第5話:笑いとプライド、どちらが上ですの?
放課後。
教室の片隅で、私は腕を組んで仁王立ちしていた。
机を挟んで、正面に座るのは小林君。そう、ノーブルソウルの相方である。
「で? これはどういうことですの?」
「いや、だからさ、ボケとツッコミ逆にした方がいいんじゃないかって話で……」
「却下ですわ」
一刀両断である。
私がツッコミ、小林君がボケ──これは2話で定めた鉄則ですわ。
にもかかわらず、この男、何を血迷ったのか
「リディアのボケが面白すぎてさ!」などとぬかしおって……。
「小林君。私は、貴族ですのよ?」
「うん、それ関係ある?」
「もちろんですわ。貴族は品格が命。ボケなんて、そんな愚かな……」
「でもさ、前に言った『サイゼでプロポーズする貴族なんて〜』のくだりとか、
完全にリディアのボケだよね」
うっ。
「アレで爆笑取れたし、観客も『天然キャラの暴走が好き』って言ってたし……」
うぐっ。
「あとさ、何より、リディア本人がめっちゃ楽しそうだった」
……ぐぬぬ。
確かに。
言われてみれば、文化祭でやった即興コント、そしてこの前のステージ。
どちらも私は「ボケていた」場面が多かった。
というより、私のツッコミが天然のボケになっているという噂すらある。
でも、それって──
「笑われること」と「笑わせること」の境界が、曖昧になる瞬間。
私は──かつて「笑われる」ことを、最大の屈辱と感じていた。
でも今は?
「……っ、少し考えさせていただきますわ」
私はそう言って、教室を後にした。
***
夜、自宅の部屋。
スマホを片手に、私は一人モヤモヤしていた。
ボケか、ツッコミか。
どちらが正しいのか。
どちらが自分に合っているのか。
そして、どちらの私が「本当」なのか。
ベッドに寝転び、天井を見上げる。
──そのとき。
スマホが震えた。
《新着:Palmu配信「人気芸人・海老原ミチルの裏トーク」》
「……芸人?」
なぜか、私はその配信を開いていた。
《──ボケとツッコミってさ、技術じゃないと思うのよ》
画面越しの女性芸人・海老原ミチルは、そう語った。
《結局は“どっちが前に出るべきか”って話。受けでも攻めでもいい。
その人の“笑いのエネルギー”がどこに向いてるか、なのよね》
私は、スマホを握りしめる。
──私の笑いのエネルギーは、どこに?
《あとね、何より大事なのは「自分が楽しいかどうか」だよ。
笑われることも、笑わせることも、どっちでも楽しいなら正解。》
その言葉が、胸に刺さった。
──私は、楽しかった。
たしかに、あのとき。
「“芸人ごっこ”が、こんなにも……心を熱くするなんて」
私は、ベッドから飛び起きた。
すぐに、小林君にメッセージを送る。
《ボケでもツッコミでも結構。私たち──“ノーブルソウル”ですわ》
画面の中の私の顔が、にやりと笑った気がした。
──芸人令嬢の、本気が始まる。
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