旅の準備をしよう(7)
……あれ?
「だって、攻撃、されたり――とか……」
呟いて、もう一度ちらりとガサルさんを伺うと、なにがなにやら、と言った様子で私を見返してくる。
「えっと、一応言っておくと、赤ネームだから即ちNPCに攻撃される、というわけではないですよ?」
「……えっ。そうなの……? あれ、衛兵からも?」
ニアは少し考えるようにして、どこから説明するべきか?、と呟いてから、
「赤ネームだと、ある種のNPCからは嫌われやすく、そしてある種のNPCからはむしろ好かれやすくなります。……つまり、例えば『衛兵』のようなNPCからはぐっと訝しまれやすくなりますし、逆に言えば、悪事に片足を突っ込んでいるような怪しい連中の態度はむしろぐっと良くなります。……なので、別に赤ネームでも、このゲームって案外にプレイしやすいっすよ?」
……そういう問題かなぁ……。
大体、なんでそんなに詳しいんだろう。
「私、この間衛兵に顔を見られたらいきなり攻撃されて、戦いになって……ひどい目に合ったんだけど」
ええっ……?!、と声を上げて驚いたニアが、
「それって昨日聞いた、プレイヤーの集団に追いかけられて戦いになった、って時の話?」
こくりと頷く私。
「街中で衛兵と戦闘って……考えるだけでもオソロシーっすけど。よく生きてましたねー?」
呟くと、うーん、と考えるようにして、
「さっきも言ったように『赤ネーム』であることと『評判』とは別なので、ただ赤ネームだからNPCに攻撃を受ける、わけではないっす。……なんで攻撃されたんだろう?」
「……考えられるとしたら、他のプレイヤーから報告されていた――ですかね。あそこに居るやつが怪しい!、みたいにですね。その上で且つ顔を晒したことで、NPCからの評判が敵対の基準値を下回ってしまい、攻撃された。――評判システムってわかります?」
「わかる。…………と、思う」
私が言うと、
「ホントかなー?」
にやりと笑ってニアが呟く。
……失礼な。これでも前作は何百時間とプレイしたんだから。
「カルマはプレイヤー相手の迷惑行為で下がるもの。評判はNPC相手への行いで上下するもの、だよね?」
「当たりっす。……ちなみに補足をしておくと、前作では7つもあった評判の段階が、今作ではたった3つ――友好・中立・敵対とかなりシンプルになってます。それから、前作では〈評判〉の数値を確認することが出来ましたけど、今作では出来なくなっています。ただしその代わりに――フルダイブ・ヴァーチャルリアリティならではの表現力で、NPCの語気や表情、態度からその数値を読み取れるようにはなってます。……ってわけで、昨日みたいに遠くであるにも関わらず怪訝な顔でじっと睨まれたり――という場合、もしかしたら、敵対の域に入っている可能性が高いかも?っす」
「……なるほど」
そうなんだ。細かい部分までは全然知らなかったよ。
「つまりー、〈敵対〉と一言で言ってもピンキリなわけっす。遠くに立っている状態でも向こうから武器を抜き放ち襲いかかってくるような敵対から、睨まれはするけれどすれ違ったくらいでは攻撃はされないような敵対まで、かなり幅広くある、らしいです。……後者であれば、話し合いで争いを避けれるかも知れないですし、前者であれば何を言おうが聞く耳持たずで、どちらかが倒れるまで切り合わなければいけないでしょうね。」
「そっか。結構色々あるんだね」
……と、私が納得した所で、それを傍目で眺めていたガサルさんが口を挟む。
「なんだかよくわからんが……その、『赤ネーム』ってのは何だ?」
「えっ……あっ、いえ。こちらの話っ、です」
わたわたと答える私。
「衛兵がどうの、と聞こえたぞ。……まさか、本当に危ないことをしてるんじゃあなかろうな」
ぎくり――と固まって、私が返事に詰まりかけたところで、ニアが助け舟を出してくれる。
「まあまあ♪ それよりもカナカナ、着替えないんすかー?」
うん、と短く返事をして、カウンターの上へと置かれた布の包みを手に取ると、そのまま店の奥側の物陰へと引っ込んでいく。
……ああ、危なかった。
今のは、ニアが助け舟を出してくれなかったら色々とバレていたパターンだ。
ふう、と安堵の息を吐いてから、少しドキドキとしつつ受け取った包みを開くと、現れる私の新しい装備品一式。
その一品一品を手にとって眺めてみると……ガサルさんの用意してくれた装備品は、
〈影編みのドレス〉、〈影編みのケープ〉、〈メイドのショートブーツ〉、〈銀のバングル〉。
以上の4点みたい。
一度それを所持品リストの中に放り込んで、性能を確かめてみる。
〈影編みのドレス〉
防御:15 闇耐性+5
HP+20 技量+6 敏捷+13
推奨レベル:15 耐久:48/57
『東方の希少な糸で織られたドレス。しっかりと作られていて実用的。』
……おおー。これはかなり、良い品なのでは……!
敏捷性は身のこなしや回避に影響するので、重い一撃を食らうとそのまま行動不能に陥りかねない私のような脆い職業にはありがたいステータス補正だ。防御力も、店売りの〈革のベスト〉の防御力が9だったことを考えると、かなり頼もしい感じ。
メニューから『装備』を選択すると、身体を包んでいた私の初期装備――学生服もどきのシャツとチェックスカートが、ぱっと新しい装備品のそれへと書き換わる。
――と同時、私が初期から装備していたシャツとスカートが同時に外され、所持品リストに戻った。このアイテムはドレスというその名称通り、トップスとボトムスがセットになっているみたい。
色はちょっとくすんだ黒。フレアスカートのようにふわりと広がったシルエットで、生地は軽やか、丈はふくらはぎの辺りまで伸びている。
裾周りにはギャザーが入っていて可愛らしく、そしてファンタジー世界のアイテムらしく金糸の刺繍で模様が入っていて……見た目的にもかなり大人っぽく、そして可愛い、ような……。
これは……果たして私に似合っているのだろうか――と、ちょっとドキドキとしつつも、思わずその場で右に左にと回ってみる。
と言っても、鏡がないから自分ではよくわからないのだけど。
……とりあえず、残りの品の性能もチェックしてみよう。
〈影編みのケープ〉
防御:7 闇耐性+10
筋力+6 敏捷+6
推奨レベル:15 耐久:60/70
『東方の希少な糸で織られたケープ。しっかりと作られていて実用的。』
〈メイドのショートブーツ〉
防御:6
SP+30
*移動速度が極僅かに上昇する。
推奨レベル:18 耐久:35/40
『出来るメイドの為に作られた、しなやかな革のブーツ。場合によっては戦闘もこなせる本格的な一品。』
〈銀のバングル〉
防御:4
MP+10
推奨レベル:10 耐久:24/35
『銀製の腕輪。ちょっとおしゃれなあなたに。』
以上のアイテムを、メニューからそれぞれ『装備』をタップしていくと、ばさ、ばさ、ばさり。と音を立て、私の衣服が更新されていく。
〈影編みのケープ〉の色はやっぱり黒、丈はやや長めで、私が今まで使っていたぼろぼろの〈旅人のクローク〉より、性能的にも見た目的にもかなりのグレードアップだ。
防御が7だと、やっぱり革の装備(軽装の鎧)に匹敵するくらいの防御力の筈(ちなみに旅人のクロークの防御力は3だった)。さらに、筋力と敏捷性が上がるのもありがたい。おまけで闇耐性も上がる……けれど、闇属性の魔法や攻撃って今のところはあまり見ないような。
それから〈メイドのショートブーツ〉。これも私のキャラクターにぴったりの良い品だ。
攻撃スキルの発動で枯渇しやすいスタミナが上がるのはとっても有り難いし、移動速度が上昇というのもセットで嬉しい。けど、極僅かにという表記的にあまり期待できるほどの効果ではなさそう。
見た目はやっぱり黒――しっかりとした雰囲気の、足首の細い部分が隠れるくらいの丈のブーツだ。メイドさんの――というだけに、ヒール部分も厚めに、高くなっている。
特に面白みもなかった学生用のローファーが本格的なブーツへとグレードアップして、ぐっとそれっぽくなったかも。
〈銀のバングル〉はMPが+10上がる……けれど、MPを使用しない(持っていない)私の職業ではなんの意味もない。とはいえ、防御が+4されるのではあればなかなかに良い品、かな?
寂しかった手首周りが華やかになったのもちょっと嬉しい。
全部を合わせて、足元へと視線を落としてみた感じとしては……かなり本格的。
落ち着いた黒でまとまっているので大人っぽく見えるし……特に、『影編みの~』のセットは、所々にフォークロア調――手作り的・民族衣装的な意匠が施されていて、すごく可愛らしい。
これは、すごく良いんじゃないかな……?!
さらに、元々装備していたベルトや小物入れ等のアイテムも合わせると、本当にファンタジー世界のキャラクターへと生まれ変わってしまったみたいで、思わずウキウキとしてしまう。
……のだけど、一つ問題があるとすれば。
暗い。
とにかく、暗い。
金色の刺繍部分、それから裏地などにワインの色のようなくすんだ赤が用いられている以外はほとんど、全身真っ黒。
その上で私の場合は、ネームプレートを隠すためにほぼ常時フードを被らなくちゃいけないわけで……。
ちょっと怪しげに見えるというか……これでトレイアの街を歩くには、少し暑苦しくない?
あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします。
カナトの衣装は最後まで悩んでしまいましたが、結局黒になりました。気に入っていただけたら嬉しいです。




