第1章エピローグと第2章予告
◆第1章エピローグ
夕刻。小広間の喧噪が嘘のように静まった回廊を、俺はゆっくりと歩いていた。
窓の外には王都の灯がともりはじめ、遠くで鐘の音が低く響いている。
《……無茶をさせてしまいましたね》
(いいよ。言わなきゃ、誰も動かない気がしたから)
胸の奥でセリアが小さく息をつく。
風がカーテンを揺らし、薄蒼の裾がさらりと鳴った。
《オルフェンは試してきます。ラウレンツは敵対。ヴィクトールは……》
(近づけたくないタイプ、確定だな)
思わず苦笑が漏れる。けれど足どりは、朝よりも確かだった。
回廊の先でグラントが封蝋のついた書簡を差し出す。
「王都近郊の農村で、瘴気の実態を調べ、報告を。――まずは“見て、測る”ことだ」
(戦う前に、まずは状況を知るってわけか)
《ええ。はじめましょう、シンヤ》
夜空に一番星が瞬き、俺とセリアの声が同じ方向を向いた。
――この歩みこそが、王国を変える第一歩となるのだ。
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◆第1章 登場人物
相沢シンヤ
男子校の高校二年。セリアの依代として召喚される。
三つのスキルを持ち、表向きは「末姫セリア」として振る舞う。
セリア・アストライア・フローディア
第三王女。声は外に届かないが、シンヤと《》で会話可能。
国を救うため勇者召喚を主導。王位を目指す決意。
リディア
セリア付き侍女。事情を知る数少ない味方。健気で真面目。
グラント・エルミール
宮廷魔導師。召喚の術者。理知的で頼れる師。
オルフェン侯爵
宰相。文官派の長。理詰めで試すタイプ。シンヤに課題を与える。
ラウレンツ伯爵
近衛騎士団長。第一王子派。武断派で敵対的。
ヴィクトール・ヴァレンシュタイン
第一公爵家の長男。セリアの婚約者。権力志向が強く、圧をかける存在。
◆王家と主要人物
国王:アルトリウス・フローディア(病がち)
皇后:カトリーナ・フローディア(名門の後ろ盾を持つ)
側室:イレーネ(セリアの母/疑惑の死)
第一王子:レオンハルト(軍事強硬派)
第二王子:ユリウス(内政・文官派)
第三王子:マクシミリアン(宗教勢力)
第四王子:アドリアン(外交・交易)
第五王子:クリストフ(若手・貴族後援)
第一王女:イザベラ(帝国との政略結婚が噂される)
第二王女:エリザベート(病弱だが民衆に支持あり)
第三王女:セリア(末姫/勇者召喚の依代)
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◆世界と脅威
フローディア王国(王都:フローディア)
ガルディア帝国(帝都:ベルンハルト/軍事強国)
セルヴェリア共和国(首都:リュミエール/交易を握る)
脅威:黒い瘴気(農地と民を蝕む)、魔族の活発化
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◆第2章予告
最初の任務は――王都近郊の農村調査。
黒い瘴気が人と土地にどんな影響を及ぼしているのかを“見て、測る”こと。
重臣たちは深刻な顔をしていたが……当の俺は頭を抱えていた。
(ちょ、待て! 俺、この格好のまま村に行くのか!?)
薄蒼のドレス、ティアラ、胸元できらめく宝飾。
どう見てもフィールドワークに向いてない。
《……王女なのですから、当然です》
(いやいや、屈んだら谷間全開! 鍬を振ったら胸ぶるん! 村人の視線で死ぬわ!)
《し、シンヤぁっ……そんな恥ずかしいこと言わないでください!》
村人の前で醜態を晒す未来しか見えない。
それでも調査は避けられない。
ドレス姿の王女(中身は男子校生)が農村へ――!?
コミカルなドタバタの裏で、王国再生の第一歩が始まる。
……そして“黒い瘴気”との本当の戦いも、幕を開けようとしていた。