旅の準備をしよう(5)
私達は騒ぎを起こしてしまったエリアを迂回するようにその教会へと大回りをすると、特に問題なくその教会へと辿り着くことができた。
教会の壁は焼け焦げてはいるけれど建物自体に問題はないみたいで、大きな二枚開きのドアは開け放たれていて、その内側では炊き出しが行われているらしく、入り口には食事の配給を待つ人々がずらりと列をなしている。
それから教会の周りには同じクリーム色のローブを着た女性が数名。なんとなくその雰囲気から、そのローブを着ている人は教会のシスターさんであるらしきことが伺える。
……けれど、問題がひとつ。
私はフードを目深に被って遠巻きにその様子を眺めているだけ……であるにも関わらず、既に何人かの人々が私に気付いて嫌悪感の含まれた視線を向けてきている。
そこまで目を引く格好をしているわけでもないし、今は斧も持ってないのに……。
けれど、目的の祭壇に触れるためには、この列を横切るようにして教会の中に入っていかないといけないわけで。
どうしよう?
私が悩んでいると、
「……こりゃ、近づけないかもっすー」
ニアがぼそりと呟く。
「ねえ。やっぱり私、睨まれてる……?」
「……なんだか、明らかにそんな感じが。……どうします?」
「うーん……」
そんな風に私達がひそひそ話をしている時。……何やら、列の近くで立っていたシスターさんの一人が早足で私達の方へ近寄ってきた、かと思うと。
「……あなた達、こちらへ来なさい」
なんだか厳しい表情を浮かべ、私の手を取ると言う。
そして何を思ったのか……私の手を引いたまま、足早に歩いていくローブの女性。
手を引かれながらもニアを振り返ると、ニアもまた私達の後を小走りで追いながらも、何が何やら、といったような表情を浮かべて首を傾げる。
それから教会の脇へと取り付けられた木の扉の前で立ち止まると、ベルトから下げられた鍵を使ってそれを開け――そして、さあ、と小さく私を促して、その中へと引き入れた。
教会の裏口。そこはちょうどキッチンに当たるらしく、中では同じ服を着たシスターさん達が忙しなく動き回ってスープなどの食事を作っているみたい。
私の手を引っ張ってきた女性は一瞥するように私を見下ろすと、それから扉に鍵をかけ直し、ふう、と安堵をしたように息を吐いてから……、
腰をかがめ、私の顔をじいっと睨んだ後。なんだか私の頬に触れるみたいに、被っていたフードの内側へと両手を伸ばしてきた。
――思わず身を固くする私。
「あ、あの……?」
私のお母さんよりも一回りは年上、と言った雰囲気のその女性。表情は厳しく一つ一つの動作がきびきびとしていて、おばさんと呼ぶにもおばあさんと呼ぶにもどことなく違和感を覚えてしまう。
その人は――何を思ったのか、そのまま私のシャツの襟元へと手を伸ばすと外れていたそのボタンを嵌め直してから、緩ませてあった制服のタイをきゅっと引っ張って、きっちりと首元まで締め直すと、
「折角、素敵なお洋服を着ているのだから。だらしなくしないのですよ」
言って、私の肩を叩いた。
「は、はい。……ごめんなさい」
呆気にとられたままに返事を返す私。女性はかがめていた姿勢を正すと、厳しい表情を崩さないままに叱りつけるような目線で私を見つめる。
「……今、この辺りを出歩いては駄目。ここで少し休んだら、この地区からは出ていくこと。……良いですね」
はい、と私が答えると、ニアが声を上げる。
「あのー、どういうことです?」
女性はニアをちらりと一瞥した後で、それから何かを考えるようなポーズを挟んだ後で、
「もう、あちらこちらに張り出されている手配書を見たのでしょう。特に、ノルン人のあなたは」
言って、私の目をじいっと見つめる。
「今はもう、この辺りを歩いているだけでも危険だわ」
「……ええと、私達はこの街を訪れたばかりでして。もう少し詳しくお話を伺っても?」
人当たりの良い笑みを浮かべたニアが言うと、
「そう……何も知らないのね。街へ来たばかりであれば、仕方がないかしら」
独りごちるみたいに言うと、それから出来事を思い出すようにして、話を始めた。
「そうですね……あれはもう何日も前の風が強い夜でした。皆がすっかりと寝静まった頃のこと――突如、街のあちらこちらから同時に火の手が上がったのです。……王宮側の対応が遅れたのも相まって、火はすっかりと広がって何日間も燃え続けました。遅れて魔道士の連隊が組織され、大通りにて魔法の壁を使ってなんとか火の手を食い止めたのです」
少し何かを思い出すようにしてから、息継ぎをして続ける。
「それによって火はそれ以上広がることはなく収まりましたが……残念ながら、魔法の壁の内側のものは殆ど全てが焼け落ちてしまいました」
「……あのう。どうして対応が遅れたんです? 例えば……衛兵達にいち早く事態を知らせた者などはいなかったんですかね?」
女性は、少し疎ましそうにため息を吐くと
「……さあ、そこまでは。私も兵が何をしていたのかまでは聞き及んでませんね」
言って、疲れた時のように目頭を擦ってから、
「理由としては、各所から一気に火が上がったというのもありますし、真夜中だったというのもある。それから、この一帯は貧しい地区ですから――古くなっていた木の建物が密集していたこともあるでしょう。……火は消えても、人々の怒りは収まりませんでした。不満は王宮の対応の遅れに集中したのです。あなたの言う通り――兵が早急に消火へと駆けつければ、これだけの被害にはならなかったのですから」
こくりとニアが頷く。
「以前から犯罪や病気の温床になっていた貧しい地区のみが綺麗に焼け落ちたこともあって、街の人の反応は様々でした。とある貴族が裏で糸を引いているのでは――などと、まことしやかな噂すらも流れ出した。……けれどそんな時に突然、犯人が判明したと大々的に手配書が張り出された。それが件の、北方の賊の男、ノルン人の少女、それから獣人の少年の3名だったのです」
「…………ん。それは少し、きな臭いですね?」
「どうにも妙だ、と考える人は少なからず居ましたよ。……なにせ、賊に獣人にノルン人……罪を着せるにはうってつけの3人組ですからね。けれど殆どの人々はそれをやはりと鵜呑みにし、すっかりと信じ込んでしまった」
「ふむ」
「それから、すっかりと街の雰囲気が悪くなりました。今では、目についた怪しい人物へと無差別的に石を投げかけたり、暴力を振るったり……という事件があちらこちらで起きるようになっています」
「なるほど。それでカナ……ええとノルン人がこの地区を歩くのは危ない、と?」
「ええ。獣人やノルン人がその主ですが、もともとノルン人は数えるほどしか居ませんでしたので、今被害を被っているのは獣人の皆さんです。耳や尻尾の特徴で外見から判別しやすいですから……酷な話です」
言って、女性はそれから私達を順番に見据えると、
「……もう、わかったでしょう? この教会には事態の被害者が集まっているのだから尚更です。ここら一帯には近寄らない事――良いですね?」
「はい」
「はあい」
返事をする私達。
それから、この教会に祀られている神様へと祈りを捧げても良いかとニアが聞くと女性は、静かに目立たないようにであれば、と前置きをしてから、私達を教会内の祭壇へと案内をしてくれた。
私達はそれに触れて、[+5]のカルマの回収に成功。
最後にアマリアと名乗ったその人は、私達の幸運を祈ってくれた後で、困ったことがあればいつでも来なさい、とそう言って私の頭を撫でてくれた。
私達はアマリアさんへとお礼とお別れを言ってから、入ってきた裏口から教会を後にした。
……私達はその後〈中央広場〉へと戻ると、その近くの立派な教会で更に[+5]のカルマを得ることに成功(こちらはとっても簡単だった)。それから少しの気分転換と思い出作りを兼ねて、ということで〈プラム島〉という離れた小島にある隠れた海岸に遊びに行った、のだけど。
……ひとまず、その話はまた別の機会にでも取っておこうかな。




