第4話:この令嬢、本格的なライブに出演しましてよ
「……で? なんで私が“お笑いライブ”なんて出ることになってますの?」
放課後、校舎裏のベンチ。
制服姿のまま、私は腕を組んで相方の小林くんを睨んでいた。
「いや、文化祭でバズったのを覚えてるだろ?
あれがキッカケで、お笑い好きの三年生──吉沢先輩からスカウトされてさ」
小林くんは汗をかきながらも、どこか楽しそうだ。
私はというと、納得いかない表情でふんっと鼻を鳴らした。
「それは“文化祭の余興”でしてよ。本物の舞台とは比べものになりませんわ」
「いや、そこまで否定しなくても……。
でもさ、あれは本当にウケてたよ。
ネットに動画あがって、今じゃ2万回再生だぜ?」
「……ふむ」
さすがに2万回は無視できませんわね。
貴族としての矜持はともかく、“芸人としての魂”が刺激される数字ですわ。
「しかも、吉沢先輩って、実は元・地下芸人だったらしい。
今でもライブハウスのツテ持ってて、“次の若手”を育てたいんだって」
「つまり──この私を、現代で再デビューさせようというわけですのね?」
「お、おう……そうなるな」
私はため息をついてから、空を仰いだ。
(断頭台で果てた私が、まさか令和の高校生として──“芸人”になるなんて)
「──小林くん」
「な、なに?」
「コンビ名は『ノーブルソウル』で決まりですわ。
今さら変える気はありませんわよ?」
「へっ、もちろんだって!」
彼の笑顔が眩しい。……いや、直視するのは少し恥ずかしいですわ。
***
週末。渋谷のライブハウス。
薄暗い照明、狭い控え室、緊張した空気。
「おお、来た来た。“ノーブルソウル”ちゃんたち!」
声をかけてきたのは、眼鏡にキャップの青年──吉沢先輩。どこか飄々とした雰囲気の人だ。
「初舞台、緊張してるかー? でもまぁ、大丈夫。
前説は俺がやっとくし、お前らは笑い取って帰ってくればOK」
「……責任が重いですわね」
「リディア、大丈夫だって」
「ええ、覚悟はできてますわ」
鏡の前で、制服を整える。
マイクを持つ手に少し汗を感じたが、気品は失っていない。
(ステージは処刑台よりはるかにマシ。命までは取られませんもの)
「いよっ、次の登場は〜!“貴族と平民の笑撃漫才”! ノーブルソウル!」
拍手が聞こえる。ライトがまぶしい。
舞台の上、私は一歩前に出て、胸を張った。
「皆様、ごきげんよう──令嬢ツッコミ担当、アヴァローネことリディアですわ!」
「どうも〜平民代表、小林でーす!」
会場、笑い。
「なんでやねん、って言う前に、まずその自己紹介のクセがすごい!」
「平民の割には喋れますのね。どこで覚えましたの? 漫才塾ですの?」
「貴族が通う塾って、そんなピンポイントなもんある!?」
笑いが広がる。
ああ──やっぱり、気持ちいいですわ。
この“拍手”と“笑い”に包まれる感じ、
私がこの時代に転生して得た最大の宝物かもしれませんわね。
舞台袖に戻ったあと、吉沢先輩が言った。
「お前ら、今日のネタ……マジでウケてたぞ」
「ありがとうございますわ!」
「マジで続けろよ。次、月末の高校生芸人バトル、エントリーしといたから」
「え?」
「えぇ!?」
こうして──私の“芸人令嬢”としての人生が、本格的に幕を開けたのでした。
(つづく)
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