レイジー・サマー・シューティングスター(18)
「――……じゃ、カナカナはゲーム内のメッセージボードをチェックしてみてくれません? あたしは外部の攻略サイトなんかを漁ってみますので♪」
「うん。ありがとう」
返事をすると、メニューを操作して〈メッセージボード〉を開いてみる。
……開いては見たものの。ずらりと並ぶメッセージ群を前に途方に暮れる私。
うーん、と。
『カルマの上げ方』とかで検索をしてみれば良いのかな?
✤
……と、そんな具合に。私もニアも無言のままに、数分に渡って調べ物をしていたのだけど……。
ちょっと調べていてわかったこと。
どうやら、カルマを上げるクエストには大きく分けてお布施、討伐、巡礼と3つあるみたい。
そこで、私はひとまず討伐クエストの情報を探してみたのだけど……見つけることが出来た数件のクエストはどれも高レベル。最低でもレベル25からそれ以上の4人パーティが必要だったり、どうにも私達には難しそう。
……というより。
メッセージボードを見ていて感じたのは、カルマを上げる事自体の話を、誰もしていない――といった印象だ。
考えてもみれば、普通にプレイしてたらカルマなんて下がらないし。その上、このゲームがサービスを開始してから一ヶ月と経っていないので……まあ、そうなるよね。
私が小さくため息を吐くと、
「……どうですー? 何か見つかりました?」
そっぽを向いたままに、ニアが呟く。
「……無いことはないんだけどね。レベルが足りない感じ、かな」
「ま、そーですよね。…………んー、ちっと面倒くさいんですけど。……これなんかどうです?」
ベッドの上でごろりと体勢を変えると、見ていたパネルを私に見えるように広げて見せる。
画面には『巡礼クエスト』と書いてあるみたい。それから下の文字は小さくてよくわからない。私が椅子から立ち上がろうとすると――、
「……ま、要約すると。旅をすることでカルマを上げられるらしいっす。クエストを受諾する必要なんかもなく、たとえば礼拝堂なんかにある信仰に関係のあるような祭壇なんかに触れていくと、カルマがちょっとずつ上がっていくんですって?」
「おおー」
「あるいは――特に街でなくとも、それぞれの信仰に合わせた聖地のような場所へ赴くことで大きくカルマを上げることが出来るのだとか。――カナカナは、信仰は何を選びました?」
「……えっ」
思わず、椅子に座りかけた姿勢のまま固まる。
……信仰……って、ええと、つまりは私のキャラクターが信じている神様、だよね。
――……そんなの、選んだっけ……。
ぴきーん。と固まっている私を見て、ニアが笑って言う。
「カナカナって、めっちゃくちゃ適当にキャラメイクしてません?」
……そんなつもりはない……けど。色々と選択する画面が次から次に出てきて、ちょっと面倒くさかったから適当にスキップを連打してた記憶はある、かも……。
「ともあれ。適当に街から街に移動するだけでカルマが100近く上がった、なんて書いてる人も居ましたよ♪」
……100も……?!
街から街へ旅をするだけでカルマが100も上がるなら、私は一瞬で赤ネームを脱せれる……!
――ちなみに、今の私のキャラクターのカルマは[-245]。カルマは0を跨ぐことで赤ネーム状態から戻すことが出来るので、うーんと……――流石に同じ場所を往復しても駄目だとは思うから、大きな街を3箇所は渡り歩けば、赤ネームを脱せれることになる、のかな。
「……それって、簡単じゃない?」
私が思わず呟くと、ニアは呆れ顔で手を振る。
「いやいや。はっきり言ってかなり面倒っす」
「え、そうなの?……前作の時は、簡単だったけど」
「んーと……。確かに、それはそう、だった、んですけど――」
なんだか言葉を濁しながら……ニアは何やら、このゲームで旅をすることの難しさの説明を始める。
……
うーんと、ニアの言う要点をまとめると。
まず、このゲーム〈イルファリア・リバース〉のマップは、前作の〈イルファリア・クロニクル〉とは比べ物にならない程に広い、らしい。
その上で、前作のイルファリア・クロニクルのリリース日はおよそ15年前であるらしく。そのリリース当時のゲームプレイと、それから私達がゲームを始めた時期(4~5年前)とでは、だいぶゲームの内容・難易度が変わっていたみたいで。
……数々の拡張パッケージがリリースされて、移動手段はかなり充実。初期のレベル上げも簡単になっていたことから、単純に今作と前作を比べること自体が全くの無意味、なのだとか。
「――……てなわけで。現状、国家間を渡り歩くような長距離の旅はかなりの時間が掛かりますし、最低でもレベル25から30はないと難しいのではないかなー? と」
……うう。それってつまり、結局私達じゃダメってこと……?
「馬を借りて、駆け抜けられないかな?」
私が聞くと、ニアはうーんと唸って、
「馬ねー……。あたしもちょっとだけ試してみたんですけど、思ってたよりも微妙な感じっすー。舗装された街道を外れるとだいぶ走る速度が落ちたり、敵の姿を見ると怯んで立ち止まってしまったり。……高価な馬を借りればまた違うのかもしれませんけれど」
「えー……」
「雑魚一体なら、まあ逃げ切れるでしょうけれど。NPCの賊にでも襲撃されたらおしまいですね」
だめじゃん、馬。
「……ならさ。他の人達はどうやって旅をしてるの?」
「今、初期の街から離れているプレイヤーは結構なやりこみ勢というか。いわゆるスタートダッシュを決めたような熱心な人達だけだと思いますよ?」
「…………、そっか」
「――あるいは、ハナから旅プレイを楽しむつもりで、それ用のスキルや魔法が揃っている職業を選択したか、ですかね? 例えば〈透明化〉の魔法だとか。あたしの職業〈ローグ〉でも、〈シーフ〉や〈アサシン〉という上位職へ至る方面へとスキルを育てていくと、早歩きや忍び足といった便利なスキルがありますので」
なるほど。……とはいえ、私の職業であるブリガンドは、隠密行動とは全くの無縁だし……。
「……船旅だと、どうかな?」
ニアはうーん、と考えて、
「あたしも知識がないのでなんとも言えないですけど……船旅なら安全なのかと言うと微妙なところですし。それなりの船であるなら海賊などの心配もない代わりに、運賃もそれなりに取られると思いますねー。 たぶん、金貨数枚くらい? ――それだったら、いっそのことお布施クエストに全財産をぶっぱしてみたほうが早くないです?」
言って、顔を傾げる。
「金貨が10枚もあれば、カルマの100くらいは上げられる、かもしれませんね?」
ちなみに私の全財産は金貨にして大体7枚。仮にニアの目算をもとに考えても、カルマ70では全然足らない、ということになる。
と、いうわけで……討伐クエストは無理、巡礼クエストも無理、そしてお布施でも無理。
……じゃあ、だめじゃん。
はあ、ともう一度大きなため息をつく。
「……カルマ、上げるの大変すぎるよ……」
「簡単だったら、それこそみんなが悪事に手を染めますからね♪ ――……おっ?」
言いながらに、画面を操作していたニアが何やら声を上げる。
「どうしたの?」
「…………一件、ありましたよ?」
言って、私へと見えるように見ていたパネルを広げるニア。
……何がだろう?
席を立って、ニアの傍らに座り込むと画面を覗いてみる。
……何やらそこに表示されているのは、〈メッセージボード〉へと投稿されたパーティ募集の告知、みたい。
【レベル15で移住】【ルセキア】行きパーティメンバーDPS急募!!
現在、参加者4名のルセキア行きパーティで、メンバーを4名追加募集しています。当方ヒーラー2名+タンク2名の為、職業はDPS系が希望ですが、それ以外でも可。
みんなで力を合わせて、麗しの大都市ルセキアへと移住しよう!
期間はリアルでの10日間ほどを予定してます! その間は確実に決められた時間(平日含む、PM8~12時の頃の計2~3時間。要相談)に毎日集まってもらうことになる。
もちろん、外せない用事等があれば1日程度のお休みは普通に可(ただしその場合は事前に要連絡!)。
興味があれば、以下の注意事項をよく読んでから職業とレベルを添えて参加希望のリプライを。
1.各々がそれぞれの旅費を支払うこととする。また、パーティに何かがあれば、その場合はメンバー同士で折半をすることになる。
2.いわゆる相乗りや勝手な離脱を禁止する。飽くまで行き先は〈ルセキア〉のみ、メンバーの全員がルセキアへと辿り着いて初めて目的達成、解散とする。
3.勝手な個人行動は禁止する。戦闘の作戦も含み、リーダーの意向に従ってもらう。
4.度を過ぎた非常識な行動や言動が繰り返された場合、リーダーの権限でパーティから離脱してもらう事がある。
また、その他の細かい注意点としては、
*困ったメンバーが居れば全員で助ける。
*敵性勢力(あるいはPK)に遭遇した場合、戦闘になる可能性がある。
*いわゆる若葉マークの方、初心者さんは申し訳ないがお断り。
…………と色々書きましたが、和気あいあいと旅をしていく予定なので一般常識のあるメンバーを募集中! 質問などもあればお気軽に僕、アレン(ID:sagara85504)へとゲーム内メッセージを送ってみてください!
……




