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キャラクターを作ろう(4)

 

 やっとのことで謎の人の波(・・・・・)から開放された私は……ふーっ、と大きく息を吐いて――それから辺りを見渡す。



 なんだか……、ここは大きな街の広場みたい?


 私が居た場所には大きな噴水があって(人が多すぎて殆ど見えてないけれど)……その隣には、私が今さっき(・・・・)抜け出てきた異様な人集りが出来ている。


 そして、人集りの周囲にはぽつぽつ(・・・・)気絶(・・)しているらしきプレイヤーが横たわっている。


 ……怖すぎるけど?!


 しかも、なにやらそれ(・・)は一箇所ではなく――よく見ればあちこちに似たような人の塊(・・・・・・・・)が同時発生していて――どこも、酷い有様になっている。



 広場は……ゲームのリリース直後の空気に沸き立っていて――なんだか土日の繁華街だとか、遊園地みたいな……異様な雰囲気。


 ふざけて遊んでいる人達と、それを遠巻きに眺めて笑っている人達。早速、モンスターを狩るためのグループを募集している三人組や、スタートダッシュを決めるために広場を一人駆け回っているプレイヤーさん、離れた場所でのんびりと思い出話をしている女性の二人組……。


 多種多様な反応の人達が入り乱れて、そこらじゅうで声が響いたり、歓声が上がったり……ちょっとしたカオスと化している。


 みんな、新しい冒険を前にきらきら(・・・・)とその瞳が輝いているみたい。


 †


 さて、一息をついて……もう一度じっくりと辺りを見渡してみる。



 広場には所々に椰子の木(・・・・)が植えられていて……なんだかちょっと、リゾート風かも。


 その周りには、たくさんの――砂色の石で出来た建物がずらりと並んでいて、家々の屋根は煉瓦のくすんだ(・・・・)オレンジ色で統一されている。どの建物も、私の足元の石畳も……あまり真新しい感じはなく、なんだか擦り切れていて――古い、歴史のある街といった雰囲気。


 噴水がある辺りには特別に大きな建物がどーん、と建っていて、その入口には、細々とした装飾の施された大きなアーチと、それを支える立派な柱が均等に並べられている。


 ずいぶんと立派な佇まいをしているから……多分、この街の役場か何かかな?


 遠くには、いくつかの背の高い石造りの塔が並んでいるのが見えている。


 それと、なんだか妙に穏やかな雰囲気の……甘いメロディの素敵な曲が流れてくる、と思ったら。

 アコーディオンとコントラバスのような楽器を持った二人の男性が、実際に曲を奏でていて――その周囲には人々が集まって、うっとりとその演奏に聞き入っている。



 ……ほわー……。


 …………すごいなぁ。


 ぐるぐる、とその場で回りながら、感嘆の息を吐く。

 ついさっきまでは自分の部屋に居たのに……一瞬にして、見知らぬ別の国に生まれ変わってしまったみたい。



 ――心地よい、ふわりと吹く風が頬を撫でる。


 かもめ(・・・)の声が響いて、ふと空を見上げると――……南国を思わせるような吸い込まれてしまいそうな青い空と、夏の雲。太陽を背にし、風に逆らうように舞う鳥達が特徴的な声を響かせている。


 どことなく――海の、潮の香りがする。



 目の前に広がる外国の景色も相まって、これから冒険が始まるんだ――なんて。そんなわくわくとした気持ちが込み上げてくる。



 私が色々な諸事情を理由にはたり(・・・)とゲームをやめてから……一年以上が経っていた。

 その間、徹底的に……ゲームというゲームを一切やっていなかったので、私にとってはこれが一年以上ぶりのゲーム体験になる。


『ゲームなんて卒業しないと』――。そんな風に自分の気持ちを押し殺してきた反動もあって……なんだか、懐かしさのような、嬉しい気持ちが込み上げてきて。……思わず、目が潤んでしまう。



 空想の世界で、空想の人物になれる、ちょっとした秘密の時間。


 やっぱり、ゲームっていいなー。


 †


 ……さてさて、どうしよう?



 冒険もしたいし、パーティも組んでみたいし、戦闘もしてみたい、けど……


 まずはゆっくりと街の探索かな?



「パーティ、組みませんかー!」

「レザーブーツ持ってる人ー、トレード希望!!テルよろーー!!!」

「リョー!!聞こえてっかー!」

「一緒にギルド作りませんかー!イルクロ☆イルリバベータ経験者歓迎!!もちろん初心者でも大歓迎♪」



 ――……うん。というか……ここ、うるさい。


 色々なメッセージが、声で、文字で、あちらこちらから洪水のように流れてきていて……なんだか、疲れてしまいそう。


 ちょっとだけ、避難しよう……。



 広場から離れてそこから伸びる大通りへと出ると……そのままふらふらと人の波に紛れて、通りを下っていく。


 通りは沢山の人通りで、馬車が詰まって渋滞を起こしてしまっている。


 その左右には、やっぱり立派な石造りの建物に――年代物らしき大量の本が、背の高い、天井にまで届くほど(・・・・・・・・・)の本棚の中に収められ所狭しと並べられている本屋さんや……それから、


 剣や長柄の槍などの武器、そしてぴかぴかに磨き上げられた金属の全身鎧などが飾られている武具屋さん。


 綺麗な宝石の嵌められた指輪やネックレスがディスプレイされているアクセサリー屋さんに、酒場が一体になった宿屋さん。ちょっとした軽食屋さんに、立派な店構えのレストランや、服屋さん、パン屋さん――……多様なお店が並んでいて、その一つ一つを眺めているだけでも一日が終わってしまいそうだ。



 通りを行く人々は……自然な出で立ちの、日常生活を営んでいる風な人達が3割。――逆に、どうにもそわそわ、きょろきょろ、うろうろとしている若干に挙動不審な人達が7割、といった感じ。


 ……多分、自然な振る舞いの人達がNPCで、挙動不審な人達がプレイヤー(PC)だね。



 ……ちなみに、『NPC』とはノンプレイヤーキャラクターの略で、つまりはゲームの中のキャラクター。その逆に、『PC』はプレイヤーキャラクターの意味で、つまりは私達人間が動かしているキャラクターのことを指す。


 †


 右に左にきょろきょろと目配せをしながら通りを下っていくと……なんだか、とびきりに怪しげな雰囲気を放つアンティーク屋さんらしきお店を発見。


 思わず、ふらふらと吸い寄せられるように近づいていくと――



 砂色の建物へとはめ込まれたかのような、古びた木で作られたその店先……、


 こじんまりとしたガラスのウィンドウの中には、細々とした怪しげな小物が所狭しと並べられていて……その隣には、体格の大きな人には入店すらも難しそうな狭ーい出入り口。


 木製の古びた扉のその上には、怪しげなぐるぐる模様の描かれた古びた木の看板が掲げられていて――〈ヴェスカ魔法品店〉と、その店名が書き込まれている。



 ……折角だから、ちょっとお邪魔してみようかな?


 思い立って、その扉に手をかけ開くと……――しゃらん、と不思議な鈴の音が響く。



 お店の中には、その名前の通りに――魔法使いの木の杖や、ワンド(・・・)などの魔導具……古びた書物、怪しげな装飾の金の手鏡、歪な形の青いランプ、水晶の塊のようなものがかご(・・)の中にどさりと収められていたり――……と、魔法職に関連しているらしき商品が大量に並べられている。


 店内の壁に添え付けられたガラスケースの中には――いかにもな目玉の品(・・・・)とばかりにディスプレイされた、大きな宝石の嵌め込まれた魔法の杖や、不思議な形をしたポーションの瓶が収められている。


 その、一品一品の装飾の細かさ。

 木のフロアが軋む音、ドアノブの装飾と冷たい手触り。古びた石材の埃くさい匂いと、お店の天井に走る古びた梁(・・・・)がひび割れている様子……。


 この世界にある何もかもが、本物にしか見えなくて――……ぼうっとしているとゲーム(・・・)であることを忘れてしまいそう。


 思わず、おみやげとして何かを買っていこうかと考えて……それから、ふと我に返って。それでやっと、この世界がゲーム(・・・)であるということを思い出してしまったほどだ。


 ――と、言っても……ゲームを始めたばかりで、多分、私の所持金は0――だと思うのだけど。



 ……うーん。



 ――……ところで。さっきから……


 じろーり。


 じろーーーり、……と。


 商品を眺めている私に突き刺すような視線を投げかけてきているのは――このお店の、店主さんらしきおばさんである。


 ちらり、と横目でその姿を確認してみたら……その表情も、なんだか怒っているみたいで……。


 ……なんだか怖くなってきた私は、早々にお店を出ることにしたのだった。


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