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24 さよなら忙しかった中休み。

「運命って、こういうことを言うのね……」


 明日からの後期に備えて学園の女子寮に戻ってきていた私は、ノエラと共にシャーリーの部屋でお茶を飲んでいた。

 先ほどのセリフは、この部屋の主の、恋する乙女のものだ。

 この中休みの間の出来事を話していたはずなのだが、どうして運命の話になったのか。


 クリスとカイルは、無事に聖具を継承したとのことだった。

 オリビアとクローディアは儀式に立ち会ったり、それぞれ婚約を正式なものとするために忙しく過ごしていた。

 私も、デュランと、なぜかアルベルトの儀式にまで立ち会ったわけで、なかなかに忙しく、あまり休まらない中休みだった。さよなら中休み。


 そんな休み中、シャーリーは儀式に立ち会う予定もなく、儀式で忙しくしている面々と会うこともなく、なんというか、休みを持て余していたらしい。


 それでシャーリーがノエラに中休みの予定を聞いたところ、『ヒースクリフ殿下とのお茶会で王宮へいくけど、あなたも来たら?』と誘われ、一緒に王宮に行ったそうだ。

 シャーリーも四英雄家の一員だし、王宮がそこまで行きづらいところではないのだろう。


 ノエラと一緒に王宮に行ったところで、シャーリーは運命に出会ったそうだ。それで先ほどのセリフになるわけだが、シャーリーの運命はアルベルトじゃないのだろうか。


「マリーローズ様が、せっかくだからお兄様とお茶をいかがですか? って言ってくれてね」

「マリー……ローズ様が? 王宮でマリーローズ様と会ったのですか?」

「えぇ、あ、そうかリンダは会ったことないわよね、マリーローズ第二王女とは」

「……そうですね」


 マリーローズ第二王女としては会ったことは、私はない。そうか、王女として王宮にいることもあるのか、あの人。

 そういえばシャーリーとノエラは、逆にマリーローズ第二王女が町娘マリーとして過ごしているときに会ったことはないっけ。そんな気がする。


「マリーローズ様のすすめで、ラインハルト様とお茶をしたの。ラインハルト様はね、光魔法が使えないのですって」

「え?!」

「驚くわよね、第二王子なのに」


 そこではなくて。

 私は、ラインハルト殿下が光魔法を使えないことをそんなにあっさり明かしていいのか? と驚いていた。

 実際、マリーから第二王子が光魔法を使えないことは聞いていたけど、シャーリーに急に明かすんだ。そしてシャーリーはそれを私に言っていいのか?


「あの、その話って、私が聞いてよかったのでしょうか」

「四英雄の家のものなら知っていて構わないって言ってたから、リンダもいいんじゃない?」


 まだ違うけど……今さら聞かなかったことにはできない。聞いたものは仕方ないし、とりあえず私は、そうですか、と頷いた。


「光魔法が使えないから、ヒース様もマリーローズ様も気にしていたのよね。ラインハルト殿下の将来を」


 ノエラが優雅にティーカップを下げながら、ため息混じりに言う。


「将来を、ですか」

「そうね、婚約者をね」


 まぁ、そうだよな。

 ただでさえ魔力なしにはあたりの強いこの国だ。王族である以上、それなりの家と婚姻を結ぶ必要はあるし、それなりの家の令嬢が魔力なしを優しく受け入れるかは、疑問が残る。

 この国、エルトシアの第一王子は人柄も魔力も問題なく、当然のように立太子済なことはまだ良かった。そうでなければ跡目争いで第二王子も第三王子も大変だっただろう。


「ラインハルト様はね、前々から私のことが気になっていたのですって」

「以前から親交があったのですか? シャーリー様」

「四英雄家は王宮には行くからそこでね。私なら、魔力がない自分のことを受け入れてくれるのでは、と、そう思っていたんですって」


 なるほど、と相槌を返した。

 確かにシャーリーは面倒見がいいというか人情があるというか、学園でも一人になっている令嬢には自ら話しかけるようなところがある。情に厚いのよね。

 それがラインハルト殿下に伝わったのか。

 まぁ、実力主義のノエラと、かまってほしい姫気質のティナに比べたら、うん。


「これが運命なのかしら……ふふ」


 幸せそうに思い出し笑いをするシャーリー。

 第二王子のことはあまり知らないけど、マリーが言うにはシャーリーとラインハルト殿下は公式で結ばれるらしいから、たぶん大丈夫なのだろう、きっと。

 闇色の竜の戦いにはクローディアがいるから、王族の光の魔力が求められることもないだろうし。


「ノエラ様と義理の姉妹になるのはちょっと、とは思うけど、仕方ないわよね。愛してしまったのだから」

「あら、私がいるなら王宮も安心して過ごせるでしょう? シャーリーさん」

「ラインハルト様がいれば安心です」

「はいはい」


 なんだかんだ気心の知れている二人だ。うまくやっていくんだろうなぁ。

 実際、二人が王族に入るのか王子たちが臣籍降下するのかよくわからないし、聞いていいのかもわからないけど。


 わかるのは、アルベルトの攻略キャラクターは、これで全員、違う相手を見つけてしまった、ということだ。


「そういえばリンダさん」

「はい?」

「アルベルト様の儀式って成功したのよね? アルベルト様の様子がおかしかったのはどうなりまして?」

「あー、はい。大丈夫です。もういつも通りです」

「結局なんだったの?」

「あー、まぁ、自信をなくしていたようで、でも聖具を継承して吹っ切れたようで、はい」

「そうなの?」

「それなら良かったわ」


 うん。もう大丈夫。アルベルトはもう大丈夫。



 あの炎の剣の継承の儀式の日。

 私とティナとマリーはローレル家に泊まらせてもらった。儀式のために遠方から来たのなら……との気遣いを、主にマリーが受けた形だった。


「ありがとうございます。ホーソン辺境伯家までは長旅になりますから、ありがたいです」


 王宮に帰れば良いのでは……と言えるわけもなく、黙って見ていたら『まさか一人置いていかないわよね?』と巻き込まれた。ティナはローレル家に泊まれるのが嬉しそうだった。

 そして結果的に、この夜のお泊りがきっかけで、アルベルトは元気になった。


 ローレル家で夕食をとり、そのあと、ティナの提案でアルベルトと私たちはお茶をすることになった。


「アルベルト様、今日はすごかったですわ!」

「僕なんてまだ……」

「炎が剣と一体になったとき、伝説の英雄かと思いましたわ!」

「そんなことは……」

「素敵でしたわ、アルベルト様。あれが炎の剣を操るものの力なのですね」

「マリー様まで……」


 そんな会話を、私は笑顔を浮かべながら見ていた。

 最初は笑顔で見ていたが、途中できっと真顔になっていたと思う。

 最初は『僕なんて……』『そんな……』と言っていたアルベルトが『そうかな……?』『そうだよね』と、だんだんとあからさまに元気になっていくさまを見て、真顔になった。


 ようやく私は気づいた。

 このゲームは攻略キャラクター四人に対する親愛度のばらつきが大きいと、裏で嫉妬システムが作動するらしい。はっきりとわかるイベントはないが、あるとき攻略キャラクター全員の親愛度ががっくりと下がり、塩対応になるのだ。それが嫉妬システム発動と言われている。

 それが起こるとアルベルトは、弱るというか、心が折れるというか、拗ねるというか……メンヘラみたいになってしまう。


 嫉妬システムが起きたときのアルベルトみたいだなぁとは思っていたけど、そうだ。

 アルベルトは親愛度が足りなくてメンヘラ化していただけだと気が付いた。


「僕はクリスやカイルやデュランみたいに強くないから……」

「ええ? アルベルト様だってすごいですよ!」

「でも僕は……儀式だってあれで良かったのかなぁ?」

「炎の剣に打ち勝ったではないですか」


 なんだろうなこれ。なんか、こういうお店とかたぶんあるよな。

 そんな気持ちでしばし褒められるアルベルトと褒めちぎるティナとマリーを傍観していた。

 傍観していたのに、マリーに巻き込まれた。


「ねぇ、リンダ様もそう思うわよね?」

「あ、えぇ、はい。もちろんです」


 我ながら棒読みだった。


「でもリンダにとっては……デュランの方がすごいと思うでしょう」

「の方が、って、比べるものですか?」


 アルベルトの言葉に普通に、はい? と思ってきょとんとした。主人公が何を言っているのだろう、と。

 きょとんとした私に、アルベルトも何故かきょとんとした。

 主人公とか言うわけにはいかないけど、主人公だし、四英雄はみんな必要キャラクターなんだし。そう思って私はアルベルトに言葉を返す。


「アルベルト様は炎の剣ですし、デュラン様は水の槍ですもの。クリス様もカイル様も、四人揃ってこそですから」


 私がそう言ってもアルベルトはまだきょとんとしていたが、ティナとマリーの反応が、早かった。


「そうですわ! アルベルト様はアルベルト様ですもの!」

「炎の剣の英雄は、あなただけですわ」

「そう……そうだよね」


 そんなやりとりを繰り返すうちに、アルベルトはいつも通りになった。自信を取り戻した、という言い方がいいのかな。


 お茶会のあとティナが早めに寝てくれたので、マリーとこそこそと前世の話をしたが、マリーの見立てでアルベルトはもう心配ないとのことだった。


 もう大丈夫。アルベルトは元気になった。


 ただ、みんなにそれをどう説明しようか、少し考えた。チヤホヤされたら復活した、みたいなことなので、それを伝えるのもなんだかなぁ……。

 そう思った私は、みんなには、アルベルトは自信を失くしていたらしい。でももう大丈夫。そう伝えることにしたのだった。


 シャーリーにもノエラにも、夜になって女子寮に帰ってきたオリビアとクローディアにも、『アルベルト様は炎の剣を継承して自信を取り戻して、すっかりいつも通りです』そう伝えた。みんな納得してくれた。なんせ聖具の継承は大きな出来事だったしね。


 みんな納得して、良かった、とは言ってくれた。

 実際、アルベルトの攻略キャラクターだった彼女たちが、今どの程度アルベルトを気にかけているかわからないけど。

 できればもっと気遣ってあげてほしい。婚約者がいるところ申し訳ないけど、主人公がもう拗ねてしまわない程度には、アルベルトを気にして欲しい。申し訳ないけど、モブの私だけでは無理なので。

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