トレイア・アンダーグラウンド?(5の2)
「えっと……基本的に、クエストの文字は白なんです。ただし、レアなクエストや重要なクエストの場合は、この文字の色が青や黄色の場合があります」
「えっ。……そうだったんだ」
「はい。ヘルプを開いてみた所、そのような記載がありました。――僕の場合、職業の選択に関わるクエストが青、初期のチュートリアルのクエストは黄色の文字で表示されていますね」
……えっ。
どっちのクエストも、やった記憶がないんだけど……。
……まあ、いいか。
「――でも、その文字の色が金、あるいは、紫の場合……それらは、『EXクエスト』と呼ばれる、少し特殊なクエスト、らしいんです」
「……??……」
「つまり……」
――……ユウくんの説明を大まかにまとめると、クエストには大きく分けて二種類あるらしい。
まずは『通常のクエスト』。
これは例えば、ジャイアントリザードのしっぽを8本集めるだとか、パルミリングの種を5個集めるだとか、といった従来のゲームにもあるような、汎用的なクエストである。
そのため、何度もクエストを受け直す事ができたり、他のプレイヤーも全く同じクエストを受諾できたり、または失敗しても何度もリトライが出来たりするのだけど。
それとは別に、『EXクエスト』と呼ばれる特殊なクエストがあって……その特徴は、唯一無二であること。
このクエストを受けることが出来るのは、この世界でたった一名のみ。
当然、プレイヤーの選択や、あるいは勝敗によってクエストが失敗してしまうこともあり、そして一度失敗してしまったが最後、そのクエストはゲーム世界から消失。二度と同じクエストは発生せず、当然、やり直すことも出来ないのだと言う。
プレイヤーの行動によって、依頼主の命運、ひいてはこの世界の歴史が決定されてしまう、のだとか。
このEXクエストの特徴は、その文字が金色で表示されるということ。その中でも一際に重要なもの(例えば、世界の命運に関わるようなもの)は、文字が紫色になっている、ということみたい。
……ただし。一概に全ての『EXクエスト』がすなわち『重要なクエスト』である――というわけでは無いらしく、
街のNPCに話しかけて回っているだけで、ぽろりとそのEXクエストを貰えてしまったり、
場合によっては、どうということもないお使いクエスト(例えば、牛乳配達、だとか)に終止し、その結果数枚の銅貨を報酬として受け取って、それでクエスト達成になってしまう――なんていうこともあるのだとか。
ともあれ、そんなわけで……この件でユウくんが心配になったというその理由は、ユウくんがこのクエストに失敗することで、そのお母さんや男の子、ヴァルターくんになにか重要な事態が起きてしまう可能性を考えたのだろう。
……そこまでのことを私に説明すると、それから、ユウくんは話を続けた。
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それで、僕はミレーナさんに、その猫になにかゆかりのあるものは有りませんか? と訪ねたんです。
と、いうのも、僕はドルイドですから。……って、今はまだ〈シアー〉ですけど――〈動物探索〉というスキルを持ってるんです。
これはそのまま、最寄りの動物を探す事ができるスキル、なんですが……スキルレベルが上がることでどんどんと便利になっていくそうです。
その機能の一つとして、動物にゆかりのあるオブジェクトを用意すれば、その対象を追いかけることが出来る、というのがあって。……この場合、毛玉やフンなどがそれに当たるでしょうか。
……それで、僕はミレーナさんへとその事を説明すると、普段から猫が使っていたおもちゃがある、と言うので、お家へと伺っておもちゃを借りると、すぐさまそのスキルを発動させました。
すると、ぽっと、ミレーナさんの家の周りに猫の足跡が浮かびました。
僕のスキルレベルは低いので、はっきりって、スキルは不便で使いづらいのですが……僕の周囲の半径3メートルほどの地面の上に、猫の足跡がぼんやりと薄く光って見える――みたいな感じです。
ちなみに、スキルレベルが上がると、足跡からレベルや名前、時間帯、所持品……様々なことがわかるようにもなるのだとか。
……そんなわけで、僕はその猫の足取りを追いかけ始めました。
僕の行動に合わせて、ジャーナル内のクエストの内容文は『検討の結果、僕はロケート・アニマルを用いて猫の足取りを追うことにした。』というものへと更新されていました。
それからしばらく足跡を追っていくと、水路のような場所に出ました。
この水路は……そうですね。――街路よりも人一人分ほど低くなった場所に、ちょっとした川程はある水路があって、その左右に人が一人歩けるくらいの歩道がある――そういった感じの場所でした。
川といえば川なのかも知れませんし、どぶといえばどぶのような場所でした。……あるいは剥き出しになった下水なのかも知れません。
水は綺麗とは言えず臭いがあり、辺りの雰囲気もごちゃごちゃとしていて、お世辞にも治安が良い場所、と言った感じではなかったですから。
その水路に沿うように続いている足跡を追いかけていくと、水路を横切る橋の下で、何やら怪しい地下道の入り口のような場所――真っ暗な、下り階段になっているその奥へと続いていたんです。
その時はまだ明るかったんですが……それでも薄気味悪くて、躊躇しました。けれど、約束をした以上は――そう思って、その中に入ろうとした、その時でした。
……僕の対面から、慌てた様子で走ってくる人が居たんです。
フードを被っていて、顔も名前もわかりませんでしたが……僕をちらりと見ると、軽やかに水路を飛び越えて反対側の歩道へと飛び移り、そのまま風のように走り去って行きました。
その後ろ姿を見て、……もしかしたら、『鳩の時のお姉さん』かも、って……すぐに思いました。
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『鳩の時のお姉さん』って……つまりは私、だよね。
広場から逃げていった後のことかな?
……言われてみれば、そんな場所を通った、ような。
「えっと……どうして、それが私だって思ったの?」
私が口を挟むと、ユウくんは首を左右に振った。
「その時はなんとなく、後ろ姿が似ているな、とだけ。……ただ、記憶にあるカナトさんが背負っていた巨大なぼろぼろの斧は、かなり印象的でしたので。その……ええと、高校生のお姉さんらしい格好と、その斧が、全く噛み合っていなかったので……」
そっか。……私にとっては見飽きた初期装備の斧、だけど……他の人から見たら、特徴的にも見えるんだね。
「……確かに、私だったのかも」
「はい。でも、それからすぐに……一分もしない内です――その後ろを、何人かの怪しげな男たちが追いかけていったんです。逃げていったお姉さん……つまりカナトさんを探しているみたいでした」
「何より、PK騒ぎもありましたから、まさか、と心配になって……それで、もし困っているなら、助けなきゃ、って思ったんです。それで、僕……そのクエストをほっぽって、カナトさんの後を追いかけてしまいました」
「完全に姿を見失ってしまって、もう駄目かなと思いました。……でも、諦めなくてよかった」
「……そっか。探し続けてくれて、ありがとう」
私が言うと、ユウくんはなんだか照れくさそうにして、当然のことです! と呟いた。
「そんなわけで、です。――説明が長くなってごめんなさい。……幸い、クエストはまだ失敗していないみたいなので、これから少し後を追いかけてみようかなって。ミレーナさんとも約束もしてしまいましたので……」
「なら、私も手伝うよ」
ぽん、と手を叩いて言う。
「え?……良いんですか? もう、夜も遅いのに」申し訳無さそうに呟くユウくん。
「うん。二人で探したほうが早いでしょ? 助けてもらったお礼もしたいし……」
――……というのは、半分は本音だけれど。もう半分は、その地下へと続いている怪しい水路が、私がログアウトするのにぴったりな場所なのでは……? と思ってしまったからである。
私が言うと、ユウくんはきらきら、と尊敬に満ちたような眼差しを浮かべて
カナトさんは、強くて、優しいんですね、と……なんだか、うっとりとした様子で呟いた。
思わず視線を逸して、ぐっさりと良心に突き刺さりかけた罪悪感を振り払うと、「……ちなみに、クエストの制限時間とかは表示されてないの?」話を強引に元に戻す。
「残念ながら……。それに、あくまで僕が追えるのは猫の行く先だけです。猫を追いかけたからと言って、ヴァルター君を発見できるとは限りません。……猫を見つけても、クエストが失敗になってしまうかも知れないんです」そう言ってから、少し言いづらそうに言葉を続ける。
「それに……あの……。はっきり言って、気味の悪い場所ですよ? あの階段が何処に続いているのかさえわかりません。おそらくは、地下の下水道。十中八九、嫌な思いをさせるだけ、だと思うんですが……」
「大丈夫、大丈夫。……行くだけ言ってみようよ」
……そんなわけで私達は、来た道を戻るようにし、ユウくんが見つけたという怪しい地下への入り口へと歩き始めた。
……って、私――。ポーションはないし、全財産を手元に持ってる上に、投げ斧も残り少ないんだけど……。
……本当に、大丈夫……?




