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四章第4話 持て余す休み期間。

「リンダ様、奥様がお茶を一緒にどうかと。……少し休憩をされては?」

「お母様が? そうね、休憩にするわ。ありがとうルナ」

「では、ご準備ができたらお呼びいたします」


 私がノックに応えると、扉を開けたルナはそう言って去っていった。

 ルナは心なしか遠慮がちな様子だったが、私の返事に少し安堵したような表情になっていた。

 多分、気を遣ったのだろう。そして母親の誘いを考えると、母親もそうなのだろう。

 学園が休みに入ってからずっと、机に向かって勉強したり、走り込んだり槍の素振りをしたり、四六時中ストイックに過ごし続けるリンダのことが気になってしまったのだろう。


 まぁそんな勤勉学生みたいなことしてたら、どうしたんだろうと思うよね。

 この世界には受験も進学もないのに。しかも現在学年一位で落ちこぼれてるわけでもないし、将来的に自分が爵位を継いだり領地を経営する予定もないし、女官とかになる予定もないし、騎士になる予定もないし。


 実際私も、他にやることがないから勉強しているだけだし。これくらいしかできることがないから。



 マリーローズが闇色の竜と戦うメンバー編成を告げた日から、一週間ほどが経っていた。私以外の皆で戦うことがわかったあの日から。


 あれから数日はしばらく忙しかった。

 卒業パーティーとか、ホームパーティーとか、そういった行事に追われていた。


 学園での三年生の卒業パーティー、これは学園行事兼社交の場なので、学園生全員が参加した。なんというか、貴族の学園の卒業パーティーといえばこういう感じ? と想像した通りのパーティーだった。

 三年生と特に付き合いもない一、二年生は、卒業生のダンスを眺めたりして、仲の良いもの同士で会話でもしていれば良いが、三年生と付き合いがあるとそうもいかない。

 なので私は、なんだか社交で忙しいというか、気疲れした。学園の花である四英雄家と一緒にいたわけだし、精神力が消耗した。


 クリスとオリビアは婚約を明らかにしていることもあって、卒業パーティーでは一緒に踊っていた。婚約者同士は一緒に踊るものらしい。想像した通りだった。

 とはいえ婚約してなくても一曲くらいは踊るのを許されるのだが、デュランはずっと私のそばにいることで、ダンスに誘われるのを防いでいるようだった。おかげで私も誘われることなく過ごせた。

 いつものメンバーで固まっていたし、シャーリーやノエラは殿下がバックにいることが学園生にはわかっているので誘われることもなかった。


 ずっと踊らないのもあれなので、何度かはいつものメンバーで踊りあったりして平和に過ごした感じだ。

 アルベルトだけは、婚約者候補すらいないこともあって、何人かの卒業生に誘われて、大変そうなのを眺めて過ごした。


 良い卒業パーティーだった。今後学園でクリスと会うことはないのは少し淋しいけれど。

 生徒会長はクリスからカイルに引き継がれた。ゲーム上でのカイルのストーリーをあまり知らないから生徒会長になるとは知らなかったけど、納得でしかなかった。



 学園での卒業パーティーがあった翌日、パーム家でホームパーティーが行われた。実質、クリスとオリビアの婚約パーティーだ。

 親しいものや近しいものを招いた気軽なホームパーティー。そこに私も出席した。パーム家と縁の深いマグノリア家のデュランの婚約者だから。


 しかし気軽なパーティーなんてあるわけもない。貴族のパーティーがそもそも気軽なわけもないと痛感した。

 パーム家の親しいものや近しいものは、気軽な相手ではない。気を張って、二日連続気疲れした。


 婚約を祝う気持ちはあるのだけど、その気持ちは確かに持っていたのだけど。

 オリビアと親しい友人の自覚はあるし、デュランの婚約者ではあるけど、私自身は非戦闘要員のモブなのだ。華やかな場には、あまりなじめない。


 とはいえ、あの場で一番居心地悪そうにしていたのは、オリビアの父、オグマ・エルム男爵だった。


 ホームパーティーに参加したものたちは当然、改めて聞くまでもなく二人の婚約のことは知っている。

 あのパーティーは婚約のお披露目というよりは、今後はこのように歩んでまいります、という二人の決意表明だった。


 二人の結婚パーティーは二年ほど先、オリビアの卒業後を予定しているとのことだった。


 だけどそれに先駆けて、オリビアはこの休みに、もう住居をパーム侯爵家に移すそうだ。


 オリビアの生家のエルム男爵家は、パーム侯爵家に引き取られる。男爵家の領地のみならず、領民、事業、すべてパーム侯爵家が引き受ける。婚姻までにエルム男爵領の領民たちは移住の準備を進めていくそうだ。


「私は学園が始まれば寮に戻りますけど、うちの領民たちをどうぞよろしくお願いいたします」


 そう微笑むオリビアと、終始黙って居心地悪そうにしているオグマ男爵はどっちがエルム家当主だ? と思うほどだった。というかそう囁いている人たちもいた。


 ――実際にその様子も見た。


「いやぁ、まさか男爵にあのような素晴らしいご令嬢がおられたとは。これからは我が家とも是非親交を深めていただきたいですな」

「うちもお願いしたいですね。パーム侯爵家ともお近づきになれそうですし」

「いやどうやって取り入ったのか……あの美貌なら治癒魔法などなくても、それなりの家の妾にはなれそうですが、まさかパーム侯爵家とはねぇ」


 どこでもいるよな、こういう人たち。と呆れすらした。不快だったので思わず割って入った。


「エルム男爵。こうしてお話するのは初めてですわね。バーチ伯爵家のリンダと申します」

「あなたは……」

「オリビア様とは親しくさせていただいておりまして」

「そうですね。オリビア様の治癒魔法にはとても助けられています」


 私が割って入ったあと、アルベルトが続いたことで、エルム男爵にちょっかいをかけていた貴族たちは表情をこわばらせて、すぐに散っていった。デュランも私のすぐ近くにいたし、さすがに彼らもローレル公爵家とマグノリア侯爵家に睨まれればこの国で生きていけないことなどわかっていただろう。パーム侯爵家のパーティーでそんなことする時点で遅いけど。


「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」

「堂々となさってください。オリビア様の父親なのですから。……目元がよく似ていますね」

「アルベルト様……はは、私と妻の、良いところだけを受け継いでくれた、自慢の娘です」


 アルベルトはそんな人たらしを発揮していた。


 いやごとをいわれても言い返したりせず、じっとおとなしくしていたオグマ男爵には正直、だいぶ好感が持てた。話を聞くだけではろくでもない父親なのかと思っていたけど。


 この国は、この国の貴族は魔力なしのものにとっては厳しいから、彼はその境遇に立ち向かうために大変だっただけで、もともと人が悪いわけではなかったのだろう。

 娘のオリビアがあんなに素晴らしい女性に育っているのだもの。

 

 婚約パーティーは夜遅くまで続いた。

 そろそろお開き、というところでデュランと話をした。ずっと一緒に近くにはいたものの、他のみんなもいるので、二人で話ができる時間はなかったのだ。


「リンダ」

「はい」

「気をつけて」

「はい。デュラン様こそ、学園がお休みの間はずっと特訓でしょう? お体に気をつけて励んでくださいね」

「リンダは、安全なところにいて欲しい」

「つとめますわ」


 安全なところってどこ。

 そう言ったりはしなかった。きっとデュランだって知らない。困らせるつもりはなかった。

 マリーローズならどこが安全か、知っている可能性はあるけど。

 クリスとオリビアの婚約パーティーにも、マリーローズは来なかった。

 第二王女であることを明らかにしたこともあって、より一層気軽に会うことはできなくなってしまった。



 めでたいこともあったものの、微妙なもやもやを抱えたまま学園は休みに入り、デュランたちは特訓に出かけたらしい。集合は王城らしいが、そのあとどこかに移動したのか、今も王城にいるのかは知らない。



 何も知らない私は一人することもなかった。

 休みに入ってからはただただ机に向かって勉強に明け暮れたり、魔法だの槍の素振りだのをがむしゃらに行って筋肉痛になったり、そんな風に過ごしていた。


 勉強ももう、あまりすることはないけど……。

 もしかしたらリンダが学年で筆記の成績一位って、ゲームでもそうだったのかもしれないな。あれだけ頑張った実技が中の中の中の上なところも考えると、結局、リンダはモブであることからは逃れられないのだろう。

 筆記学年一位がモブかどうかは別として。戦いでは役に立たないし。


 学園の教科書を開いてそんなことを考えていると、部屋をノックする音が聞こえた。

 応えてみると予想通り、ルナの声がお母様とのお茶の準備ができたことを知らせてくれた。

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