レイジー・サマー・シューティングスター(2)
――残念ながら、私という人間にキラキラとしたようなアイドル要素はない。
目立つのはどちらかといえば苦手だし、クラスでも影が薄いほうだと思うし、何を考えているのか良くわからない、なんて言われたこともある。
あと、歌えないし、踊れない。
……昔よりも元気になった今では、人並みくらいには色々と出来る……ので、頑張ってみたら少しは上手くなるのかも知れないけど。
そんなメッセージの送信者名には〈ユウ〉との表示。
ユウくんは前回の冒険で一緒だったドルイドのプレイヤーで、中学生くらいの男の子。
頭には狐らしき大きな耳が二つ。おしりからは大きなもふもふの尻尾が生えていて木の杖を携えている。見ようによっては女の子と見間違えてしまうような、中性的な外見をしている。
返信をしようとよくよくみたら、メッセージの日付自体三日も前のもので、当のユウくんは現在オフラインの状態。
――それと、ユウくんのメッセージはまだ続いていて、
『ごめんなさい。前回のクエストのことで、お話したいことがあります』
……とのこと。このメッセージは発信の日付が昨日の夜になっている。
なんだろう? まだ、クエストには続きがあったとか、かな?
ユウくんからのメッセージは以上の3件で全部だったのだけれど、私宛のメッセージはまだ続いていて……、
『カナカナー。寂しいっすー! たまには遊んでくださいよう』
目をバツ印にしたような可愛いスタンプが添えられたこのメッセージは、やっぱり三日前のもの。発信者は『ジニア・ソーンブレード』。
『ジニア』こと愛称でニアは私と同い年くらい(だと思う)の女の子。私がこのゲームを始めて初めてパーティを組んだ相手でもあり、そして今のところはログインをするたびに一緒に遊んでいるちょっとしたタッグパートナーのような存在。
…………なのだけど、そんなニアへの返事はひとまず置いておいて。
ええと……。
ユウくんのメッセージを開き直して、返信をタップして。
『全然違うよ。クエスト、どうなったの? それと、この間は、夜遅くまで遊んでくれてありがとう。寝落ちしちゃってごめんね』
と。取り急ぎ返事を返しておく。
それから続けてオンライン状態になっているユリさんへと、
『ユリさん、こんばんは。よければ一緒に、遊びたいです。パーティに空きはないですか?』
……ぽちぽちとメッセージを打ち込んでから送信をしようとして、ふと手を止めた。
――前回の冒険の最中。見知らぬプレイヤーのパーティからプレイヤー・キラーだと疑いをかけられ、夜の街を追いかけ回されて酷い目に遭ったことを思い出してしまったのだ。
例えば、ユリさんのパーティに混ぜてもらおうとして、同じようなことになったらどうしよう――とか。
例えば、いつまでも不自然にフードを被って顔を隠していて、不審に思われたらどうしよう――とか。
だんだんと不安になってきてしまって――それで、送信しかけていたメッセージを消去して、ため息をつく。
……なんで、こんな事になっちゃったんだろう?
元はと言えば私がとあるアクシデントに巻き込まれて、『赤ネーム』と呼ばれるキャラクターの頭上のネームプレートが赤く表示されてしまうプレイヤーになってしまったから、なのだけど……。
幸い、このゲームではフードや仮面などを使って顔を隠すことでネームプレートも一緒に隠すことが出来るので、すなわちすぐにプレイ不可能に陥る、といったことはない。
……けれど当然、顔を隠しているプレイヤーには後ろめたいところがある場合が多く、よって顔を隠していると他のプレイヤーさん達からは必然と怪しまれてしまったりもするのだけど。
私はその場でフレンドリストを前にしばらくうじうじと悩んだ挙げ句、結局ユリさんへとメッセージは送らずに、ひとまずトレイアの中央広場へと戻ることにした。
中央広場はどんな時でも多数のプレイヤーが集まっていて、パーティ募集やプレイヤー間の取引などの非常ににぎやかな場所で、大抵の物はそこで揃えることが出来る。
……それと忘れかけていたけれど、あらゆる消耗品――投擲用の手斧もポーションも、それから街へと帰還するためのアイテム〈クリスタル・オブ・リコール〉も、何もかもが尽きているので、どのみち冒険をするにしてもそれらを補充するのが先、かな。
そんなわけでフードを目深に被り直した私は、できるだけ自然な風を装いながら恐る恐るで歩みを進め中央広場へと向かうことにした。
ちなみに、私のキャラクター〈カナト〉の見た目はというと……学校の制服とほぼ同じ見た目の、袖を捲り上げたサックスブルーのシャツにチェックのスカート。首元にはやっぱり学校の指定のものとそっくりなレジメンタルストライプ柄のネクタイ。違う部分といえば髪の色が明るめのアッシュグレーになっているくらいで、それ以外はほぼほぼ現実の私そのままである。
なんでこんな見た目のアバターになってしまったか、というと……やっぱりちょっとしたアクシデントからなのだけど、とりあえず、それは割愛。
種族は北方の部族である『ノルン』、職業は『ブリガンド』で、刃の欠けた巨大な両手斧を背負っている。
それと、それらの上に墨色の旅用のクローク(マントのこと)を羽織っている――と言った感じ。
衛兵とすれ違う度に攻撃をされたりはしないかと不安になったけれど……幸い、特に問題なくトレイアの中央広場へ辿り着くことが出来た。
広場は、今日も沢山のプレイヤーで大賑わい。
パーティメンバー募集などの掛け声があちらこちらで飛び交う中、近隣でメンバーを募集しているパーティを検索してみると、100件近くが該当した。
とりあえずは消耗品を買い直してから、ちょっとだけ野良のパーティに混ぜてもらうのも、いいかもね?
……あっ。そういえば……
思わず、ぽんと手のひらを打つ。
前回の冒険の際。ボスへととどめを刺す直前、〈EXスキル〉と呼ばれる特殊なスキルを習得していたことをふと思い出したのだ。
あの時は疲れと眠気で頭がぼうっとしていたのもあって、スキルを覚えた事自体すっぽりと頭から抜け落ちていたけれど……。
メニュー画面からスキル一覧を開いてみると、いくつかある私の習得スキルのそのてっぺんには――、
[EX]ブラッド・フューリー
と、今まではなかったスキル名が表示されていて、その文字はいかにも特別なものであるとばかりにキラキラと光り輝いている。
[EX]という文字がつくスキルや魔法、クエストなどは、全て、世界にたった一つだけの最もユニークなもの、らしい。…………のだけれど、だからといって押し並べて強いというわけではないらしく。スキルにもクエストにもいわゆるピンからキリまであるのだとか。
『戦士の血が憤怒に滾る時、その刃は暴風と化し幾千の敵を屠るであろう。』
と、これが私のスキルに添えられたフレーバーテキスト。おおー……、なんだかバーサーカーみたいで格好いいかも。
『〈ブラッド・フューリー〉は、トレイアの冒険者〈カナト〉が、強敵との戦いの最中に編み出した特殊スキル。このアビリティを使用すると攻撃力への大きなペナルティを受ける代わりに、以降、攻撃が成功する度にダメージボーナスを得る。このアビリティは一定時間を経過するか、あなたが大きなダメージを受けることで解除される。』
……うーん。
なんだか、説明文を読むと地味、だけど。
つまりは、発動時の一時的な弱体化と引き換えに、それ以降は段々とダメージが上がっていくということ……かな?
これだけだと、ちょっと分かりづらいね。
……そうだ。
せっかくだから、ちょっとだけ外に出て、その辺りの敵でスキルを試してみようか。




