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レイジー・サマー・シューティングスター(14)

 

 背筋を、ひやりとした嫌な汗が伝う。


 たったの数人しか居ないフレンドリストだからこそ、見間違える訳はない。


 オンラインの中にも、それからオフラインの中にも、ユウくんの名前は見当たらない。



「…………ねえ、ニア……名前が無い…………。どうしよう――ねえ、なんで?!」



「えーっ? ……いや、ソート(・・・)し直してからもう一度よく見てくださいよう。無いわけ――」


「……無い……、無いよっ! どう見たって無いもんっ!!」



 涙声を上げる私を前に、ニアは……何かを考えるように首を傾げると、少しの沈黙を挟んで……それからぼそりと言った。


「――考えられるとしたら……ブロック(・・・・)された(・・・)――ですかね」




 さあっ――と血の気が引いていく。


 平衡感覚が曖昧になって、ぐらりと視界が揺れる。




「ど……っ、ど、…………ど、ど、ど、……っっ!!」


「ちょお……っ、――あぶあぶあぶあぶぁっ!!」


 ニアの肩を揺すると、がくがくがく――と、その身体が大げさに揺れる。身を捩りながら私の両手を引き剥がすと、ニアが声を上げる。



「……――ちょっと!! そんなに揺すったらジュースになっちゃいます!! ねえ、カナカナ、ちょっとは落ち着いて。…………えーっと、ユウくんのIDは覚えてます? IDを教えてくだされば、あたしが直にメッセージで謝りますので――」


「……あ、あいでぃって、なに……」


「IDは……ええと。プレイヤーの名前の後にカッコ付きで書いてある、英数字なんですけど……」


「…………わかんない…………」


「えー……」



「そんなの、知らないっ!! ねえ、名前から、探したりできない……?!」


「いや、単に名前からではキャラクターは探せないんすよ。それが出来たら他プレイヤーの追跡などに使えてしまうので……とにかくIDさえ分かれば――メッセージを開いて、履歴(・・)からでも確認できません?」



「え、えっと……、〈メッセージ〉を開けば良いんだよね?」


 言われるがままにメニューを操作し、メッセージの画面からユウくんとのやり取りを探すとすぐに見つけることが出来た。



 それを開くと、ほんの少し前――森でリザードマンと戦った後、中央広場で待ち合わせをしようとしていた時の私達の会話が表示される。


 ずきり、と刺すような胸の痛みを堪えて、そこに表示されているらしきユウくんのID(・・)とやらを探す。――けれど、そこにあった〈ユウ〉という名前も、その隣に書かれていたはずのユウくんのIDも、〈表示できないユーザーです〉――という一文に置き換わって、見ることすらも出来なくなってしまっている。




「……駄目。『表示できない』って――……名前も出てこないよ。ねえ、どうしよう……、ニア……どうすればいい……?」


 言って、縋るようにニアを見つめる。きっと、ニアならなんとかしてくれる――そう信じて。



 ニアは考えるようにして少し黙り込んで……それから、顔をあげると。にこりと笑って、


「…………えーっと。お手上げ?」


 肩をすくめた。




 言葉を失い、黙り込んだままにその場に項垂れる私。



「……馬鹿みたい。私がぼうっとしてたから……」


 思わず呟くと……、とん、とニアの体が私に触れて。


 それから私の背中に手が回され、その指先が私の肩を優しく撫でる。


「カナカナのせいじゃないっすよ」



 私は黙ったまま、ニアの服を握りしめて応える。



「……ひとまず、広場にまで戻りましょうか。もしかしたら、ユウくんとすれ違うかもしれませんから」


「……うん」


 言いながらも、私達はしばらくそうしたままその場で佇んでいた。



 ✤



 それから私達はとぼとぼと来た道を戻って、元々私達が会った場所、トレイアの中央広場に戻ってきた。


 当たり前だけれど、ユウくんらしき人物とすれ違うことはなく。……何かを始めるでもなく、ログアウトをするでもなく。ただ二人黙り込んだままに歩いて、それから開いているベンチを見つけると座り込んだ。



「――普通、敵意がないことくらいわかるじゃないですか。……あの流れで――話も聞かずに逃げていくなんて。ちょっと、ナイーブすぎません? ……男の子なのにー」


 ため息を吐いてニアが呟く。……私は返事を返さないまま、しばらく黙り込んで。それからぼそりと呟いた。



「……ねえ。初心者狩り(・・・・・)、とか騙し討ち(・・・・)のPKって――……あの時のこと(・・・・・・)、だよね」


「……ん。ま、そうでしょうね」



「なんで、ユウくんが――なんで、あの場に居なかった筈(・・・・・・・・・・)の人達(・・・)が、あのこと(・・・・)を知ってるの?」


「それは……、あの動画(・・・・)が噂として街中に広まったから――」


 そこまで呟いてから、なにか不味いことでも口走ってしまったとばかりにさっと自らの口を覆うニア。



 また、『動画』というワード。


 私を攻撃してきた人達が、何度かその動画(・・)という言葉を口にしていた。



 ――この反応。ニアはなにか知ってるんだ。



「…………ねえ。その動画(・・)ってなに?」


「え、……いや、あたしは、ちょっと。……知らないっす」


「しらばっくれないで。今、自分で言ったよね」


 ニアは私と目を合わせようとせず、そっぽを向いて黙りこくっている。



「ニア。……教えて、くれなかったら――。……怒る、かも」


 私が声を落として言うと、ニアはしばらく黙り込んだ後で、



「――わ、わかりましたっ!!」


 観念したように言うと、手元で何やらメニューを操作して――それからぱっと、私の目の前にパネルを広げた。


「多分、この動画だと思いますけれど……」




 パネル内には『PKに襲われた』と、動画のタイトルらしき文字が見えていて、その下には、


 #イルファリアリバース #プレイヤーキラー 等々のタグ(・・)が並んでいる。




 ニアがパネル上の三角形のマークをタップすると、映像が再生が始まると同時に――ぱっと画面に映し出されたのは、なんと、私とニアの姿である。


 映像は、そんな私達を少し上から見下ろすような、ある人物の視点のもの。その視界の高さから、この人物は男性らしいことが伺える。


 その背景には見覚えのある赤茶けた砂と岩場が広がっていて、小さな湖とヤシの木の木立や、それからその周りを歩き回るカニの姿が見えている。


 映像に映る私もニアも、フードは被っておらず――けれど私達の顔やネームプレートは磨りガラスのようなぼかし(・・・)加工によって覆い隠されている状態。



 この映像は……明らかに、あの時(・・・)のもの。


 私達が狩り場を巡ってプレイヤーの一団(・・・・・・・・)と諍いになってしまい、それがパーティ同士の争いに発展してしまった、とある一件(・・・・・)である。


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