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予防接種

作者: 137

皆さんは「万能薬」とか「不老不死の薬」「一生楽しく過ごせる薬」なんてのがあれば欲しいですか?


僕は正直いらないです。

本気で好きな子と別れて3年引きずった日々も、バイトのライングループに間違えてsnsのアカウント貼っちゃった時も…いやこれはナシだな。


まあ他にもあるけど、その失敗を思い出すたびに次の選択肢を選ぶ権利がもらえたような気がします。

Aしか選べなかった自分にB.Cの選択肢が現れるような。


つまり人生のマイナスを帳消ししたり予防することは人のためならざると言えますね。


すべてが順風満帆。

俺のために作られた言葉と錯覚するほどだ。


2085年、富裕層の間では当たり前となった『デザイナーズベイビー』


中でも最高グレードで生まれたのがこの俺、佐久間(さくま) 瑛二(えいじ)だ。


苦手ものなどなく全てにおいて人類の頂点。

さらに高度なAIをインプラントし、まさに新人類とはよくいわれたものだ。


さらに我々には『予防接種』というものがあり、成長の過程で障害となりある事象に対して親の任意により免疫を獲得することができる。


これにより富と名声を獲得したものは子々孫々までの繁栄を許されることとなった。


落ちぶれ家系に未来はない。


俺は、一族は永久に繁栄する。


『臨時ニュースです。2060年から2070年にA-2580,A-3526,D6085の予防接種を受けた国民の皆様はすぐに最寄りの認可医療機関にて受診を行ってください。最大で2000万円の〜…』


ほう。

昔は注射の使い回しによる伝染病などがあったそうだが、今の予防接種はまるっきり種類が違う。


一体何が起きたのか。

いやしかし…D6085……俺も5歳の頃に打っているな。


----------


数日経ち、予防接種のことなど忘れていた頃。


「佐久間代表、本日夕方6時よりELPコーポレーションのエリック様と会食のご予定が入っております。」


「あぁ、今日だったな。車を手配しておいてくれ。」


有能というのも、考えものだ。

低俗な人間はその仕事の多くをAIに譲り、ベーシックインカムを受け質素ながら死なぬ生活をしている。


我々はいかに世界をより良くコントロールするかばかり考えさせられる。


「佐久間様、無礼を承知でお伝えいたしますが…。」


「何だまだいたのか佐江山。」


「その、佐久間様、最近鏡は見ましたか?」


全く意味のわからない問だ。

しかし、鏡などしばらく見ていないな…着替えもヘアセットも歯磨きもすべてアンドロイドに任せていてる。


「そうだな、ADPミランダ!姿見を持ってきてくれ。」


室内AIが天井から姿見を下ろす。


「なんだよ…これ。」


そこには歯がボロボロになり白髪の混じった髪、汚い肌をした男が立っている。


「おい、くだらないジョークはやめろ。ディスプレイではなく姿見をよこせ。」


『佐久間様、こちらは姿見でございます。』


AIは端的に述べる。


俺は社内トイレへと走った。

そんなわけはない、これが俺なわけがない。


「そういえばお前予防接種の件見たかよ。」


「あー、俺は該当なくてよかったよ〜。あのレベルの予防接種打つ金まではねーからな!」


「だよな〜!ははは!」


ふと聞こえた社員の会話に先日のことを思い出す。


D6085…そうだD6085だ。

早速ホログラムを起動し検索する。


【D6085に不具合が…米国での使用規制開始】


『2060年に現れた富豪向けワクチンのD6085には10〜30年で効果が消滅することを京都大学研究チームが発見。

さらに、効果の消滅後には自身の細胞が肉体を維持できず崩壊する症状が見られる。』


なんだと…不備?こんな高額で売りつけておいて結局これか……。


D6085は不老と身体強化の予防接種でありこれにより受けたものは強靭な肉体と体力、そして衰えを知らない身体が手に入ると当時世界中の富豪から絶大な支持を集めた。


「それはどうだっていいんだ…この症状はどうすれば治るのだ。ADPミランダ!検索結果を!」


『D6085の効果消滅の症状が見られてから3日以内の受診により85%の回復率です。

その後1日ごとに15%ずつ低下します。』


「お!…俺は症状が出て何日目だ……?」


『8日と4時間35分27秒です』


10%…これが俺の生存確率…。


『また3日以降ですと、後遺症を残すケースも見られます。』


聞くや否や全速で社用車へ向かう。

エンジンをかけ自動操縦を切りひたすら走らせる。


都皇病院


日本に住むすべての富豪がここでデザイナーズベイビーを一貫して出産、育成を依頼する最高峰の病院だ。


IDをかざしかけ込む。


「おい看護婦!!助けろ…予防接ひゅのちろうを…。」


ボト……


うまく話せない…溺れたみたいだ。


「すぐに先生を呼んで!」


看護婦の叫ぶ声がぼんやり聞こえる、視界が霞む。


ああ、暗い…寒い…。


----------


「どうして先生は富豪向けのワクチンを作ったのですか?」


「君は人類の進化はエアコンの効いた無菌室で死なぬほどの食料と水、娯楽がある中で遂げられたと思うかね。」


「いえ、とてもそのような環境では…。」


「ワクチンは確かに致死性の高い病から人を救うには有効だ。しかし世界を見なさい、貧富の差は加速し功績のない人間が次々と家畜化された。

そして、富豪どもはどうだ?悦に浸るのみで、結局フラストレーションが起きぬほど満たされ、低俗な欲求を叶えることのみが残った。」


「おっしゃるとおりです。」


「このような人類に価値などない、猿と猿に飼われる家畜しか残らんのだ。

だから私は逃げ道を残した、恐怖や不安、安寧の崩壊が再び人を人たらしめる。」


先生の言うことは理にかなっているのかもしれない。


下々には不満も欲求も起きない程度の幸せを与え、見下す者には実を与える。


しかし下を見続ける者に進歩はない。

文明は歩みを止めてしまったのだ。


破壊なきところに再生はない。

悲しいかな、人間というのは満たされたいながらも完全に満たしてはいけない生き物だったのだ。


ああ、何と哀れで罪深いことか。

この業を背負い我々はどこへ向かうべきなのか。


----------


「佐久間様、先代から当院が大変お世話になっております。して…本日はお子様への最新ワクチンについてご提案がありましてね。」

みなさん満たされてますかーーーー!?


はいの人もいいえの人もいますかね。

しかし全てにおいてはい、いいえの人はどのくらいいるんだろう。


はいの人もほんの少しの不満は毎日あるはずです。

いいえの人も不幸だという割にはよく笑ってたりします。


どちらかを全て満たすことなどできないんです。

でもこの作中ではできてしまいました。


家畜化されても幸せなら、または家畜を見下し偉そうにできる人生なら。


それでいいんですかね。

不平不満を言わない世界。一方通行な世界、隔離分断された世界。


人はその中でも外界を見て強くあれるのか、その割合はどのくらいいるのか。


まぁなってみないことにはわからんという、そんな僕の妄想でした〜!

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