ソドムとゴモラに降った火
西暦二〇二五年。夏の日本列島に降った雨は、一月ほどやむ気配を見せなかった。
雨は小雨ていどで、川は氾濫することもなく、洪水の恐れもない。だが多くの人は、外に出ることができなかった。
しとしとと空から注ぐ重い滴が、屋外の生き物を溶かしていく。
専門家の分析では、これは硫酸だった。
科学的な説明では、硫酸は二酸化硫黄をプラチナや酸化バナジウムを触媒として酸化させた、三酸化硫黄が水と反応して得られる。
これが上空から延々と落ちてくる理由は、憶測の域を出なかった。
化学工場のたれ流した物質による公害。無差別テロ。悪質なイタズラ。
ラジオの内容は、原因の究明を急ぐものばかり。
一方で、避難のために建物に閉じこめられた市民たちは、食糧の補充もままならず、飢えと日照不足による疾患によって息絶えていった。
建物もまた、『雨』にただれて屋根の抜ける事例が続出する。
逃げ場を無くした人たちは、なす術もなく皮膚を、肉を、神経を焼かれていった。
一ヶ月、二ヶ月、三ヶ月……。
時間が経つにつれて、ラジオのバッテリーも、放送できる局も減っていき、ついにはチャンネルを合わせてもノイズばかりとなった。
四カ月目。
雨はまだ、止む気配を見せない。
※この物語はフィクションです。
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