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四章第1話 メインキャラクターとの差。

「リンダって、本当に勉強できるよね。僕も魔法とかなら負けないのに」

「アルベルト様から勉強を褒めていただけるなんて……光栄です……」


 総合成績学年一位のアルベルトからの勉強できるよね。なんて何らかのハラスメントにならないだろうか。まぁ、彼が純粋な気持ちでただ賞賛を送っているだけというのはわかるのだけど。


 アルベルトとシャーリー、オリビア、クローディア、そして私、リンダの一年生のいつものメンバーは廊下の壁を眺めていた。

 先ほど貼り出されたばかりの、一年生の期末結果の順位表。この一年間の最終結果といえるその表を眺めている。


 順位は総合成績順に並んでいる。総合一位にアルベルト・ローレルの名前があり、クローディア、オリビア、シャーリーの順に並んでいる。私の名前は続いてはいない。しばらく先の、全体でいえば中の中の上くらいのところ。

 そこに私、リンダ・バーチの名前があった。


「リンダ様も本当にすごいですね」

「ありがとうございます……クローディア様にはかないません……」


 クローディアも純粋に私のことを褒めてくれている。彼女の、光をぎゅっとしたような性格では嫌みをいう発想すらないのはわかってはいる。


「中期までは実技も良かったのにねぇリンダ」

「シャーリー様……!」


 さらっと口にするシャーリーと、気遣いからたしなめるオリビア。正直、触れられても触れられなくても胸が痛い。どう転んでもつらい。こんな中途半端な総合成績の私が悪い。


「筆記の一位は素晴らしいではないですか。リンダ様の努力の証です」


 そう。アルベルトが、クローディアが、中の中の上にいる私のことを褒めてくれる理由は簡単。勉強だけはできているからである。

 総合成績表には筆記と実技の点数も記載されている。その筆記の成績では、私は一位なのだ。全体として中の中の上にいるからよく見ないと気付かないけど。

 筆記と実技は同じウェイトではなく、この総合成績表はほとんど実技の成績順に並んでいる。実技が同等なら筆記で順位がつく、というところか。


 私の筆記の成績は学年一位。本来なら誇って良いだろう。憂いを感じる必要なんてない。

 私だって頑張ったのだ。楽して筆記一位を取ったわけではない。

 もちろん前世のゲーム知識が予習になっていたというアドバンテージはあったけど、私の知識があっているか確かめるために実際の歴史やら魔法知識やらをたくさん学んだ。

 知らないこともあったけど、勉強は楽しかった。

 前世亡くなったのがアラサーで勉強から遠ざかっていたのもある。仕事せずにただ勉強できる時間は楽しかった。文法や計算ですら楽しかった。

 やっただけ結果が返ってきてくれるのも楽しかった。結果が返ってきてくれて、だから私は筆記では学年一位をとれたのだ。


 ただ、やればやっただけ結果が返ってきてくれるのは、机の上での勉強の話。


 実技はそうはいかなかった。

 私の氷魔法は、後期に入ってまったく伸びなくなった。槍で戦おうにも、体格や筋力に恵まれているわけでもない。魔法で自分の支援をしないといけないのに、その魔法が、たいしたことない。


 いや、私の感覚でいうなら、後期に入ってからメインキャラクターたちがとんでもなく伸びたのだ。


 アルベルトは炎の剣の継承をしたからか、上位職へのクラスチェンジでもしたのか? ってくらいに、見違えるくらいに伸びた。

 シャーリー、オリビア、クローディアもすごく魔法の力が強くなった。聖具の解放イベントのせいか、婚約相手が決まったせいか、何かのイベントをクリアしたとかフラグを立てたとか、そのくらいに伸びた。


 結果、この四人が実技試験の一位から四位を占めていた。正直ずば抜けていた。

 それで総合成績も同様に四人がずば抜けている。アルベルト、クローディア、オリビア、シャーリーの四人と五位以下では圧倒的な差があった。これがメインキャラクターなのかと思った。


 私がどんなにがんばってもがんばっても、魔法も、実技も追いつかなかった。


 アルベルトの幼なじみで、宰相の娘で、モブ寄りだけど名前もあるキャラクターで、デュランの婚約者になって、しかも闇色の竜の封印を解くために生贄になるキャラクターなのに、やっぱり私は非戦闘要員なのか。

 このままでは自分の身も守れない。


 そうしてひっそりと控えめに肩を落とした私の耳に、周りの生徒たちのざわめきが聞こえた。それはもちろんアルベルトたちにも聞こえているようで、全員がざわめきの大きい方向を見る。


 成績表の周りに集まっていた生徒たちが、花道を作るかのように通路を開き、ざわめきの発生源が現れる。

 まぁそうだよね。

 どう考えても四英雄の子孫が来たときの様子よね。


 開かれた道から三年のクリス、二年生のカイルとノエラ、そしてデュランが現れた。知ってた。

 

「やぁ。一年の成績も貼り出されているね」


 クリスが私たちに挨拶をしながら成績表に目をやる。


 私たちが、いや、メインキャラクターの皆さまたちがいるせいか、もともと成績表前は混み合っていなかった。他の生徒は遠巻きに見ていたのだ。

 メインキャラクターが増えたことで、より一層皆の輪が広がり、皆が遠のいた。

 周りの生徒たちも貼り出されたばかりの成績表を見たいだろうに、なんだか申し訳ない。

 私だって本来遠巻き側なのに。

 うつむきかけた私にデュランが声をかける。彼は成績表にはさほど興味がないようだった。


「リンダ」

「デュラン様、ご自身の成績はもうご覧になったのですか?」

「二位だった」

「総合で、ですか?」

「あぁ、実技でカイルに勝てなくて」

「じゃあ総合一位はカイル様ですか? ノエラ様は?」

「ノエラは筆記では一位だったが、総合では三位だ」


 一瞬、筆記一位でノエラと同じ、と喜びかけた。

 けどその話だと多分ノエラは実技三位だなと気づき、そっと気持ちを静めた。

 実技が総合に直結するから、カイル、デュラン、ノエラの順だったのか。


 クリスはどうせ三年で一位だろう。聞く気も起きなかった。と思ったらオリビアと話しているから聞こえてしまった。クリスは三年で一位だった。


 これがメインキャラクターというものか。

 

 努力で肩を並べられるような存在じゃない。

 やっぱり彼らに比べたら、私はモブなのだな。

 ゲームではアルベルトやデュランはそれほど優秀なイメージはなかったが、レベルアップがうまくいっているということなのだろう。


 成績表を見終わったらしいカイルとノエラが私たちの方に戻ってきた。

 不意にカイルと目が合った。何か言いたげに口が動いた気がしたが、すっと目を逸らされる。


 成績表に私の名前が見当たらなかったからかな? 私を見る理由はそれくらいしか思い当たらない。

 私はもう一度成績表に目をやった。

 総合成績順に並んでいる名前。真ん中あたりなんて埋もれがちで、一度見つけたはずの自分の名前でも、すぐに確認するのは難しかった。

 

「中庭でお茶でもしないか? どうせ今日はもう授業もないし、多少の時間はあるだろう?」


 カイルのその提案に異を唱えるものもおらず、皆で中庭へと移動した。

 ウィロー家のメイドたちが手際よくお茶を準備するのを見ると、最初から、今日はここでお茶をするつもりがあったらしい。


「それで、なんの話がしたいんだ?」


 皆がお茶やお茶菓子に手をつけ、話をしやすい雰囲気になった中、口を開いたのはクリスだった。


 ふとノエラを見ると、クローディアと顔を合わせてうなずき合っていた。

 カイルの双子の姉のノエラと、カイルの婚約者のクローディア。二人はすでにカイルから何か聞いているのかもしれない。


 他のみんなはカイルを見ながら、静かにクリスの言葉への返答を待っていた。

 私もそれに習って静かに待つ。カイルが話し出すまでにそう時間はかからなかった。


「聖具の話だ。全員聖具を継承したものの、まだ扱いに慣れてはいないだろう?」


 アルベルトもカイルもクリスも、そしてデュランも全員、聖具を継承している。


 しかしさすがに学園には持ってきておらず、それぞれ屋敷に置いてある。

 手元になくて不安ではないのか聞いたことがあるが、聖具は継承の儀式をしない限り使えないので、ここにいる四人しか使えない。悪用される心配はないそうだ。

 というか学園に持ってこられても、学園側が困るので止められるそうだ。そんなたいそうなもの持ってこられても扱いに困る、ということなのだろう。


 つまり学園にいる間は聖具の経験値を上げられないということだ。

 ゲームで考えれば武器には経験値というか熟練度というか、要は鍛えた武器の方がスキルを発動しやすい、という設定がある。

 それは聖具でも例外じゃない。

 結局、武器を使い込んだ方が良い、ということだけど、学園にいるとそれができない。


「年次休暇の間に、訓練をしないか? 俺たち四人とオリビア嬢とクローディアで」


 カイルの提案に、私はノエラとシャーリーを見る。

 ノエラは紅茶のカップに口をつけていて、特にカイルを見てもいなかった。

 シャーリーは『え? 私たちは?』ときょとんとした顔で疑問を口にした。


「ノエラとシャーリー嬢は年次休暇は王家に行くだろう? さすがに殿下の婚約者に内定している二人を聖具の特訓に連れて行くわけにはいかないだろ」

「それは、確かにそうか……」


 カイルの説明にクリスはすんなり納得し、シャーリーも反論しなかった。他もそれぞれにうなずいている。

 次に疑問を口にしたのはアルベルトだった。


「リンダが一緒じゃないのはどうして?」


 その言葉に全員が私を見た。

 ……視線が集まるのはちょっと耐えられえないものがある。

 ゲームではリンダは非戦闘要員だから、だろう。

 それでもここまで一緒に過ごしている現実を考えると、いない方が不自然かもしれない。


 どっちだろう。自分のことだといまいちわからない。現実に沿っていた方が良いの? ゲーム通りにいない方が良いの?


 その私の思考は、カイルの言葉に一刀両断された。


「リンダ嬢は力不足だ。四英雄でもないし、連れて行く理由がない」

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