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16 貴族って難しいですね。

「それで結局、リンダはデュラン様と婚約するの?」

「いいえ?」

「即答はデュラン様も傷つくと思うんだけど……」


 確かにデュランだって私みたいなモブに断られるとか心外かもしれない。私はアルベルトに、考えたこともなかっただけだと説明した。


「貴族の家に貴族として生まれているんだから、考えるべきじゃない? まぁ僕たちの家ほど厳しくはないと思うけど」


 わかる。

 前世ですら、あの現代社会ですら結婚している方が偉いとか家庭を持っている人の方が上とかそんな扱いはあった。親もいなくて一人になって、淋しくても一人で生きていけちゃったから、もう考えることもしなくなっていたけど。


 それでも今のところ、親になにか言われたことはない気がする。とアルベルトに伝えると、アルベルトは首を捻った。


「そう? 叔母様……じゃない、お義母様はリンダと婚約しようとしてたみたいだけど」


 いや聞いたなその話。あったわ。親になにか言われていて私が聞き流していただけだ。


「ちなみに確認ですけど、私はもうアルベルト様の婚約者候補からは外れていますよね?」

「もちろん。魔法属性が氷だからね。まぁ僕がどうしてもリンダがいいとかいえば説得できると思うよ。やる?」

「絶対にやめてください。火属性じゃない子供が生まれたら私がどんな目にあうか」

「そういうのはちゃんと考えられるんだね」


 アルベルトは全く私のことを恋愛対象としては見ていない。私もアルベルトをそうとは見ていないし、お互いにそれがわかっているから気楽だ。

 だけど……前世の役割を思い出した今なら私は婚約者候補じゃないなって思うけど、思い出す前からアルベルトは私を恋愛対象として見ていないのよね? それはちょっとなんか、私、悲しくない? リンダ悲しくない?


「アルベルト様って、好きな人とかいませんの?」

「リンダのことは好きだったよ?」

「はい?」

「やっぱり気づいてなかったんだ」

「……はい」


 あれ? これどっち? 冗談? 本当?


「リンダは幼い頃から僕と一緒だったよね。リンダの母親のレベッカ様は僕の実の母とも今の義母とも仲が良くて昔から付き合いがあったし。公爵家の僕に対して伯爵家だけど、バーチ伯爵は宰相で権力もお金もあるし、四英雄の派閥も特に関係ないし、兄がいるから伯爵家を継がずに嫁いでくれるだろうし。幼い頃から気が知れていて僕の両親が亡くなった時もそばにいてくれて、そのリンダのことをなんとも思ってなかったと思う?」

「えっと……ありがとうございました……?」


 私が疑問を露わにしながらお礼を言うと、アルベルトは屈託なく笑った。


「まぁでも、途中から氷属性じゃないかなって思ってたけどね? なんていうか、妙にドライなところとかあるしさ。絶対に火じゃないと思ったよね」


 氷がドライってみんな共通認識なの? 悲しくない? 今すぐ氷属性の人と出会って慰め合いたい。


「まぁだから僕はリンダが氷属性だとわかっても、なるほどって感じだったけど、叔父……お義父様は、リンダの属性を聞いてがっかりしてたよ。僕は亡き両親の、ローレル家の一人息子だから、万が一のことがあるといけないからね」


 魔法属性は遺伝なんてしない。だから本当はきっと、結婚相手の魔法属性なんて関係ない。ローレル家なら代々火の属性者が生まれると思う。もうローレル家の血を引く限りそうなんだと思う。

 でもそれは、エタロマシリーズの他の作品も見ている私だから、多分大丈夫! と言えるのだ。現実で博打はできない。そうなったら、一つの英雄の家が断絶しかねないのだから。


 まぁ、この後、アルベルトの義両親は二人の子を授かると思うからアルベルトは、一人息子じゃなくなるけど、そのはずだけど、下手なことは言えない。


「まぁ僕はともかく、リンダはデュラン様と婚約したら?」

「どうしてそうなるのか分かりませんが、デュラン様も迷惑だと思いますわ」

「迷惑? どうして?」

「私みたいな脇役より、もっとふさわしい人がいると思いますし」

「脇役? 誰にとって?」


 誰にとって……? あれ……?


「リンダの人生はリンダが主役だし、デュラン様にとっても大事な人だと思うよ、もちろん僕にとってもね」


 私は、アルベルトの恋愛を支えるための支援キャラクターで、脇役だしモブだし、戦わないし、死ぬ可能性高いし、そんなものだろう、と思っていた。

 だけどそれはアルベルトが主役のエターナル・ロマネスク〜誰がための炎の剣〜におけるリンダ・バーチの役割だ。

 あれ? なんだろう、この感じ。

 急に自分のアイデンティティが揺らぎ始めた。


「それにデュラン様と婚約しておいた方がリンダのためだと思うよ?」

「え?」


 すっとんきょうな声が出た。


「なんていうかちょうどいいんだよやっぱりリンダって。宰相の娘で伯爵令嬢で、しかも今までは僕の婚約者候補だと思われていたから縁談の申し込みもなかっただろうし、他の令嬢たちもリンダには勝てないから牽制もなかったと思うけど」

「勝った覚えはないんですけど」

「幼なじみって強いよね」


 アルベルトはいたずらっ子のような、面白がったような様子で私にニコニコと話し続ける。

 いやこれ面白がっているだけか? 本当に面白がっているな?


「僕の婚約者候補を外れたって言ってもそれは氷属性だからっていう何の問題もない理由だし、これから婚約申し込みとかたくさんくるんじゃない? 断り続けたら訳あり令嬢扱いだろうね」


 やっぱりアルベルトは面白がっていた。まぁこれだから私とアルベルトはただの仲の良い幼なじみでいられたのだろう。


「他の婚約断り続けていたら、僕もちょっと距離を置かないといけないし、周りから見たら 僕のことをまだ思っているように見えちゃうだろうから」


 こういうとこ。こういうのを楽しそうにいうところ。とても気が楽。

 まぁでも言われていることは納得感がある。というか納得しかない。私はアルベルトの婚約者候補を魔法属性が氷というだけで外れているのだ。その私が婚約者も作らずアルベルトのそばに居続けたら、アルベルトが、デュランたち四英雄の子孫はともかく、女性の攻略キャラクターとの親愛度を上げる場合に、私が邪魔になる可能性がある。

 そうなると、とても良くない。自分で自分の首をしめている。


 そうなると、私は覚悟を決めるしかない。


「アルベルト様」

「ん?」

「私、早く婚約者を見つけることにしますわ。できれば学園に入る前に」


 そうしないと、私はアルベルトの親愛度上げを手伝えない。

 まさか闇色の竜を倒すために、アルベルトが親愛度をあげるために、自分の命を救うために、婚約相手を作る必要があるとはね……。

 何ともいえない気持ちで決意した私に、アルベルトはにっこり笑って言った。


「僕のおすすめはデュラン様だよ」



 魔法の練習場所に着いて馬車を降りた私たちは、先に着いていたマグノリア家の馬車を見つけた。

 馬車からティナが降りてきた。中で待機していたようだ。降りてきたティナの頭に、赤いベロアのヘアバンドがあった。

 この間の、見覚えがあるヘアバンド。


「あ、ティナ様、そのヘアバンドかわいらしいですね。よくお似合いです」


 さらりとそう言ったアルベルトに、私はゲームのティナが赤いヘアバンドを着けていた理由を理解した。たぶんきっとこれがきっかけだ、うん。


「ありがとうございます。これはリンダ様が選んでくださったと聞きましたわ。これからはリンダお姉様と呼んでも良いですか?」

「はい? あ、え? はい」

「将来は本当にお姉様になるのでしょうし」


 返す言葉を見つけられない私に、アルベルトは笑顔を向けた。


「じゃあ僕はティナ様と練習しようかな、良いですか?」

「もちろんですわ!」


 アルベルトとティナはそのまま二人で歩いていき、ティナの後ろに黙って立っていたデュランはようやく話しだした。


「ティナはあのヘアバンドを気に入ったようです」

「それは何よりです……」

「さ、魔法の練習をしましょうか」


 なんともいえない気持ち。

 デュランの魔法は、前回よりずっとパワーアップしていた。修理して良かった。うん。

 なんだろうなぁ。アルベルトの親愛も恋愛も支援するキャラクターがこんな事思うのもなんだけど、婚約とか結婚とか、全然想像つかなさすぎるなぁ。

 貴族令嬢ってむずかしい。

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