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14 課題は続くよどこまでも。

 このフィールドには鳥の魔物がいると聞いたシャーリーは、弓を構えた。この課外授業には当然、武器の持ち込みは許されている。アルベルトは剣を、私は槍を、オリビアも剣を持っている。

 アルベルトの剣は一般的な普通の剣で、聖具の炎の剣ではない。あれはこの時点ではまだ操れないはずだし。私は、昔から槍を教え込まれている。デュランと婚約したときからね。水の槍の家系だからね。オリビアが剣なのは、基本、前衛に立たない彼女には向いていなさそうだが、たぶん、安価で手に入りやすいからなのだろう。


「じゃあ、私とリンダ、アルベルト様とオリビアでそれぞれ探しましょう。とはいえ、広すぎるわよね。どう探していきましょうか?」

「半分ずつ手分けするにしても、どう分けるかだよね」


 私たち一年生四人が作戦を話し合う中、二年生三人は、少し離れて見守るようにしていた。自分たちから口を挟むつもりはないのだろう。

 

「この中心の木から右がアルベルト様と私、左がリンダとオリビアで分けてみますか?」

「そういう分け方にはなると思うけど、目印が欲しいよね。リンダとオリビアは何か案はある?」

「そうですね、フィールドは円形に近そうですし、とこを探したかが分からなくなりそうですね」

「みんなで一緒に端っこまで行って、それから二組に分かれて背中合わせに外周に沿って進みますか? 等分にはならないかもしれませんが、おおよそ半周で会えますし、抜けや大幅な二度手間は防げそうですわ」


 ゲーム上では、マップは上から見えるしマス目で動けるし、魔物も可視化できる。そもそもこんなに広くないし、魔物がたくさんいるところへみんなで向かって、倒せば魔法石が見つかる。

 だけど現実は、広いし。上から見てないからマップも全容がみえないし、魔物も可視化できないし。広いし。これを実際に自分たちで歩き回るのはつらい。半周で済ませたい。

 そう思っての提案だったが、とりあえずみんな乗ってくれた。


「リンダの案、良さそうだね。合流したら内側に寄ってまた半周回る?」

「そうですね。幸い真ん中の木はどこからでも見えますし、あの木からどれくらい離れたかを目印にすれば、多少蛇行したとしても大きく逸れることはなさそうです」


 話しながらチラリと二年生の方を見る。案があるなら正直出してほしいが、手出しをあまりしてはいけないのかもしれない。反応を見る限りは、悪くはなさそう。なんかデュラン小さくだけどうんうんと頷いてるしなぁ。


「もし魔法石を見つけた時の合図はどうしようか?」

「真ん中の木をめがけて何か……雷でも落とします?」

「もう少し穏やかな方法ってないでしょうか」


 アルベルト、シャーリー、オリビアが口々に言う。合図かぁ。ゲームではリンダもいなかったし二手に分かれていなかったのよね。立体だとこんなに大変になるかぁ。


「リンダは合図の方法は何か思いつく?」

「風や水ならともかく、火と雷と氷、それと治癒ですよね……」

「風や水ならいけるの?」

「風なら木を揺らしてその音が届くように、水なら木の上から噴水のように出せばいけそうですよね」


 なんでこんな組み合わせになったんだ。探し物をするにも能力に偏りがありすぎる。

 そう考えていると、アルベルトが二年生の三人、デュランとノエラとカイルを見た。


「手を貸してくれませんか?」

「初めての課題だろ? いきなり二年生を頼るか?」

「今は同じパーティの仲間でしょう? もし僕たちが魔物に討たれても、課題だから仕方ないと見捨てますか?」


 アルベルトとカイルはそう言葉を交わしたあとも、お互いから目線をそらさなかった。


 先に動いたのはカイルだった。


「いいね。実はこれ、それも課題のうちのひとつなんだよ」

「課題? 何がです?」


 目をパチリとさせているアルベルトに代わるように、シャーリーがカイルにたずねた。


「何のために二年生が複数人一緒にいると思っているんだよ。助けてくださいが言えるかどうかも課題なわけ。実戦で先輩だから頼れないなんて言ってたら、死ぬぜ」


 いつものようになんてことないように言うカイルは、逆に怖かった。私は黙ってしまい、オリビアと、シャーリーも黙って受け止めたが、アルベルトは黙らなかった。


「では、手を貸してくださるんですね?」

「まぁな、俺としては女の子に頼まれたかったけどね」


 カイルはそう言って私とオリビアの方にウインクした。シャーリーは昔から知ってる仲だから、今さらしないのかな。


「これはまぁ難しく考えすぎだ。見つけた方は止まればいい。もう一方が多く歩くことになるが、よっぽど内か外にズレなければ見つかるだろ」


 言われてみれば単純だ。あまり歩きたくないが先行しすぎた。


「そのとおりでしたね……。お恥ずかしい限りです」

「まぁ二手のわかれ方は及第点だからサービスだよ。俺らに及ばないのは当然だから気にしなくていい」


 言い方に引っかかるものはあったけど、確かにこの人たちすごいしなぁ。それに比べて転生してもチートを持ってないんだよなぁ、私。心の中でそっとため息をついた。



 そうとなればまず、フィールドの端まで行き、そこから二手にわかれようと七人全員で歩き出した。

 東京ドームでいえばマウンドから歩き始めて、ベンチくらいまでの距離を歩いたところで、私は実感した。

 カイルやノエラがチートなら、アルベルトはやっぱり主人公なんだなと。


「ねぇ、あそこにいるのって、魔物かな?」


 アルベルトが指さす方向をみんなで見る。そこには鳥の魔物がいた。大きさでいえばカラスやカモくらいの鳥が三羽。

 このフィールドは、魔物の群れはひとかたまりしかないはず。つまりこれはもう、倒すべき群れを見つけたということになる。


「魔物のようですわね。え、ちょっと待って、あの先」


 シャーリーが少し慌てたように指した木の上には、ひときわ大きい、オオワシのような鳥がいた。まるで何かを警戒するかのように、目をギョロギョロとさせている。


「なにか、まるで番人のようですね」

「確かに何か警戒しているわね。でもオリビア、番人じゃ人よ、あれは鳥だから……番鳥?」

「番鳥は何か違うんじゃないですかね、シャーリー様」


 この世界でそんな言葉遊びできると思わなかった。


 一羽のオオワシのような鳥は最初ギョロギョロとしていて私たちに気づいていなかった。

 しかし、三羽のカラスサイズの鳥が『クェーッ!!!』と叫び声を上げる。やっぱりカラスではないらしい。それとも魔物になったら鳴き声も変わるのか。


 その声に応えるようにオオワシが両翼をあげた。そのまま飛び立ってくるのかと思ったが、その動きは何かの合図だったらしい。 


 三羽のカラスサイズの鳥と、新しく出てきた同じくらいの大きさの四羽の鳥が、私たちを目指して飛んできた。速い。


「みんな下がって」


 アルベルトはみんなを下がらせると、いくつもの火球を生み出し、丁寧に鳥に当てていく。大きな火球にしないのはこのフィールドに木が多いから、植物を焼かないようにだろう。

 しかしそれでは落としきれなかった。中央の五羽をアルベルトが落とし、右に一羽逃げ延びた鳥を、シャーリーが弓で、左の一羽は私が氷で足を捕らえた。動きの止まった鳥は、再び弓をつがえたシャーリーが射た。


「これで全部かしら……」


 新しい矢をつがえながらシャーリーがそう言うと、まだだと言わんばかりに草むらがガサガサと揺れた。角の生えたウサギが三羽、こちらに飛びかかってくる。一番近くにいたのは私だった。


「リンダ」


 アルベルトが私に呼びかけるのと、私が氷を打ち込むのはほぼ同時だった。二羽仕留めたが一羽は氷がかすめただけで、速度を落としてこちらに向かってくる。アルベルトが剣を構えたが、それより早く、シャーリーの矢がその一羽を落とした。


 シャーリーの弓の腕すごいな……。とはいえ、感心している場合じゃない。


 向かってくる魔物がいなくなった私たちは、このフィールドのメインであろうオオワシサイズのボス鳥に再び目線をやった。


「魔法で一発で仕留めるのは難しそうだね」

「シャーリー様の弓がよろしいのでは?」

「的が動くと、一発では行かないわね」

「私が氷で動きを鈍らせます。シャーリー様は弓を、それで仕留めきれなかった場合は、アルベルト様の火魔法でいかがでしょうか?」

「それでいこう。飛んでくる気配はないね、飛んできたら軌道は読めるんだけど……」


 オオワシ番鳥と私たちは膠着状態だった。

 私たちは一度に、同じターンで連続して攻撃を与えたい。途中でかわされると仕留められず反撃を食らうだろう。だけどオオワシ番鳥だって攻撃の準備をしている。お互いに、初手を当てたい。


 しばしの膠着状態のあと、オリビアが名乗りを上げた。


「私が囮として、鳥に近づきます。そうなれば向こうも飛びかかってくるでしょう」

「でもそれは、危険だよ」

「大丈夫です、皆さまを信じていますから。皆さまが協力して攻撃してくださるのでしょう?」


「……気をつけて、危ないと思ったらすぐに下がってくれるね?」


 少しの沈黙のあと、アルベルトはオリビアをまっすぐに見て言った。オリビアを危険な目に遭わせるのは気が進まないものの、他に効果的な方法が思いつかなかった。そんなところだろう。私だってそうだし。


「お任せください」


 オリビアはアルベルトにしっかりうなずき返し、私たちの方をさっと見回してから、ゆっくりと、鳥の方へと歩み始めた。

 ジリジリと距離を詰め、オリビアが私たちとオオワシ番鳥のちょうど真ん中くらいの位置に差し掛かったとき、鳥は動き出した。


 そこからは一瞬だった。オオワシ番鳥は両翼を羽ばたかせ、オリビアを目指して飛びかかろうとした。


 私の氷の槍は鳥の中心には当たらなかったものの、片翼を凍らせ、鳥はガクッと速度を落とした。それを読み切ったかのように、シャーリーの放った矢が鳥のほぼ中心を射抜いた。

 だが、鳥はすぐに地に落ちることはなく、流れのままに風をかたどるように、そのままオリビアの方に飛んでくる。

 すっとオリビアをかばうように歩み出たアルベルトが、鳥の前に炎の膜を張る。膜を抜けた鳥は、アルベルトの剣に切り裂かれた。

 そうして、オオワシ番鳥は地面に落ちた。


 少し様子を見ると、オオワシ番鳥はモヤのように消えていった。この世界の魔物はこういう消え方をする。


「やりましたわね!」


 一番に喜びの声を上げるシャーリーの声に被さって、パチパチと拍手が聞こえる。

 音の方を見るとカイルがニコニコと拍手をしていた。その隣のノエラはぜんぜん笑っていない。デュランは相変わらず表情が読みづらい。私から見ると、たぶんちょっと機嫌良さそう。


「いい連携だったね、最初の課外授業にしてはお見事」

「カイル、褒めるには早いでしょう」

「まぁいいじゃないか。これがもしこのフィールドのボスを倒すって課題だったら完璧だったんだから」


 あ。含みのある言い方にオオワシ番鳥の跡地を見た。魔法石のドロップはない。

 考えてみれば、課題のために意図的に隠しているのだ。オオワシ番鳥を倒したところで魔法石を落とすわけがない。

 つまり課題はまだ終わっていないのだった。

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