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レイジー・サマー・シューティングスター(5)

 

 威嚇をするようにしゃーっ、と唸るリザードマン・フォレジャー。



 少し離れた場所で震えているシイナちゃんとチサちゃんの間に立ちふさがると、斧を構え直す。


 私が相手の出方を伺っていると、リザードマン・フォレジャーはあまり警戒をする様子もなく短剣を使って切りつけてきた。



 ……チャンス。


 切り上げる斬撃を躱すと、すかさず斧の柄を使ってその脇腹に素早い一撃を叩き込んで――更に、よろめいたフォレジャーへと距離を詰め、追撃を重ねていく。



 いち、にっ、さんっ――……


 とんっ、という初撃の軽い打撃音が、二撃目、三撃目になるに連れ、どすっ、ばきっ――!! と、明らかに重くなり、手応えが増していく。


 私の使っている武器種『両手斧』は重く、攻撃速度は両手槌に次いで最低クラスに遅いのだけど、一撃の重さやクリティカル攻撃、姿勢を崩させてよろめかせるような性能に長けている。



 連撃を受けよろめいていたフォレジャーはさっと体勢を正すと、負けじと素早い突きを繰り出してくる。


 身を捻ってそれを避けると、続けざまに繰り出される連撃――首元を狙った突き、脚を狙った横薙ぎの斬撃を、丁寧に、少ない動きで避けていく。


 更にお腹の辺りをめがけて突き出された短剣を膝で蹴りあげ武器を弾くと、怯んだフォレジャーを目掛け、素早く2連撃を当てる。



 ……しー、ごっ!!


 ばきっ――!!! 大きな音と確かな手応えと共に、ふしゃああああっ――と悲鳴を上げ弾き飛ばされたフォレジャーの体がぱっと光の粒に変わって、それから経験値とアイテム獲得の通知が表示される。



 ――――よしっ、これで一体目。……危なげないね。


「お姉さんっ! いっけーえ!! やっちゃえーっ」

「お姉さあん……頑張れーっ!」


 背中越しに声援が響く。


 ――元気そうな声を上げているシイナちゃんは回復魔法を掛けてもらった後みたいで、そのHPは大きく回復をしている。


 良かった。これでもう大丈夫かな。



 ……それにしても。なんだか私、ちょっと上手くなったかも?


 この頃は、夜の道で襲いかかってきたクラン〈ウィンドクレスト・レギオン〉の三人組といい、下水道で戦ったボス〈シャドウ・エクスペリメント〉といい――前作のゲーム終盤のボスを相手にしているかのようなギリギリの戦いが続いたのもあって、久しぶりの実戦にも関わらずあっけなさ過ぎてびっくりしてしまうほど。


 このくらいだと負ける気もしないね。



「ぐ、ぐるる……」


 と、その時。よたよた、と起き上がった〈リザードマン・ハンター〉が頭を振ると、私を睨み槍を構える。


 ……おっと、目が覚めちゃったみたい。


 問題は、こっちの“ハンター”なんだよね。レベル16が相手だと、さすがに少し苦戦をするかも。


 既にごうごうと煮え滾るような赤い光と黒いオーラを放っている私の右腕。次の攻撃はかなりの威力になっている筈だけど……――とはいえ、槍ってちょっと相手にしづらいんだよね。特に、素早く、そしてレンジの長い突き攻撃を避け続けるのは少し大変で――……、



 ――びゅんっ!!


 ハンターの腕がピクリと動いた――かと思ったら、胸元を目掛けた素早い突きが放たれて、それを辛うじて避ける。


 危なっ……。


 ここのリザードマンはヤモリのようなやせ細った体をしているけれど、なかなかに動きが素早い。――けれど、それでも、この間の死闘と比べれば……――楽なものだよっ!



 再びに突き出された一撃を、斧の柄を素早く捻って敵の腕を巻き込むように相手の槍を弾き上げると、よろり――とバランスを崩したところに大きく振りかぶった横薙ぎの6撃目を叩き込む。すると……、



 ――ぶぉん!!! と鈍い風切り音と共に、木の幹がへし折れる時のような轟音が響き――、


 もんどり打つように叩き飛ばされたリザードマンの体がぱあっと光を放って、経験値とアイテム所得のメッセージが表示され――それとほぼ同時、私の〈ブラッド・フューリー〉の効果時間が終了。業火のように噴き上がる黒いオーラが掻き消えたのだった。



 ――思わず、呆けて立ち尽くす私。


 …………あれ。ちょっと待って……一撃!?



 やっぱり、私、すごく強くなってない……?!


 …………んん。それとも、もしかして、このスキル〈ブラッド・フューリー〉が、実はかなり強い?


 しばらく前に筋力(STR)を大幅に強化する『髪飾り』を手に入れた辺りから、明らかに強くなった気はしてたけど……。


 ……それにしても、一撃……?


 ええー……。



『――お姉さあああん!!』


 ――わっ。びっくりした。


 ぼう、っと立ち尽くす私に、女の子二人が抱きついてくる。


 剣士らしき風体のショートヘアの女の子、シイナちゃんは満面の笑みで。白いローブに三つ編みの女の子――チサちゃんは、本当に怖かったみたいで、目を潤ませている。


 二人にぶつけないようにゆっくりと斧を背中に収めると、それから二人の頭を撫でる。



「二人とも、無事だったみたいだね。良かった」


「助けてくれてありがとう――黒い竜(・・・)のお姉さん……っ!!」


 それは忘れてね。



「……勝手についてきて、ごめんなさい……。私達、森の中は危ないよ、って言われたんです。なのに……」


 チサちゃんが呟くと、傍らのシイナちゃんを不満げに睨む。


「ごめん、ごめんー。……えへへ。お姉さんのことが気になっちゃって♪」


 ついてきちゃった、ということね。



「ねえ、すごいねっ……! 黒い竜(・・・)の攻撃!!」


「それって、スキル、なんですか?」


 レベルはいくつ? 職業(クラス)は何? 高校生なんですか?――と、矢継ぎ早に繰り出される質問攻めに遭いながらも、うまく躱しつつ。


 それから私の事情――通称『帰還石』こと、〈クリスタル・オブ・リコール〉が無くて街へと帰れないことを話すと、二人は二人の持っていた〈クリスタル・オブ・リコール〉を譲ってくれた。


 二つも要らないよ、と言ったのだけれど、私達は一緒に歩いて帰るから、と言って聞かず。代金を払おうとしても受け取ってくれなかった。


 〈クリスタル・オブ・リコール〉にはそれぞれ使用回数があって無限ではないので、ならばとありがたく貰っておくことにした。


 ✤


 私は山小屋まで二人を送ると、シイナちゃん、チサちゃんとフレンド登録を交わして、それから二人と別れ〈クリスタル・オブ・リコール〉を使用。


 しばらくの待機時間の後(大きく動くと、『帰還』がキャンセルされてしまう)――ぱしゅん! と光に包まれ――そして目を開けると、そこはトレイアの中央広場だった。


 辺りはプレイヤーだらけで、喧騒にびっくりしてしまうほど。


 ちょうど今は一日の間でも最も人が多い時間帯なのかな。



 で、ええと……なんだっけ?


 ――あ、そうそう。ユウくんへの返事をすっかり忘れていたよ。


 さっとメニューを開くとメッセージの画面を開き直して、残っていた打ち掛けの文章をもう一度消してから新しくメッセージを打ち直す。



『返事が遅れてごめん、ちょっと敵と戦ってたんだ。今、中央広場に戻ったけど、今からでも大丈夫?』


『良かった、いらっしゃったんですね。それでは用事を済ませてから、すぐに中央広場に戻りますね。』



 ユウくんからはものの数秒で直ぐに返事が来た。


 ……それにしても、話ってなんだろう? 成功したよ、だとか、失敗しちゃった、だけじゃ済まないような、ちょっと複雑ななにかがあるのかな。


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