トレイア・アンダーグラウンド?(16の1)
(あらすじ)ついうっかり、敵から目を離していたカナト。その時、ビーム攻撃が来る――とユウくんの声が響く。
二人の声にはっと我に返って、それから〈シャドウ・エクスペリメント〉の頭部を目で追う。……けれど、巨大な身体の向こう側へと倒れたその頭は私からは丁度死角になってしまっていて、何をしているかまでは確認ができない。
その山のような黒い巨体の向こう側から、倒れていた首が突然に持ち上がった、かと思うと大きく開かれたその口の中でビームの光がぎらりと煌めいて……、
同時、唸るような音を上げ、私へと目掛けそれが放たれた。
かっ――……!! と眩い光を放ち、一直線に私へと迫るシャドウのビーム攻撃。
――そして、それが私へと直撃する、その寸前。
突然に、ユウくんが横から飛び出るように現れ――そして、手にした杖を盾にするように目の前へと構えるとビームを目掛けて飛び上がった。
私の目の前を横切るように、ふわり、と宙に翻るユウくんの体。それが次第に眩い光に飲まれて……――そして。
一際に激しい閃光が迸ると、耳をつんざくような音とともに爆炎が巻き起こり、ユウくんの身体を包む。その最中に、ユウくんの手にしていたその杖が、まるで花火のように破裂し弾け跳ぶのが見えた。
「――ユウくんっ!!!」
私は手にしていた斧を放り投げると、咄嗟に飛んで――そして、爆風に弾き飛ばされたユウくんのその身体が地面へと叩きつけられる、その寸前。
両手を必死に伸ばし――かろうじて、その身体を抱きかかえることに成功した。……けれど、その衝撃はとても両足で踏ん張って止められるようなものではなく、たちまちに私の身体ごとを巻き込んで、まるで水を切る石のように吹き飛ばされ、地面を転げる私達。
ユウくんの頭を手のひらで抑えながら、床へと背中を打ち付けたその衝撃を使ってバネのようにして跳ね起きると、なんとか着地――砂埃を巻き上げながら何度かステップを踏んで、弾き飛ばされた勢いを殺す。
視界の端、激しい勢いで明滅している私のHPバーを無視し、ユウくんを抱えたままに、すかさずに追撃へと備え敵の姿を睨む。
……けれど、敵も力尽きかけているのか――。
〈シャドウ・エクスペリメント〉は、少し離れた場所に立ち尽くしたままその首を不気味に波打つように震わせていて、攻撃を繰り出してくる様子はない。
……死なずに済んだ、みたい。
ユウくんのおかげだね。
思わず、ふう――、と安堵のため息をつく。
「…………ユウくん。大丈夫?」
中学生の男の子、とは言え、ずっしりと重いその身体。
できればこの場へと下ろして戦える状態へと復帰したい、のだけど――……肝心の、ユウくんの返事がない。
「…………ねえ……、ユウくん?」
――まさか。
ぞっと悪寒が走って、傍らのユウくんへと視線を落とす。
そんな、私の嫌な予感とは裏腹に――……ユウくんの両目はきちんと見開かれていて、……なんだか、ぼうっとした様子で私のことを見上げている。
――良かった、無事みたい。
「……ユウくん??」
「…………は、はいっ――?!!」
突然に甲高い声を上げると、さっと私から目を逸らすユウくん。
「えっと。大丈夫?」
「だだだだだ大丈夫ですっ!!」
わたわたわた、と立ち上がりたそうに足を動かすユウくんの、……その頬がうっすらと赤らんでいる。
「あ、と、ごめん……」
「い、いえっ……」
なんだか居た堪れなくなって、さっとその場にユウくんを下ろすと、私も目を逸らしたままに、転がっていた斧を拾い上げる。
「おいっ!!! 嬢ちゃん、ユウ――生きてんなら加勢してくれっっ!!!」
その声に、びくっと肩を震わせ、現実へと叩き戻される私。見れば、ラドガーさんが必死になって、〈シャドウ・エクスペリメント〉のその背中の辺りをぼこぼこ、と斧で殴りつけている。
敵の姿を見ると……不気味に波打つような首の動きは既に止まっていて、その首を天井の近くにまで伸ばし、頭は空を仰ぐように真上へ向け――その口を大きく開けて、大量の空気を吸い込んでいる。
その準備動作のような動きをみて、すぐにハッとなった。
この見覚えのある独特な動作は、私達が逃げ出さなければいけない理由を作った元凶――強烈な攻撃力デバフを伴った広範囲への絶叫の攻撃、〈シャドウ・スクリーム〉だ。
〈シャドウ・スクリーム〉には僅かとは言え、かなりの広範囲へと及ぶダメージがある。そのため、デバフがどうという以前に、今の私達の体力では叫ばれた瞬間に全滅が確定する。
……やばいっ――……、今すぐ止めなきゃ!
咄嗟に、シャドウの傍らへと目掛けて駆け出していく私。
――……でも…………。
どうやって……?
「嬢ちゃん――っ!! 頼む、止めてくれーーーっ!!!」
その背中を叩きながら、必死の形相で――縋るように私を見るラドガーさん。
……スキルを止めるには――あのビームの攻撃と同じであれば、頭へと攻撃を加えることで止まる、……と思う。
けれど、私の投擲用の手斧はすべて使い切ってしまった。
……どうしよう。
シャドウがやたらめたらに地面を叩いたせいで、床の石材は穴だらけ。小石くらいなら転がっているけれど……。
そうこうしているうちに、みるみるうちにお腹が膨れ、大絶叫の準備が整っていく。
……その時。シャドウを背中を叩き続けるラドガーさんの姿を見ていて――ふと、考えが湧いた。
「――――ラドガーさんっ!!!」
叫ぶと、全力で駆け出していく。
「な、なんだ?! おい……っ?!」
ただ事ではない様子で駆け寄ってくる私を見て、驚いている様子のラドガーさん。そんなラドガーさんへと駆け寄ると――
「ごめんなさい――……!!」
ひったくるようにしてその武器――ラドガーさんの片手斧を掴むと、振りかぶり――そして、はるか高くへと伸びたその頭へと目掛けて投げつける――……!
間に合え――――!
「ちょ…………お、俺の斧ーー――っっ?!!!!」
投擲用の手斧よりは少し重いラドガーさんの片手斧は、鈍く低い風切り音を上げ私の手を離れると、ぐるぐるぐる、と回転をしながらその頭部へと飛んでいって――、
ごすっ!! と鈍い音を上げ、その顎の部分へと見事命中!
「げごおっ――――……!!!」
スキルの発動の寸前、その顎へと一撃を受けた〈シャドウ・エクスペリメント〉はその首を大きく仰け反らせると……蛙みたいなおかしな声と一緒に、大量の空気をその喉から吐き出し、
そして力を失うと、その首がゆっくりと倒れ――頭ごと、地面へと落ちてくる。
……やった! 再び、攻撃のチャンス――!
さっきの雰囲気からしても、首が倒れてきてから、再び持ち上げてしまうまでのチャンスは一瞬。
…………けれど、大丈夫。今度こそ、決める――!!
ふうっ……、とお腹から息を吐いて。倒れゆく頭を目で追いかけながら私の両手斧を構え直し――、それから地面を蹴って駆け出そうとしたその時。突然に――、
びこーーーんっっ!!!!!!!!
聞き慣れない警告音のようなものが響いて、びくっ! と体を震わせる私。
…………びっっっ……っくりしたなっ?!?!
同時に私の目の前へ、まるで邪魔をするみたいに長々しいメッセージが表示されて、私の視界を遮ってくる。




