旅の準備をしよう(8)
私が少し緊張をしながら姿を表すと、おおーっ、と二人の歓声が上がる。
「どうかな?」
その場でくるりと回ってみると、新しく装備したばかりのドレスとケープがばさりとはためく。
「えっと、死霊術師か何か?」
「……おい」
何故そうなる。
「じゃあ、毒りんごを売っていたりは?」
「…………売ってない!」
「――っというのは嘘ですけど。いや、めちゃめちゃにカワイイですし、格好いいっすー!!」
「………………ほんとに?」
「ホントにホントっすよう。……やるじゃないっすか、おっちゃん! グッジョブっす!!」
「そうだろうよ。まだまだ俺のセンスも捨てたものじゃあないってことだ」
ふふん、とどこか得意げなガサルさん。
「……けど、なぜに黒? カナカナといえばむしろ、ザ・白! のイメージなのでは?」
「いいや――格好良いといえばザ・黒だろうが」
「…………む、なるほど」
考えるようにして、納得をするニア。
……確かに、『格好良い装備を』、と言ったのは私かも知れないけど。
一応、ステータスの画面を開いて、第三者視点から見た自分の姿をチェックしてみる。
……うーん。
なんだかやっぱり、怪しく見えるような。
そう思って、とりあえず(いつの間にやら)後ろで結われていた髪を解いてみた……けれど、特には印象は変わらず。
顎にかかるくらいの明るめの髪と、こめかみの辺りにつけられた髪飾り(呪われてるけど)、黒の落ち着いたワンピースのドレスに、肩へと掛けた長めの外套、足元にはかかとの高いブーツ……とここまでは良い筈、なんだけど……。
おかしいな。
現時点ではフードを外している、にも関わらず、なんだか、どうにも、どことなく。……怪しげな雰囲気が漂っている。
なんでだろう? とじっと考えていて……ふと気が付いてしまった。
原因はまさに、背中に背負った、『布でぐるぐる巻きにされた両手斧』である。
ニアがネクロマンサーなんていうのも無理はなく、この怪しい物体のせいで、なんだか一際に怪しげな雰囲気が漂ってしまっているのだ。
武器は装備から外してしまっても良いのだけど……と言っても、今からすぐにパーティの待ち合わせだしなー。
……なんて私が悩んでいると、
「ちなみに、そのドレスと外套、それからブーツは、知人の古物商から買い取ってきたものだ。それも、奴が外国から買い付けてきたばかりのものを店に出す前に俺が引き取ってきたんだ。――言っておくが、全て本物のマジックアイテムだぜ」
得意げにガサルさんが呟く。
「おおーっ♪ ……ちなみに性能の方は?」
「ばっちりだぜ。身軽な割にはしっかりと丈夫で、新品を言い値で買ったらまとめて金貨で20枚は下らない品々のはずだ。ヴィンテージ物だという理由もあるが、その上で顔が効く相手だから、かなり無理を言って値段を出してもらったんだぜ」
「実は、もっとゴツめの感じの鎧とか胸当てとかを想像してたっす」
「うむ。俺もその線で考えていたんだが……どうにもカナトの筋肉の付き方を見た限りでは、重くしっかりとした防具を揃えるよりも、身軽な物でまとめた方がより戦いやすいんじゃないか――と、そう思ってな」
「ロマンっすねー♪」
……そうなの?
ガサルさんはそれから、私の手首につけられた銀の腕輪へ視線を送ると、
「ちなみにその腕輪だが、その品はカナトから預けられた戦利品の中に入っていた物だぜ。良い品に見えたんで売らずに持ち帰ってきた。よく似合ってるじゃないか」
……ええ? こんなの持ってたっけ。
私が首を傾げていると、ガサルさんは事態を察したとばかりに言葉を続ける。
「……やっぱりな。間違って売り物の中に入り込んだんだろうと思ってたぜ。慌ててたんだろうが、少しドジが過ぎるぞ。……それから」
と前置きをして、何やらカウンターの奥から何かを取り出してくる。それをこれ見よがしにカウンターの上に置くと、布を取り払う。
……すると、どこかで既視感のある真っ黒いオーブが現れた。
「これも同じく売り物の中に突っ込まれてたモノだが……一体何なんだ、こいつは」
それは、少し歪な多面体で、巨大な水晶の結晶にも似ている。けれどその内側は水晶のように透けてはおらず、もうもうと煙るような黒い何かが渦巻いていて、中心部分には怪しい、赤い光が、まるで心臓の鼓動のように明滅している。
……じいっと耳を傾けると、どくん――どくん――と脈打つ音すらも聞こえてくるかのよう。
…………あ。
どこかで見たことがあると思ったら、これは地下道で戦った大ボス〈シャドウ・エクスペリメント〉が最後に落とした、怪しいオーブだ。
アイテム名は……そう、〈実験体の核〉。
眠かったのもあって、もはや存在ごと忘れてました。
「あれれ……。すっかり忘れてました、ごめんなさい」
言って、その怪しいオーブを受け取る。
「――だろうと思ったぜ。まさか売り物じゃあなかろうと持ち帰ってきて正解だったな。……魔術に関しては素人の俺でも、コイツからはなんだか異様な波動と、ヤバそうな雰囲気だけはありありと感じるぜ。……大事にしまっておけよ」
…………そうなんだ。
でも、正直に言うと、これは売っちゃってもらっても良かったようなー。
何に使うのかもわからないし、ちょっと気持ち悪いし。
「うーん。なんなんでしょうね、これ」
言って、オーブを仕舞おうと手に取る私。……すると、オーブを隣から覗き込んでいたニアが、突然何かに気付いたみたいに、むっ?!、と小さく声を上げる。
「……カナカナ、それ、もうちょっと高く掲げてみて」
え?
「なんで?」
「なんでも♪」
……。
とりあえず、言われるがままに持ち上げてみると、私が掲げたオーブをまじまじと覗き込むニア。
なにか見えるのかな?……と、私もオーブの中にちりちりと煌めく赤い光をじっと見つめていた、その時。
……どこからともなく、すーっ、と伸びてきたニアの手が、何故か突然に私の脇腹を――それも肌を直に――つんと突付いた。
「――――ふぎゃああああああっ!!!!?!?!」
私が思わず落としてしまったオーブを、床の手前――つま先を使ってサッカーボールのように雑にキャッチするニア。
きっとニアを睨む私を、きょとんとした顔で見やった後――ぷっと吹き出したニアが、それから盛大に声を上げて笑い出す。
猫の声、猫の声が……と呟きながら、大笑いをするニア。それに釣られたのか、ガサルさんまでもがぶっと吹き出して、一緒になって笑い始める。
ぐうう~~……。
悔しい。ニアを相手に油断をしてしまった私が憎い……。
思わずその場で外套を持ち上げて服を確かめてみると――よくよく見るとサイド部分に、いわゆるスリットのような穴が開いている事に遅れて気付く。
「ふ、服に、あ、穴が……!!」
「ちらりと素肌が覗いていたので、つい♪」
うっすらと涙を浮かべて呟くニア。
「穴って……元からそう言うデザインだぜ。今、流行ってるんだろ?」
流行ってないよ、そんなの!!
「RPGっぽくて良いじゃないですか♪」
……むーっ……!
けたけたと笑っているニアとガサルさんを無視して、ニアの持っていたオーブ――〈実験体の核〉を所持品にしまう。
……はぁ。
まあ、普通にしてたら気にならないし……服の隙間に手を入れてくる人なんてニアくらいのものだし。……別にいいか。
さて、閑話休題。
それから最後に、ガサルさんからポーションと手斧を受け取ると、私達は集合時間も近くなってきた――ということで、ガサルさんへとお別れを言って、お店を後にした。
そして心機一転、新装備の一式に身を包んだ私達はお昼も近づいて燦々と照りつける太陽の下、パーティの集合場所である『北門前の広場』へと足を向けたのだった――。




