街の外へ(1)
そんなわけで、私達は門を抜けて街の外へ。
門をくぐり抜けたところでエリアが変わったようで、
〈トレイア郊外〉
という飾り文字が目の前に現れた。
城門からは、郊外へと伸びる街道が左右へと別れて続いている。……ちょうど、アルファベットのYの字のような感じ。
その周囲には民家やお店がぽつぽつと並んでいる。
周囲にはプレイヤーが集まっていて、わいわいと賑やかだ。
ほとんどが1人か、2~3人のパーティーだけど、6~8人の大所帯もちらほらと居るみたい。
みんな、初めてのパーティに浮足立っていて、これから冒険に出るぞー! ……という熱気を感じる。
プレイヤーは服装がぼろぼろで似通っているので、遠目からでもすぐに分かる。
……それと何故か、妙に現代っぽい服を着ている人がちらほらといる。……課金装備か何か?
†
城門と隣り合うような場所に、厩舎があった。
石で組まれた建物と木製の厩舎がくっついていて、軒下には馬の絵が描かれた看板が下がっている。
中には馬が5匹くらいと、そして、別の柵からは、大きな鳥がにょっきりと顔を出している。
……あ、懐かしい。
前作でも居たね、あの鳥。…………ええと、なんだっけ?
「見てくれ、アドリックさん。鳥がいるぞ」
「ミルカっすねー。初代イルクロでも居た」
――そうそう、ミルカだ。
ミルカの身長は、小さめの馬と同じくらい。
頭やお腹は白く、丸々とした胴体を、どっしりとした二本の脚が支えている。
おしりからはちょこんとした短い尻尾が伸びていて、首の付根から羽と背中のあたりまで、ベージュと茶色の縞模様が走っている。
鳥ながらにラクダに似たその表情は……なんというか眠そうで、独特の可愛さがある。
ミルカに歩み寄って、厩舎の柵から突き出しているその頭を撫でようとすると……。
「……おい! 勝手に触らないでくれ!」
びくう?!
いきなり、怒鳴られた。
何やら、厩舎の主らしい男性がのしのしとやってきたかと思うと、ミルカと私の間に割って入り、私を押しのけた。
「北の野蛮人め。お前に貸す馬など無い。……他所へ行け、他所へ」
……酷すぎない……?
「まあまあー、店主。……ちなみに借りると幾らっすか」
「……一番安い馬から銀貨20枚だが……」
そう言うと、アドリックさんの姿を、上まで下からじろーりと見て、訝しげに睨む。
「……払えるのか?」
「失礼っすねー。……で、この子は?」
アドリックさんが、眠そげな鳥の首を撫でながら言う。
「ミルカだな。そいつは銀貨で35枚だ。」
「ん。鳥の方が高いんすね」
「ミルカは手間がかかるからな。だが、悪路に強く岩場でも良く走る」
「ほー」
――撫でられながら、どことなく心地よさそうにしているミルカ。
アドリックさんだったら触っても良いのか……。
私も触りたいのに。くそー。差別だ。
「あー、店主……」
「なんだ。お前には触らせんぞ」
……まだ何も言ってないじゃん……。
「……借りた馬を降りると、どうなるんだ」
「しばらく経つと厩舎に戻る。……そんなことも知らんのか!」
街に帰れ、街に。そう言って、私を追い払う仕草をする。
意地悪かよ。
なんでこの人、こんなに辛辣なの?
†
どうあれ、馬を借りるお金はないので、徒歩で街道を下っていく。
街道沿いには小麦などの畑や、ブドウ、オリーブらしき果樹園、石の柵で囲われた牧草地などが続いている。
遠くの、ぽつぽつと風車が並んだ小高い丘の上を、雲の影がゆるりと滑っていく。
青い空に、乾いた風。太陽がじりじりと熱くて、本当に旅人になった気分。
「なあ、アドリックさん。……どうして俺だけ、やたらと無下にされたんだろう?」
「え。……や、あんまり気にしないでくださいね? たかがゲームのNPCなんで」
「いや、まあ、気にしちゃあいないが」
本当を言うと、ちょっと気にしてる。
「……んー。この辺りの人間は、基本的に〈アヴァリ〉という種族がほとんどのはずですが」
「ラグヴァルドさんが、というより、ラグヴァルドさんの種族〈ノルン〉が、彼ら〈アヴァリ〉に嫌われているんじゃないすかね」
「……なるほど」
うーん。やっぱりそうか。
見た目と出身地が若干違うくらいで、同じ人間なのに。まったく……。
「そこらへんは、イルクロ世界の歴史と関係あるんじゃないすか?」
「……まあ、ノルンの故郷からこのトレイアは、かなりの距離がありますし」
「種族と開始地点の組み合わせ次第ではステータスにボーナスが付くらしいので、そういうメリットもあるかもしれないっすね」
……ふーん、そっか。
そこらへんは全然確認してなかったな。
基本的にそういう部分はかなり適当だからなー、私……。
†
それからしばらく街道を行くと、〈レッタ平原〉というエリアに入った。
辺りには一面、砂色とオレンジ色の、ごつごつとした岩っぽい大地が広がっている。
草も木もまばらに生えているけれど、どことなく荒涼としている。
草原と言えば草原だけど、岩場と言えば岩場、といった感じ。
周囲には丘や山がぽつぽつとあり、遠くの小山の一つに古城が建っているのが見える。
と言っても、城は明らかに荒れ果てていて、砂色の石の壁は崩れ、塔の壁には穴が空いている。
それ以外には、椰子の木、大きなサボテン、赤やオレンジなどの明るい色の綺麗な花々もちらほらと。
うーん、それにしても、世界が広い。
これだけ広いと、ダンジョンなんかを見つけるのにも一苦労なのでは……?