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プロローグ 人間嫌いと孤独だった男のアフタートーク


 いつの世も、人、というか生き物は愚かなものだよ。

 いや、知性あるものと言うべきかな?

 うん、そうだな知性が悪い。知性体はすべからく苦しむものだから。知恵なき者、というか無能にとってこの世は天国だろうね。他人の手を煩わせるだけで誰かに迷惑かけながらあーあー奇声をあげて生きていけるのだから。馬鹿って言われても分からないくらい、奇声をあげる以上のことが出来ない程度の知能しか持たないのならばきっと苦しまないだろうね。だって本能しかないんから生きてる意味や価値に苦しんだりしない。ただ生きてるだけだから。

 知恵あるからこそ善と悪を生み出し、それに苦悩する。知恵あるものの歴史とは自縄自縛(じじょうじばく)の歴史だ。知恵なきもの、として連中が蔑むもの達の方がよっぽど憂いなく健やかに生きている。


 殺人だの窃盗だの、強姦だの、放火だの横領だの詐欺だのを取り締まる暇があるのならば人間は素晴らしいだのなんだのとほざいて人の醜さとそれにより生み出される悲しみより取るに足らない美しさや人間の努力なんて胡乱なものを無責任に賛美する連中を取り締まるべきさ。 

 連中は害悪にしかならないよ。間違えるのは当然で、頑張ってるから間違える?ふざけんな、間違えたら迷惑を被る誰かがいるんだよ。ミスしていいなんてあるわけないだろ。頑張ってるから迷惑被ったヤツははいそうですかと許せって?じゃあお前がその被害者になってみろこの想像力欠如の都合のいい理想と物語しか紡がない産業廃棄物が。

 良い迷惑だ人間讃歌なんて、人間全員そんなもの心の底ではどうでもいいと思ってるよ。ただ、いい飯のタネ、というか何の取り柄もない奴でも人類に属するというだけで悦に浸れるドラッグとしての需要があるだけさ。

 というか、人間が素晴らしいのならばとっくの昔にこの世界、この宇宙、あらゆる世界、あらゆる次元から戦争も犯罪も泣く人々も苦しむ動物達も居なくなってるよ。

 

 ああ、話が()れた。

 知恵あるからこそ道具を作り出し、狩りを覚え、豊穣を呼び、安寧を求めて文明を築き、格差を作り、愚かになり醜く堕落する。反面、醜さもあれば美しさもまた生まれる。だがそれらは知性体が勝手に定義しただけのもので美しさなど元よりそこら中にある。だが本当の醜さは知恵無くしては生まれない。

 ね?だからこそ知恵ある人間なんて賛美しちゃダメなのさ、僕たちは知性にこそ中指を突き立てるべきだ。美しいものを汚し、消費する悪を生み出す知性を批判すべきだ。人間讃歌より人間批判さ。

 褒め称えるだけなんてバランス的にもダメだろうが。ちゃんと非難もして書き下ろさないと釣り合いが取れない。


 まぁ要するに何が言いたいかというと、これから語るのはその愚かさと醜さの生贄となった一人の美しい少女の物語。

 そして、彼女を愛した孤独だった男との出会いと別れの物語であり、男が再会を求める物語の始まりだ。


 え?僕?僕はそうだね、さながら彼らの物語の登場人物、孤独な男の唯一の友達な人間嫌いの人間とだけ言っておこう。僕はただ美しいものが醜いものに消費されるのが耐えられないだけさ。

 

 これより語るは一つの結末。

 争いの不毛さとその末路、その代価、そしてあまりに身勝手な世界の中でひっそりと紡がれたささやかな物語。


 「お前もだいぶ思想に偏りがあるだろう、讃歌をあしざまに罵れるクチか」


 友達が、語りかけてくる。


 「分かってるよ、そんなこと。でも湧き上がる嫌悪は止められないんだから」


 「自覚はあるのか」


 「あるよ、良い点も悪い点もよく知った上で嫌いなんだよ僕は。知りもしないで嫌うことが許される、なんてことはないけど、もしそんなことがあるとしたらいつまでも幼稚な唾棄すべき連中だけだ」


 そうだ、知らずして嫌うことが許される、なんてことはごく少数にも当てはまらない、それは迫害したりいつまでも変わろうとしない既得権益にしがみつく老いた寄生虫と何も変わらない。

 でももし本当に当てはまる存在がいるとしたらそれは本当に唾棄すべきクズどもだ。侵略者だ。自分の価値を押し付ける無価値野郎どもだ。裁かれない極悪人どもだ。


 「確かに許すべきではないがでも背景を知る努力くらいはせめてしてやるべきだろう………いや、そうする善性があるからお前は人が嫌いなんだろうな」


 うるさいな。背景なんて本当は知りたくもない、可哀想な過去なんてあったら同情しちゃうだろ。場合によっては許したくなっちゃうだろ。

 ―――――そんな過去や理由があったってそれで損なわれた者達は癒やされないのに。


 理由を知ったって、許したって、憎んだって、失われたものが戻るわけじゃないのに。


 頰を膨らませて子供のように拗ねる僕を見て、孤独だった男は小さく笑う。

 生きにくい性を持って生まれた僕をみて、何を思っているのだろう。あんなに酷い目にあったのに、彼はなんで自分を迫害した連中を知ろうとするのだろう。自分から大切なものを奪った連中をどうして許そうとするのだろう。

 憎しみに憎しみで返してはならないけれど、許す必要なんてないのに。許さないまま、忘れていけばいいのに。そうすれば、彼は楽になれるのに。


 なのに、なんで、彼はあんなに強く、賢いのだろう、彼が無能だったのなら、彼は苦しむ前に死ねたのに。



 『善なるものは、人が嫌いだ。

 偉大なるものは知恵が嫌いだ。


 ーーーー古き格言より』

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