17 私も強くなりたいです。
魔法の練習と休憩を繰り返して時間は過ぎ、夕方には解散となった。なぜか私は帰りはデュランに送られることになった。
アルベルトとティナに送り出されて、馬車の中に二人。ごゆっくり〜なんて送り出されて、馬車の中に二人。なんていうか、学生の冷やかしみたい。中学生くらい? まぁ実際、中学生よりももっと年下だしね……感覚も違うはずだけどね!
「ティナとのわだかまりがなくなったように思います」
デュランはそんな嬉しい報告をしてくれた。わだかまりがなくなったのは、ヘアバンドがきっかけだったと言ってくれた。
もともと二人は、お互いに接し方がわからなくなっていたらしい。話す機会が必要だっただけなのだ。
デュランが水の槍のことを父から教わり、ティナが水の槍に触れて泣き出したその頃から、デュランはティナにどう接していいかわからなくなっていたそうだ。
自分が、水の槍が、いつかティナを傷つけてしまうのではないかと。
対するティナは泣き出したことなんて覚えておらず、気付いた時には兄が冷たくてよそよそしいから、自分は嫌われていると思っていたそうだ。
「俺に近づかない方がいい、ってお兄様に言われたから、だから仲良くできなかった、と言われたときには、申し訳ないと思いましたね……」
そんなこと言ってたのか妹に。そんな厨ニ病みたいなことをこの人。一周回って面白すぎるでしょ。
「確かにそれは近寄りがたくなってしまいますね」
「そう、ですよね……」
「でもティナ様がそれをデュラン様に言えたというのは、もう過去のことになったということですね、よかったです。デュラン様も謝ったのでしょう? ティナ様に」
「本当にすまなかったと言いましたね、さすがに、俺が悪い」
「良かったじゃないですか、気付けて謝ることができて」
デュランはもともと妹とどう接していいかわからないと父に話をしていたが、デュランの父はとても口下手で、状況を改善することはできなかった。
一方ティナは母親に相談し、大きくなればそのうち何とかなるのでは、と言われていたらしい。
私がマグノリア家に行ったとき、母親はティナを連れて出かけていたそうだ。出かけるときによくティナだけを連れて行っていたらしい。
いろいろとすれ違っていたが、ヘアバンドを、プレゼントを渡したことでティナは兄に嫌われてなかったとわかり、雪解けとなったらしい。
マグノリア家はちょっとみんな不器用で、お互いに気を使いすぎていた。そんなかわいらしい状況だったのだ。
「仲が良いのですね、素敵な家族でいいなぁ……」
思わず感想がもれる。
前世では家族の団らんを知らないし、リンダの家族は父は仕事で家を開けがち、兄は学園の寮生活で普段いない。母は比較的家にはいるが、ローレル家に出かけることも多い。特にここ最近のローレル家は当主が亡くなり、急な代替わりが起きたので手厚くもなる。
どれも仕方ないし、揃ったときのバーチ家は仲が良いけど、おやつをかけて私の魔法属性当てするくらいに仲は良いのだと思うけど。
「バーチ家は……仲が良くないとは思えませんが……?」
「そうですね、そうだと思います。ただあまり一緒に過ごすことがありませんし」
「忙しいからですかね」
「そうだと思います。父も兄も。私もこれまでのように母と一緒にローレル家に行くわけにもいかないですし、家族はバラバラになってしまいますわね」
まぁ、それはそれでいいんだけど。一人の方が気楽すらあるし……。あ、でも一人だと魔法の練習ができないのは困るかな?
今の私の目標は二つある。
一つは学園に入るまでに婚約者を作ること。
もう一つは、自分で自分の身を守れるようになること。
ゲームで戦闘に参加しないリンダはどのくらい魔法が使えたのか、どれくらい強かったのかはわからない。わからないけど、自分の身を守れるに越したことはない。強くなるに越したことはないのだ。
そう考えると……。
「デュラン様、また魔法の練習に付き合っていただけません?」
「リンダ様、今度また、マグノリア家に来ませんか?」
言葉は同時だった。
「……」
「……」
少しの無言のあと、お互いに目を合わせて笑いあった。
それからどうぞどうぞの譲り合いをして、デュランに先に用件を口にしてもらった。ここらへんは高位貴族のご令息だけあって空気を読んでくれてありがたい。
「今度また、うちに来てください。母は氷属性ですし」
「そうなんですか? ぜひ会いたいです! 魔法のお話したいですし、会わせていただけるんですか?」
強くなりたい。魔法の話聞きたい。そして氷属性ってドライな性格なんだろうか。ぜひ確認させて欲しい。
「えぇ、母に話しておきます。母もきっとリンダ様を気に入ると思います」
「そうなったら嬉しいですわ」
氷属性の人に会える。魔法の練習ができる。デュランの両親はゲームには話が出てくるくらいでどんな人かわからないけど、氷属性なら気が合うかもしれない。前世の私と年齢とかも近そうだし……。
私はきっと喜びあふれる表情をしていたと思う。
デュランもなんだか嬉しそうで、私の顔を見ては微笑みを返してくれた。きっとティナとの関係が修復されて家族と仲良くできるのが嬉しいのだろう。
そして約束の日、私はルナと御者のハンスを連れてマグノリア家を訪れた。今日はネイビーのツーピースにグレーのはおりもので、魔法の練習で実践をすることになっても動けるけど、それなりにちゃんとした服装だった。もう少しざっくりした服装で出かけようと思っていたが、母にそれを許されなかった。
出迎えてくれたデュランはグレーのシャツに紺色のパンツで全体的に私より濃い目の色だったが、なんだかものすごく、ものすごく、私たちの服装は似ていた。統一感があった。
お互い全身を一目見てそのことに気づいたので、なんだか照れ笑いした。
明らかに気付いていたけど、指摘するのも恥ずかしいので、結局お互いそのことに触れなかった。
「まぁまぁまぁ、その服装はお揃い? 仲良いのね?」
デュランの母、ナンナ・マグノリア侯爵夫人には第一声で指摘された。
ナンナ様の目線で気付いた。青みがかったデュランの髪の色と灰色がかった私の髪色、ネイビーとグレーの服装。
これはやってしまった。ネイビーがもともと好きなので気付かなかった私も悪いけど、帰ったらお母様に文句言おう。
「リンダお姉様! ようこそおいでくださいました。私もお茶をご一緒させていただいて良いですか?」
「ティナ様、ごきげんよう」
お姉様……? ツッコむ適切な言葉が見つからなくてツッコめなかった。今日もティナは元気で、赤いヘアバンドをしていた。
今日は茶菓子等は用意するので持参は控えて欲しいと言われ、何も持ってこなかった。
用意されているお菓子はすごかった。ホテルのアフターヌーンティーなら八千円は超えそうな、サンドイッチ、スコーン、フルーツタルト、ブラウニー、ショートケーキ、生ハムメロン。そのどれもが品の良いサイズできらびやかに並んでいる。
前回、私アップルパイ持ってきて、失礼だったかな……。
「リンダちゃんの好きなものがわからなくていろいろ用意したんだけど、どうかしら? お好きなものがあったらお代わりしてね?」
「あ、ありがとうございます……」
「前回お姉様が持ってきてくださったアップルパイ、美味しかったです!」
「ティナ様、食べてくれたんですね」
「はい! リンゴがよく採れるんですよね?」
「バーチ領はそうですね、リンゴが名産です。マグノリア領は食べ物では海産物が豊富なんですよね?」
この国の北は海沿いなので、マグノリア領は海産物がよく採れるはずだ。
「あら、よくご存じなのね? 夕飯は魚料理を用意しようと思うのだけれど、好き嫌いはあるかしら?」
「いえ、特にありません」
あれ、私、夕飯までいただく感じでいいんだっけ……?
ルナはマグノリア家の使用人と一緒にいるので尋ねる相手もいない。うん、なるようになれ。
そう思いながら私が割ったスコーンにクロテッドクリームを乗せていたところで、ティールームの扉がノックされ、すぐに開かれた。
「遅れてすまない」
デュランの父、マグノリア家の現当主であるオーディン・マグノリア侯爵だとすぐにわかった。
口にものを運んだタイミングじゃなくて良かったと思いつつ、スコーンを置いて、席から立ち上がって礼をした。
楽にしていい、との言葉のあとにお互い名乗りをすませ、オーディン様も席に着いた。
マグノリア家の皆様とのお茶の時間のあとは、ナンナ様と魔法の話をした。
「よろしかったら、こちらの魔導書は差し上げるわ。リンダちゃんならすぐに使えるようになるでしょうし」
「え、いや、それはちょっと気が引けると申しますか」
「いいのよ、これからもデュランをよろしくね?」
「はい? はい」
デュランとはこれからも仲良くしていくつもりだ。アルベルトとともに戦うのだからアルベルトと仲良くして欲しいし、強くなって欲しい。
私がアルベルトとメインキャラクターの仲を取り持つキャラクターである限り、これからもデュランとは仲良くしていく。
「デュラン様には、今後とも是非仲良くして欲しいですわ」
私ともアルベルトとも。
同じ室内でナンナ様の魔法談義を聞いていたデュランがガタリと音を立てた。
ナンナ様はにこやかに、うんうんと頷いていた。あぁ、なんだかナンナ様とは仲良くなれそうだなぁ。




