は、そのまま、矢継ぎ早に言葉を連ねる。
「ユウは優しいから、あたしを突き放せない。なら……あたしの方から、ユウと距離を取ってあげるべきなのかな……って。そっちのほうが、ユウは幸せなんじゃないかなって……思うの」
「ねえ、お願いだから教えて……正直に教えて? あたしは邪魔? 二度と現れないほうが良い? ……もしもそうなら、正直に教えて……お願いだから」
雪那は、バッと顔を上げると――
「もう、これ以上、貴方を苦しませたくないの……」
雪那は、絞り出すような声で、言った。
彼女の顔は、涙で濡れており、瞳は不安に揺れている。
まるで……捨てられたくない子犬のようだった。
「邪魔な訳、無いだろ!」
気がつけば俺は、そう叫んでいた。
「え……」
「雪那は勘違いしてるよ。俺は、雪那のこと、嫌だなんて思ってない。邪魔だなんて思ってない。絶対にそれだけは無い……ッ!」
「……そ、そう? ……本当に正直に言っていいんだよ?」
「これが俺の本音だよ。今日、雪那がお見舞いに来てくれて、俺は本当に嬉しかったんだ」
「ッ……そ、そっか……」
雪那は、少し恥ずかしげに目を逸らす。
どうやら、嬉しかったようだ。
よし、この調子だ。
この調子で、雪那の心の曇りを晴らしてやる……!
「俺は雪那が側に居てくれたら嬉しいし、好きなだけ側にいてほしい」
「っ……!? 好きなだけ?」
なぜか、雪那は『好きなだけ』という言葉に反応した。
「うん、雪那が居たいなら好きなだけ側に居ていいよ。俺は暇だし、雪那みたいな子と一緒にいられたら、きっと楽しいだろうし」
こんな可愛い子と同じ時間を過ごせるなんて、ご褒美だよ。
すると、今度は雪那は沈黙し、じっと何かを考え出した。
……一体、どうしたのだろうか?
「ね、ねえ……それなら聞きたいんだけどさ……それは、『一生』でもいいの?」
「え……? まあ、俺なんかと一生、居たいなら別に良いけど……」
「……っ!」
次の瞬間、雪那はパアっと顔を明るくした。
な、なんだ?
もしかして、愛の告白……?!
「そっか……あたしに一生、償う機会をくれるってことだよね……」
「え、えっと……雪那?」
雪那はうつむきながら、濡れた瞳で、ボソボソと何かを呟いていた。
訂正。
愛の告白って雰囲気じゃないんですけど。
すると、雪那は突然、顔を上げた。
「ありがとう……ユウ。あたし、一生をかけて、貴方に尽くすから。それだけで恩を返せるとは思ってないけど、できるだけ、頑張るね……」
「え……? あ、あれ……?」
こ、こんなはずじゃなかったんだけど……?
雪那の罪悪感を薄めて、曇った表情を晴そう……そう考えていたのに。
――むしろ、曇ってないか?
「じゃあ、ユウ。まずは……何か、欲しいものはある? それか、あたしにして欲しいこととか」
「え……いや、特には……」
「…………………………そっか」
待て待て待て。
雪那さん? この世の終わりのような表情をしないでくれ……!!!
「え、ええっと……じゃあ! ゲームとか欲しいかも! ほら、入院生活って暇だからさ。ゲームの一つくらい、欲しいじゃん?」
「わかった……! ゲーム機ね。用意しておく!」
雪那は、満面の笑みでそう言ってくれた。
良かった……と安堵するのも束の間。
数十分後、最新の家庭用ゲーム機と、100は優に超えるであろう大量のゲームのカセットが届いた。
俺は忘れていたのだ。
彼女らが――社長令嬢であることを。
「ん……? なんだこれ……?」
俺は1枚の手紙を手に取る。
どうやら、ゲーム機と一緒に送られてきたらしい。
俺は手紙を開封すると……中には1枚の黒光りするクレジットカードが入っていた。
――『これで勝手に欲しいものを買っていいよ。支払いは全て私がしておくから』
という文言を添えて。
……こ、これ……どうしよ……。




