第1話 救済のち成功
校門の前で待っていると、3人の女子高生が出てきた。
「この後さ、どっかご飯食べに行く?」
金髪の女子高生が、髪をくるくると指に巻き付けながら、少しダウナーげに2人に問いかける。
「良いですね〜っ! 私、唐揚げ食べたいですっ! 学校で飼ってるにわとりさん見てたら、唐揚げ食べたくなっちゃいました!」
今度は、少し背の低い銀髪の女子高生が、崩した丁寧語で答える。
他の二人よりも幼なげがあり、恐らく、後輩なのだろう。
「二人とも? そろそろ定期テストだからね? ご飯なんて行ってる暇なんてあるの?」
そう言ったのは、黒髪を腰まで伸ばした清楚な少女だった。
二人と違って、身だしなみをしっかりと整えており、真面目な性格なのだろう。
3人は、それぞれ個性的な見た目をしているが、共通して全員の仕草や立ち振る舞いから、どこか気品が感じられた。
「真面目か〜! 良いじゃん、ご飯くらいさ。テスト前だからって、ご飯食べるくらいの息抜きはあってもよくない?」
「そうですよ、そうですよっ!」
「むぅ……それもそうね……じゃあ、私も行こうかな」
「じゃあ、決定〜どこ行こっか〜」
そう話しながら、3人は道を歩いていく。
「――間違いない……やっぱり、今は全員死亡エンド、一歩手前だ」
3人の会話を聞いて、俺の疑惑は確信へ変わった。
彼女らは、前世でクラスのオタクっぽい子と仲良くなった時に、貸してもらったゲームのヒロインたちだ。
オススメだって言って、そのゲームを貸してくれたため、やってみたのだけれど、それは美少女たちと仲良くなっていき、攻略を目指すギャルゲー?と呼ばれる類のゲームだった。
いつもやってるゲームとは少し違って、ヒロインもめっちゃ可愛くって、なかなか楽しかった。
ゲームの名前は、『高嶺の社長令嬢は恋を知らない』……だったはず。
ヒロイン全員が、社長令嬢であるという少し変わった設定であり、警戒心の高い社長令嬢のヒロインたちを頑張って、攻略していく……というゲームだ。
だが……最初にプレイした時、勝手がわからなかった俺は、奇妙なエンドを迎えてしまった。
その名も――ヒロイン全員死亡エンド。
名前の通り、ヒロイン全員が死亡するというエンドだ。
どうやら、ヒロイン全員の好感度が半分以下の状態で決められた日を迎えると、発生するエンドらしい。
そして――そのヒロイン全員死亡エンドの時の状況と、今の状況が大変、似ていた。
「(……助けなきゃ……ッ!!!)」
絶対に助けなければいけない気がした。
大丈夫だ。
前世の知識を持っている俺なら、きっと助けられる。
少し危険な目に遭うかもしれないけれど……3人の若い少女の未来に比べれば、大したことじゃない。
所詮、彼女らは、ゲームのキャラクター。
そういう声が聞こえてくる気がするが、関係ない。
ゲームのキャラであっても、今は生きている人間だ。彼女らを助けない理由にならない。
俺は、3人のあとをつけて、タイミングを伺う。
――そして、時は来た。
見慣れた交差点。
赤信号で止まったヒロインたち。
夕日で赤く染まる空。
全て、見覚えがある景色だ。
ここは――死亡エンドで、3人が死ぬ場所だった。
「(――絶対に、助けるからな!)」
――信号は、青になった。
ヒロインたちは横断歩道を渡り始める。
――今だッ!
俺は直感的に判断した。
「――ちょっと待ってくれ!」
俺は、3人の前に飛び出した。
そして、歩道の方へ3人を押しこむ。
このまま、横断歩道を渡れば、暴走した車に3人は轢かれてしまうのだ。
「――な、何? あんた……! 急に飛び出してきて……」
「まあまあ、話を聞いてくれ! このままじゃ、君たちは――」
その時、物凄いスピードで走る車が目に入った。
あれかよ、あの子達を殺したかもしれない車は……。
でも、良かった。
これで、3人の命を救うことができた。
俺は、安堵の息を漏らす。
――次の瞬間、脳裏に俺と3人が車に轢かれる光景がよぎった。
俺は嫌な予感を感じ、ふと、もう一度、車に視線を向けると――
「――は?」
――車は突然、こちらに方向を変えて突っ込んできた。
いや、方向を変えたというか……一瞬で車が向いている方向が変わった。
それは、完全に物理法則を無視していた。
……ど、どうして?
まさか、これが世界の運命力だとでも言うのか……?!
このままじゃあ、俺たち全員、あの車に轢かれてしまう。
「――絶対に、それだけはダメだッ!」
俺は、すぐさま振り返ると、そこには呆然として動かない3人がいた。
俺は、手を大きく広げ、3人まとめて――なるべく遠くへ突き飛ばした。
後は、俺が逃げるだけ――ッ!
次の瞬間、視界の端に車が映る。
このままじゃ間に合わない。
そう思いながらも、車から逃げるように前方に飛び込んだ。
結果――
「あぐッ……」
左足に激しい痛みを感じると同時に、俺の体は高速で地面を転がり、意識は途絶えた。
クソッ……油断しちまったな。
また……死ぬのか……。
――◇――◇――◇――
まどろみの中。
微かに、声が聞こえる。
「――ま、瞼が! 今、瞼が微かに動きましたよ!」
「――本当?! ……お願いだから、生きてて……お願いだから……」
「――嫌ですよセンパイ……もうセンパイが死ぬのを見るのは嫌ですから……ッ!」
なんだか、少しだけ聞き覚えのある声だ。
徐々に俺の意識はまとまっていき……ついに、俺は瞼を開いた。
「――め、目を覚ました……! 目を覚ましましたよ!」
「――本当じゃん……!!! 良かった、マジで生きててくれて……」
「――センパイ……! 生きてた! 本当に良かった!!!」
3人は俺の寝ているベッドを囲んで、嗚咽のような声を漏らす。
もしかして……この子達、俺が助けたヒロインたちか……!!!
「じゃあ、ここ……は……?」
俺がそう言うと、正面にいた真面目そうな黒髪女子が答える。
「ここは病院ですよ。あなたは、私たちを庇って、車に轢かれて……ここに搬送されたんです」
「……そっか。……でも良かった」
「「「……?」」」
本当に良かった。
俺は、3人を見渡すと――
「――みんなには怪我が無いようで本当に良かったよ……!」
笑顔で、そう言った。
――はずなのに。
「っ……」
3人の顔が、一瞬、苦しみで歪んだのは。
3人の瞳のハイライトが消えたのは。
どうして、だろうか?




