第7話:“ボケ”が私に、乗り移ってしまいましたの
「……朝霧さん、マジで今日ノリよくない?」
「てか、さっきの“アレ”、アドリブだろ?反則すぎん?」
休み時間の教室で、私の周囲がざわついていた。
ノーブルソウルとして、クラスの出し物に向けた“仮ステージ”に立ったのは、つい先日。
私は、そこそこ笑いが取れたことに満足し──
……いえ、満足どころか、味を占めてしまいましたの。
「小林くん、今日も放課後、少しだけ練習つき合ってくださる?」
「……おう、もちろん!てか、朝霧さんの方がやる気すごくて俺ちょっと怖い!」
私の中で何かが“目覚めた”のは、あの日のステージだった。
毒舌、気品、そして──
己の「すべらない令嬢キャラ」による“天然ボケ”。
どうやらこの現代日本でも、私の芸は通用するようですわ!
***
「──というわけで、“赤信号、みんなで渡れば”って、まさかの“王族の習わし”になるの、どうです?」
「いやいや、それは渡っちゃダメだからね!? 王族こそ渡っちゃダメ!」
放課後の教室、机を囲んで漫才のネタ合わせ。
私がボケ、小林くんがツッコミ──
役割は逆のように見えるけれど、実際のところ「私がやりたいようにやる」だけですの。
「……あの、ボケとツッコミのバランスって、もうちょっと考えたほうが……」
「つまり、こういうことですわね?」
私は立ち上がり、背筋をピンと伸ばして高らかに宣言する。
「皆さま、街頭での信号無視は絶対におやめくださいまし。赤は“王族専用”の意味ではございませんわ!」
「うん、そゆことじゃない!!」
小林くんのツッコミが、教室中に響く。
私たちのやりとりに、クラスメイトが数人、笑いながら振り返った。
「え、あの二人って芸人目指してるの?」
「“貴族キャラ芸人”とか新ジャンルすぎる……」
「ウケてるのが悔しいけど、正直笑っちゃう」
その反応を見て、私はひそかにガッツポーズをした。
──ふふ、いい調子ですわね。
***
「でも、ほんとにそれでいいの?」
ネタ合わせの帰り道、小林くんがぽつりと呟いた。
「え?」
「“お笑い”って、ただ面白いこと言えばいいってもんじゃないっていうか……」
「朝霧さん、今は勢いでやれてるけど、ずっとこのテンションで続けられるの?」
彼の言葉に、私は少しだけ立ち止まる。
「……小林くん。もしかして、私の“覚悟”が軽いと思ってます?」
「いや、そういうわけじゃ──」
「ふふ、それならご安心なさいな」
私はクルリと振り返って、夕焼けに染まる空を背に笑う。
「私は、死ぬ直前に“ネタ”を披露した女ですわよ? お笑いに命を賭けたことなら、すでに経験済みですの」
「……うわ、また中二病みたいなこと言い出した……」
「中二病ではなく“断頭台病”ですわね」
「その病名、新ジャンルすぎるわ……」
小林くんが呆れつつも笑ったのを見て、私は胸の中で“何か”が確かに積み重なっているのを感じた。
笑いは“演じる”ものではない。
“届ける”ものでも、“奪う”ものでもない。
笑いは、共有するもの──
「……ああ、楽しゅうございますわね」
その夜、私は家でネタ帳を開きながら思った。
お笑いという世界は、華やかで、孤独で、厳しくて、でも、やっぱり楽しい。
この第二の人生、無駄にはいたしませんわ。
目指すは──
かつての王座よりも遥かに高い、笑いの“頂点”ですわ!
(つづく)
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