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レベル上げをしよう(13)

ちょっとだけ、ジニア視点――その2。


そんなわけで、メニューを閉じて顔をあげると……


……おや。さっきまでは使えなくなっていた〈シャドウダッシュ〉のクールタイムがいつの間にか終了――スキルが使用可能になっているみたい。


これなら、ゆまりんを攻撃出来るかも?



シャークは二つのDOTにHPを削られて、再び瀕死に近い状態。完全に腰が引けていて、顔立ちには焦りが滲んでいる。――この様子だと、シャークのアシストも無さそうっすね。


つーか、コイツ……オラついている外見の割には妙にビビりなような。


着ているシャツも――というのも、腕から背中にかけて、どでかくブランド名がプリントしてあるんですけど――有名な……確か、一着10万くらいはするもののはず(しかも秋冬物の肉厚のネルシャツで、見ていてびみょーに暑苦しい)。


それでいてさっきから逃げる気満々で、全く攻撃してくる気配がないんですが。



……ま、いっか。


短剣を構え直して――それから、ゆったりとした足取りでソウタへと近寄っていく。


幸い、散々遊んだ(・・・)おかげで、シャドウダッシュの跳躍範囲は手に取るように解っているので……残り10歩。……6歩。5歩。……4歩。……うん、こんなもんっすかね。


と、その時。武器を構えたソウタの剣に光が宿り……



『……〈スウィフト・ブレード〉ッ!』


その掛け声と同時に、あたしも瞬間移動スキルである〈シャドウダッシュ〉を発動。



ばしゅっ――!



……狙い通り……っ――♪


まさしく彼の背後へと跳躍をしたあたしは……すぐさまに全力で地面を蹴り、ゆまりんへと駆け出していく。



――ゆまりんの表情に驚きと焦りが現れ、咄嗟に何らかの魔法(多分、さっきも見た杖から放つタイプの範囲攻撃っすかね?)の詠唱を始めるも――時すでに遅し。


既にその懐へと潜り込んだあたしは――がら空きの上体を切り上げるようにし〈スペクトラル・エッジ〉を発動。すかさず背後に回り込みながら今度は〈スペクトラル・シジル〉を重ねて発動させる。


「きゃああっ――!」



「くっ……、汚い真似を!」「〈シールド・バッシュ〉!」

追いついてきたソウタの攻撃を難なく躱すと、ゆまりんとソウタの隙間へと潜り込むようにし、今度は〈ブリーディング・エッジ〉でソウタを斬りつけ――それから、距離を取り直す。


「…………あははっ! ――残念でした。アンタと違ってあたしは守ってもらえるのよねー」なにやら、勝ち誇った面持ちのゆまりん。


――くっくっく。

確かに、この時点での(攻撃二回分の)物理ダメージは体力の2割にも満たないくらい、ですが……。


「ゆまちゃん――早くポーションを飲むんだ!!」対して――ソウタはこの攻撃のダメージが後からじわじわと来ることを知っているみたい。



「えっ、…………え?」「やだ……HPが減ってる……!」


「何?! なにか付いてるんだけど……!」攻撃を受けた箇所には黒い斬撃の痕が残り……そこに、如何にも闇属性、と言った感じのエフェクトがわだかまっている。


「あら、やだー。ゆまりんさんったら、中身が漏れ出てますわよ?」思わず言うと――ゆまりんが、きっとあたしを睨む。


「ねえ――誰か、ポーション持ってない?!」

「お――っ、俺ぁもう、持ってねーぞ!」腰の引けているシャークが叫ぶ。


「く……、これが最後のポーションだ!」あたしからゆまりんを庇うような姿勢を取りつつ、ポーションを取り出し、ゆまりんに手渡すソウタ。


――ちっ。まだ持ってたか。



「ありがとう!ソウタ先輩……!」

再び勝ち誇ったような表情を取り戻したゆまりんが、これみよがしにあたしを見ながらポーションを飲み始める。


……いらっ。


このまま倒せるかなーとも思ったんすけど……残念。



……と、思いきや。突然、あらぬ方向から――唸るような音を上げ、手斧が飛んできたかと思うと――



どっ――。



と鈍い音を上げ、ゆまりんに直撃。

高く投げ出されたポーションの瓶が、その中身を撒き散らしつつもくるくると回転しながら宙を待って――



がしゃーん。



地面へとぶつかり、瓶が砕ける。



「このっ――……何すんのよッ!?」斧が飛んできた方向――クロードと激しい戦いを繰り広げているカナカナへと向けて、声を張り上げるゆまりん。


ナイス援護射撃! さっすがカナカナ――サイコーにきゅんきゅんだぜっ!


……と言いたい反面。あれだけの激しい戦いを繰り広げつつも、こっちにまで注意を配ってるカナカナって……なんだか、怖いんですけど。



「……く、くそっ! 正々堂々と戦えッ!!」剣を構えたまま……ゆまりんを庇うようにし、じりじりと後退していくソウタ君先輩。


「えー……嫌っすー。君、無駄に固い上にHPが多いんですもん……」


カナカナの援護射撃の助けもあって、40%……30%……――じりじりとゆまりんの残りHPが減っていく。


「ソウタ先輩……!!」ソウタの背中に縋るように引っ付いているゆまりん。

「だ、大丈夫だ!」「そのスキルは、さっきも見た。もうそろそろ、技の効果が切れるはずだ!」



……そうそう。そろそろ(・・・・)の筈っす。


……なんて、心の中で合いの手を挟んだその時――。



ずどーーん――!!



ゆまりんを中心にして、激しい爆発が発生――怪しげな紫色の爆炎が迸り、ばちばちと稲妻が弾ける。


巻き上がる砂埃の中――がくり、と膝から崩れ落ちるゆまりんと……その爆発の直撃を受けて、背中から弾き飛ばされ――ずざざ、と地面を滑りながらあたしの足元へと転げてくるソウタ君先輩。



『経験値を獲得。』

『あなたのカルマが230減少しました。』

『ゆまりんのレベルが10へと下がった……。』

『13銀貨と88銅貨の分け前を獲得しました。』

『〈ロッド・オブ・ナイトフォール〉を入手しました。』


……おっ。これは、名前から察するに――……高そうな黒い杖、ゲットっす♪


って、別に要らないですけど。



「う……、ぐ…………ッ」


転げてきたソウタ君先輩が憎々しげにあたしを睨んで、足首を掴んできたものの……その残りHPはもはや何ミリか、と言った所。しかも、彼には既に〈ブリーディングエッジ〉のDOTが付与されているので……。


――これは、あれっすね。……お前はもう死んでいる……ってやつ。



…………やだー。――なんすか、この胸の奥から湧き上がってくるぞくぞく(・・・・)とした気持ちは。……今、すごーく、勇者をやっつけた時の魔王の気分なんすけど♪



「くくく……わーはははっ……!」思わず、高らかに笑い声を上げる。


そして間もなく、がくり、と力が抜け〈戦闘不能〉になるソウタ君先輩。



『経験値を獲得。』

『あなたのカルマが150減少しました。』

『あなたのカルマが著しく低下したため、〈クリミナル〉の状態になりました。』

『3銀貨と14銅貨の分け前を獲得しました。』

『〈黒パン〉を6個、入手しました。』



……あら。



〈黒パン〉とは――……黒いパンツのことっすね。



はい、以上っす♪


……っていうのは嘘で。街のどこでも買えるような安価な食品のパンなので……残念ながら、ドロップ品としては外れ(・・)っすね。



――それと……これでとうとう、あたしも赤ネーム(クリミナル)状態に突入。


とはいえ。クロニクル時代の後半はずっと赤ネームだったのもあって、ある程度のノウハウは心得てるんで、……ゲーム続行不可! なーんてことはまったくないんですけど。


流石にゲーム開始10日でクリミナル化するプレイヤーって……ほぼほぼ皆無なのでは?


まあ、あたしはともかく。カナカナは――こういうの、絶対に嫌がるタイプだと思ってたんですけど。


一体、どういった心境の変化なのやら……。



……と、その時……。



『ひっ…………ひぃやぁーーー――……ッ!!!!』

なんだか間抜けな大声を上げて……あらぬ方向へと逃げ出していく男が一人。


……おっと、忘れてた。まだ一人残ってたっす。



――すぐさまに後を追いかけようとしたものの。間もなくぜいぜい、と息を上げ、勝手にその場に転げてしまうシャーク。


おや。これは、スタミナ切れでブレイク(・・・・)したのかも。



「ちょ、……」「待ってくれ……!殺さないでくれ!!」ぜいぜいと息を荒げながら、必死の表情であたしを見上げる。



「えー……」

思わず呟いて……その傍ら、白けた顔でシャークを見下ろすあたし。


「た、頼むぅーー――!! み、見逃してくれ…………ッ!!!」

涙目で訴えるシャークに……優しさと慈愛に満ちたあたしの心が、ついうっかりと揺れてしまう。



……うーん。


……カナカナを押した時は――ブチ転がしたろか! ……と思ったものですが。


結果としてこうなっちゃった以上は押す押さない程度の事は今更どうでもいいし……カルマ値の問題もありますし。

赤ネームと一言で言っても、カルマ値が『-1の赤ネーム』と『-1000の赤ネーム』では脱しやすさに雲泥の差があるので……。


当初の無礼な態度を少しでも自省する気があるなら……まあ、見逃してやってもいいかも知れないっすね。



傍らにしゃがみ込むと、彼の胸へと短剣を添え――それから、その柄を指先で押さえると、円を描くようにしてこねくり回しつつ。

「……ふむー。それでは、万に一つ(・・・・)あたしが君を見逃すとして――その理由は?」



「――……り、理由だと――?!」「俺はここまで一度も死んでねえんだ!!! レベル13まで、ただの一度も死んでないんだぞ――ッ?!」「デスカウントを増やしたくねえんだよ! 分かるだろ?!」



……いや、全くわからねーっす……。ステータス欄のお飾りのカウンターの数字が0だろうが1だろうが10000だろうが、どうでも良くないです?


「そ、それに…………俺ぁハナからこんな奴らとパーティを組みたくなかったんだ!!!」

「それでも、クロードの奴が……戦力が足らねえって言うから道中で拾ってきただけで――お前らを攻撃したいと散々喚いていたのも、俺等じゃなく向こう側のパーティに居た連中なんだッ!!」


…………えー。そうだったっけー?


パーティ内チャット(・・・・・・・・・)で一番やかましく喚いていたのは『ゆまりん』だ!! ……俺はコイツラとは一切関係ねえッ!!!」


……ふむ?

こいつ、NPCって言われたら信じてしまいそうな小物っぷりで――ここまでくると逆に笑えてくるっすね。


……ま、ここは見逃してやりますかー。



「――アイテムが欲しくてずっと金も貯めてた(・・・・・・・・・)んだッ! ――それを落としたくねえ……ッッ!!!」

「なあ……、頼む!! いくらか払っても良い――ッ……」「ここから見逃してくれ!」



――なにいー……。


()が…………貯まってる、だと…………?



顎を擦りながら、にやりと笑う。

「――それは良い情報、感謝っすー♪」


えいっ。



――ぐさり。



「あっ…………おああぁあぁあーー……ッッ!!?!」



『経験値を獲得。』

『あなたのカルマが120減少しました。』

『あなたのアラインメントが〈やや悪〉から〈悪〉へと変化しました。』

『232銀貨と4,631銅貨の分け前を獲得しました。』

『〈革の胸当て〉を入手しました。』



……いや、両替くらいしとけよー。部屋とか汚いタイプっすねー、コイツ。


て、うわ。ちょっとだけ所持品リストを開いたら……所持金が膨れ上がってるんですけど……。



……ともあれ。こちらのお仕事は終了――てことで、後はカナカナの観戦に回りますかー。


――……はぁ。



カナカナ、怒ってないと良いんすけど。



次回更新は21日の金曜日となります。

このレベル上げだけで相当書いている気がする。

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― 新着の感想 ―
レベル上げからPvPのくだり、好きすぎて何度も読み返しています(笑) ジニアちゃんの内心の描写も好きです
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