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3 経験値って大事ですよね。

「クローディア・ホーソンと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


 そう言って頭を下げた異例の転入生、ホーソン辺境伯の養女となったクローディアの挨拶に、クラスは静寂に包まれた。

 しかしそれは一瞬で、感心したようなため息がすぐにあちらこちらから聞こえる。クラスの全員が彼女に見とれているようだった。


 銀髪の髪に紫色の瞳という王族のような特徴を持つ、可憐さでかわいらしい顔立ち。平均より少し低めの身長が守ってあげたい雰囲気を強くしている。

 中休みはまだ素朴な雰囲気が多分に感じられたが、今は素朴さは純粋さに転じていた。所作も中休みよりさらに洗練されている。もともと真面目で努力家なのなのだろうと思える。とても好感が持てる。

 さすが正ヒロインと名高いメインキャラクターだ。


 クローディアの挨拶が終わり、中期開始の挨拶をした教員は、短い休み時間の間にアルベルトを呼び出した。もしやこれは? と思い、戻ってくるなり呼び出しの理由を聞いてみた。


『転入生は異例だから過ごしづらいと思う。だけど光魔法は希少だから、どうしても退学などにはなって欲しくない。よくみてやって欲しい』と言われたことを教えてくれた。


 私がアルベルトからその話を聞き出した時、見るとクローディアはクラスの人々と話していた。というか囲まれていた。

 クラスの人々はどう見ても好意的で、いじめとかの心配はまったくなさそうだった。ただ、何かとお近づきになりたい、というものは多いようだった。

 アルベルトと私、それからシャーリーとオリビアは、生徒たちに囲まれているクローディアを見て、それから四人で顔を合わせてうなずいた。

 その後、シャーリーがクローディアを皆の手から救いに行った。



 中休みあけの初日は、いわゆるホームルームのみだ。中期の説明くらいで、生徒たちは半日で解放される。

 半日で開放されるが、なぜか、不思議と、本日は皆でランチに行く。昨日のクローディアとノエラとの話から、そんなことになっている。


 クローディアの相談を受けて、ノエラはカイルに話をした。私は、アルベルトに話をした。だってアルベルトとクローディアを近づけたいもの。


 しかし私の立場上、アルベルトに話して、婚約者のデュランに話さないわけにもいかない。だから昨日のうちにデュランに連絡をした。それから夜には寮に前日入りしたオリビアにも話した。

 そしてアルベルトはシャーリーに話し、オリビアはクリスに話し、結局のところ、いつものメンバーが集まってお昼に行くことになった。


「大所帯過ぎません……?」


 ランチに向かう道すがらデュランにぼそりと言うと、デュランの逆隣りにいたカイルが私の声を聞きつけて返してきた。


「仕方ないだろ、光属性者だ。見てみたかったからな」

「カイル様も人に興味があるんですね?」

「光属性だよ興味があるのは」


 ウィロー家は魔導書を引き継いでいる家系だものね。人に興味ないふうなカイルでも、希少属性には興味があるのか。



 ノエラの案内で、少しおしゃれ目のカフェのようなお店にたどり着いた。

 前世でいったら表参道のオープンカフェみたいな感じのおしゃれさ。一人では多分入らない、いや、絶対に入れない。

 店の人は当たり前のようにテラス席を勧める。こちらとしては人数も多いし、店内より気兼ねなく話ができるテラス席は良い。綺麗な人をテラス席に、飾るように置く、というのはどこの世界でも一緒なのかなと思った。


「それで、光魔法はどう鍛えたら良いのか、って話だよな」

「はい。自分の力の使い方が、よくわからないんです」


 お茶も軽食も揃って、つまみながら話を始める。話始めたカイルは、どうやらある程度のことは把握しているようだった。

 

「光魔法って、実際にどういうものなの? 光るの?」


 昨日の私とノエラの話を知らないシャーリーが、素直に疑問を口にする。うん、一般的に光魔法ってイメージ湧かないよね。私だって前世のゲーム知識がなければそんな認識だったと思う。


「俺も文献でしか知らないけどな。光魔法は簡単に言えば闇の浄化らしいな」

「浄化、ですか」

「あぁ、だから聖具に力を貸せるし、闇色の竜を弱められる」


 カイルはそこまで言って、アルベルトに視線をやる。


「アルベルト様は何か知らないのか? ローレル家は過去に王女を迎えているだろう?」


 驚いてアルベルトを見たのはオリビアとクローディアだった。あれ、私も驚くべきだっただろうか? 四英雄の家と同じ反応になってしまった。


「あぁ、オリビア嬢とクローディア嬢は知らないか。何百年も前だが、前に闇色の竜が蘇った時に、当時の王女と炎の剣の英雄は結ばれているんだ。だからローレル家は公爵だし、アルベルトにも王家の血が流れていることになるな」

「何百年も前の話ですから。僕に光属性はありませんし」


 クリスが説明し、アルベルトが謙遜した。そこにおずおずとクローディアが話しかける。


「あの、もしかしてそれで、ローレル家には光の魔導書が?」

「えぇ、代々我が家に受け継がれていたそうです」

「そんな! あの、もしかしてそんな大事なものを、ローレル家から買い取ったのですか……?」


 思わず立ち上がったクローディアが、動揺した声をアルベルトにかける。


「申し訳ありま……」

「なんのために謝るんだ?」


 クローディアの言葉を止めたのはカイルだった。冷ややかに聞こえるその声に、シャーリーが食いつく。


「そんな言い方ないでしょう。自分が原因でローレル家の光の魔導書を……気にするでしょ? 高価な魔導書なのよ? あなただってわかってるでしょ?」

「魔導書を使えるものが使えない相手から買い取って、何が問題なんだ」


 カイルの声のボリュームはそれほどでもなかった。だけど普段は柔らかく話している中低音は、今は硬く棘がある。シャーリーが言い返さないのを見ても、カイルはその棘を丸めない。


「高価だからなんだ。使えないなら趣味の骨董品と一緒だろ。飾っていればそれで満足か? 聖具ならまだわかる。受け継ぐ義務があるからな。光の魔導書もそうだと勘違いしているのか?」

「カイル」


 止めたのはクリスだった。カイルは間違ったことを言っているわけではない。だけど言葉が悪い。それにきっと、クローディアは正しいことを言って欲しいわけでもない。

 少しの間、全員が口を閉ざした。


 そういうときに口を開くのは、やっぱり主人公だった。


「カイル様の言うとおりです。使える人の手元に渡って、誰かの力になる方が良いと僕も思います。僕はまだ次期当主で、光の魔導書をホーソン辺境伯に渡すのも、ローレル公爵が決めたことです。僕は正当な判断だったと思います」

「アルベルト様……」


 クローディアはそうつぶやいて、礼をするように頭を小さく下げ、そのままうつむいた。


「僕が当主でも、同じ判断をしたと思います」

「……え?」


 アルベルトの言葉にクローディアが顔を上げる。その場にいた全員がアルベルトの顔を見たが、迷いのない表情だった。


「クローディア様。もし、あなたが光の魔導書を授かったことに、何か思うことがあるのであれば、あなたはその光の力を、僕たちのために使ってください」

「アルベルト様たちのために……?」

「僕たちはきっと、闇色の竜と戦う運命にありますから」


 その言葉に全員が押し黙った。

 闇色の竜は何百年かに一度、蘇っている。多分もうすぐ封印は解かれる。きっと恐らく、あと一年ほどしか時間はない。

 そのタイムリミットはゲームを知っているものしか知らないし、デュランにも言えてないけど。


「その時に、あなたが光魔法を僕たちのために使ってくれれば嬉しいです」

「アルベルト様、でも、私は光魔法をどう操って良いのか……」


 クローディアが再び弱気になったその時、シャーリーがテーブルをばんと叩いて立ち上がった。


「そう言うのはカイル様がご存じなのでは? 魔法と言えばあなたでしょ?」


 多分シャーリーは先ほどのカイルのことをふっきりたくてカイルに言ったのだろう。それはそれとして、前を向きましょう。そういう物言いだった。

 そしてカイルもそれが伝わっている様子で答えた。


「もちろん。結局考えすぎなんだ。魔法の練習なんてたくさん使って経験を積む。それしかないだろ」


 確かにゲームでいえば経験値を得てステータスアップするしかない。現実だって経験値が数値化してないだけで、やることは同じだ。けど。


「たくさん使う、というのは、課外授業でですか?」

「クローディア嬢はまだ課外授業を受けたことがなかったな……あれじゃ生ぬるいな。俺たちで何か、特訓を考えてみようじゃないか」


 カイルのその提案に、クリスとノエラとデュランは頭を抱えたり、ため息をついたりしていた。その他の私たちは、なにもわからず首を傾げる。

 知っているものなら、頭を抱えるし、ため息もつくような、そんな特訓内容なのだろうな、という、嫌な予想はついてしまった。


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