第9話:この令嬢、品の無い動きをさせていただきますわ
あれから数日。私たち“ノーブルソウル”は、
吉沢先輩の紹介で、街の小劇場ライブに出演することになりましたの。
文化祭とは違い、照明もマイクも観客も、本物。
ステージ裏で、小林くん──いえ、相方が緊張で無言になる中、
私はと言えば……案外、平然としておりましたわ。
「……よし、“駅の改札でカード投げる貴族”はカットしましょう」
「おい、なんでやねん! あそこ笑いどころやろ!」
普段は標準語の小林くんが、関西の芸人ばりにツッコんでくる。
ツッコミにツッコミとは、これまた斬新。
──とはいえ、最初は私もそのネタに自信が持てなかったのです。
舞台裏で“貴族が改札でカードを投げる”という絵面を想像して、急に不安になったのですわ。
『これ、私の“品格”を貶めるネタではなくて?』
しかし、小林くんの一言が私の迷いを吹き飛ばしましたの。
「けどさ、“品がある奴が一番品のない動きした時”って、めっちゃウケるやん」
──それ、舞台で見たかった。
私は心の中で拍手を贈り、ネタをカットせず採用することを決めました。
「よし、今日もいっちょボケてやろうじゃありませんの!」
そう言ってステージ袖に立った時、観客のざわめきが耳に届きました。
「“貴族芸”の子たちだろ?」「名前なんだっけ、“ノーブルなんとか”」
「文化祭の動画、バズってたやつ!」
思わず息を飲む。
あの時のステージが、こうして次につながっている──。
胸の奥が、ぽっと熱くなりますの。
「お待たせしましたー! 次の出演者、ノーブルソウルのおふたりです!」
呼び込みの声。
「参りましょう、小林くん」
「おう……噛むなよ? 本番だぞ」
ステージへ一歩踏み出す。
ライトが眩しい。でも、不思議と怖くはありません。
なぜなら今、私は──
「皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。
“ノーブルソウル”、貴族の魂を届けに参りました!」
──このステージの、主役ですもの。
(つづく)
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