第25話 告白のち花嫁競争(再びぱふぱふ)
「――勿論ですよ。私は――ユウさんのことが好きです」
月乃は……あたかも当然のように、言った。
「そっか……」
俺はどうやら……ギャルゲーのヒロイン、全員を堕としてしまったらしい。
……どうして、こうなった?
「その様子だと……告白は私が最後だったみたいですね?」
「ま、まあ……な。……でも、まさか3人全員から惚れられていた……なんて、思いもしなかったよ」
「そうですか? ユウさんは私たちにとって、無限にも思えた地獄から救い出してくれたヒーローなんです。私たちが惚れることは……必然のようなものですよ」
「そう……か?」
「ええ。何度車に轢かれて死んでも……過去に時間を巻き戻され、また殺されるという無限のような地獄の中、私たちにとって、ユウさんが唯一の希望だったんです」
月乃は、俺の右手を両手で包み込むと――優しく微笑んだ。
「だから……私がユウさんが好きになった理由は単純に……私を助けてくれたから、なんです」
「ッ……で、でも……」
違う。
俺は……そんなヒーローみたいな善意だけで3人を助けたわけじゃない。
「……月乃。一応、言っておかなきゃいけないことがあるんだ」
花恋はノートによって知っていたが……月乃はまだ知らないんだよな。
俺が――彼女たちを助けた時の真意を。
「――俺が、三人を助けたのは……純粋な善意だけじゃないんだ」
「……え?」
「確かに最初はただの善意だった。誰であっても死ぬのは嫌だって思って助けた……けど、何度も死に戻りしてまで三人を助けたのは別の理由があるんだ」
「ループの中で偶然きがついたんだけど……あれは、俺が死ななくても過去にループしたんだ。俺が死ななくても……三人が死んだら」
「ッ?!」
「だから……俺は途中から……ループを止めるために動いてた。俺は……1万回以上も誰かのために命を投げ捨てられるほどのお人好しじゃなかったんだよ……」
どうしてか途中から月乃の顔を見るのが怖くなり、俺は俯いていた。
でも……月乃がどんな顔をしているかなんて、簡単に想像できる。
きっと、失望しているのだろう。
思っていたのと違う、と。
「……それがどうしたんですか?」
「そうだよな、ごめん月乃――え?」
準備していた謝罪の言葉が、どこかへ飛んでいった。
思わず顔を上げると……月乃は不思議そうに首をかしげていたのだ。
「それくらい、流石にわかっていますよ。普通に考えて、知りもしない、話したこともほとんど無い他人のために1万回も死ぬ人なんているわけがないじゃないですか……!」
「そ、そうだけど……」
「というか普通の人は、一度ですら善意だけで他人のために身を挺することなんて出来ませんよ? そこをユウさんは平然とやってのけたのです。むしろ、誇るべきですよ」
月乃はそう言って、柔らかく微笑んだ。
……あれ?
てっきり……失望されると思っていたのに……。
俺は拍子抜けしてポカンと目を丸くしていた。
そんな俺を見て、月乃はくすりと笑った。
「言ったでしょう? 私はユウさんが地獄から救ってくれたから……好きになったんです。動機なんて何でも構いません。下心であろうと、打算であろうと……私は、ユウさんのことが好きですよ?」
「そう……なのか? そういうものなのか?」
「ええ……とはいっても助けられたことだけが理由じゃないんですけどね。私は……ユウさんの何十回、何百回も死んでも……精神崩壊したとしても、決して諦めない心にも惹かれたんです」
「だから……私、助けられたら誰にでも惚れるほどチョロくありませんからね? ユウさんだけです……っ!」
そう言って、月乃は俺の手を両手で包みこんだ。
「ッ……!」
とにかくストレートな告白に、俺は思わず身じろぐが……月乃は俺の手を少し引っ張り、逆に引き寄せた。
彼女は真っ直ぐに俺の瞳を見つめて――
「ユウさんは……私のこと、どう思っているんですか?」
不安げに質問してきた。
「……そうだな……月乃は……凄く真面目でしっかり者だと思ってるよ。……でも、恋愛的には――考えたことがない」」
他の二人のためにも嘘は吐かずに、本心を口にした。
「……そうですか!」
月乃は、思っていたよりも明るい様子だった。
「落ち込んで……ないのか?」
「まあ、他の二人と付き合っていない時点で大体わかっていましたから。恐らくですが……一緒に過ごした時間が短すぎて、判断できないのでしょう?」
「ッ……まさに、その通りだよ」
「ふふっ、でしたら、まだ私にも可能性があるということ……! 落ち込むにはまだ早いですね……!」
少し前、病みまくっていた人間と同一人物と思えないほどに月乃は、明るく言った。
「ポジティブなんだな……」
「ええ。……暗い顔は、あの時、ユウさんとの約束通りに封印しましたから」
「ッ……」
「どうですか? 私は約束をちゃ~んと守りますよ? 浮気とか心移りとか絶対にありませんよ? 今からでも、付き合っちゃいますか?」
「ふふっ、そうだな。それは魅力だな……でも、もう一押し」
「むっ……でしたら、一生ユウさんを養える財産と権力もお付けいたしましょう。これでどうですか?」
「ダメだな。俺が本当に欲しいのは、金でも権力でもない――」
それよりも、もっと……恋人に必要なものがある。
その人の持っているものに惹かれて好きになるのは、俺は違うと思う。
人を好きになるのに……理由はない。
だって――人を好きになるために必要なのは――
「月乃を好きだと思える――唯一無二の経験だよ」
どうして、人を好きになった理由が言えないのか。
それは――その人と過ごした時間全てが理由だから、言い切れないのだ。
「……ふふっ、ユウさんらしい答えですね」
月乃は口に手を当てて、笑っていた。
「あはは……我ながら、面倒臭い人間だなって思うよ」
「まあ、そこがユウさんの魅力でもありますからね。……でも、そういう理由でしたら――」
月乃は、突然、真剣な表情を浮かべると――
「――これから、本気でユウさんのことを好きにさせにいきますからね」
――俺の手を引っ張って、引き寄せると……拳1つ分くらいの至近距離で俺をじっと見つめた。
彼女の表情からは、絶対に諦めないという意思を強く感じた。
「やっぱり……月乃は誠実で良い人だな」
「っ……?! ど、どうしてですか?」
「いやぁ、今まで抱きついてきたり、押し倒してきたりした人しか居なくてさ……」
「むっ……私が告白しているというのに、他の女の子の話ですか?」
月乃は明らかに不機嫌そうに眉をひそめた。
「あっ……ご、ごめん!」
「ふぅん……そんな悪いユウさんにはお仕置きが必要みたいですね」
そう言って、月乃は自身の持っている柔らかくて豊満なソレに、視線を移した。
「え……? い、いや待って、ちょっと待――んぐっ?!」
「――ダメでーす! ちょっとイラッと来たので、お仕置きです……♡!」
結局、俺は豊満なソレを押し付けられ、酸欠になるのであった。
こうして……ちょっと病んでるギャルゲーヒロイン三人による俺を巡った『花嫁競争』が幕を開けた。
……いや待てよ?
俺の目的は3人から罪悪感を取り除いて病まないようにしてもらうことだが……
告白断ったら、病まれるんじゃ……?
か、考えないようにしよ……。
――同時刻。
人知れず暗い部屋の中で罪悪感に押しつぶされる少女が1人いた。
「……全部……三人がヒロイン全員死亡エンドを迎えてしまったのも、ユウさんが数え切れないほど死ぬことになったも……全部、全部全部全部……私のせい……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
灼熱のような赤い髪をした少女――渚は、虚ろな瞳で謝罪の言葉を繰り返していた。




