キャラクターを作ろう(3)
名前と種族の設定を終えた私は――それから、〈次へ〉と書かれたボタンをタップ。
すると、『外見設定』と書かれた画面へと移り変わる。
さてさて。次に…………
今、私の目の前でどーん、とハンマーと盾を構えているこの彼を、私が以前プレイしていたキャラクター『ラグヴァルド』へと似せていきたいんだけど……。
外見設定の画面には、大きく〈オート〉と〈カスタム〉という2つのボタンがあって……このどちらかを選択しないと先へ進まないみたい。
それと……なんだか、2つのボタンの下にはなにやら文字がつらつらと並んでいて、
※ キャラクターの名前、及び外見の設定は『仮設定』をすることが可能で、{キャラクター作成日から一週間以内}であれば自由に変えることが出来ます。
※ キャラクターの外見を『確定』させると、以降、キャラクターの外見は変更することが出来なくなります。
※ また、キャラクター作成のタイミングから一週間(168時間)が経過した瞬間、外見はその時点の設定で自動的に『確定』され、以降、変更することが出来なくなります。
※ 髪型や髭、その他細かいアクセサリーなどは、ゲーム内のサービスを利用することで自由に変更することが出来ます。
※ キャラクターの名前は、ブルームネット内の〈ストア〉よりいつでも変更することが出来ます(有償でのサービスとなります)。
※ ゲーム内のクエストや、フォーラム・マーケットプレイスなどのサービスにアクセスするためには、外見設定を『確定』し正式にキャラクター作成を完了させる必要があります。
――と、書いてある。
……そっか、一週間の間であれば、外見は自由に変えることが出来るんだね。
ふむ。――だったら、ひとまずキャラクターを作ってしまって、外見を詰めていくのは後回しでもいいかも?
試しに、〈カスタム〉のボタンをタップしてみると……
キャラクターの周囲にずらずらー、と――性別、年齢、髪型、髪色、肌の色、などなど……外見を変更するための細かいパネルやボタン群が表示される。
…………うわー。
なんだか、面倒くさそう。
このパネル内のつまみやらを一つ一つ弄って、顔のパーツを調整していかなくちゃいけないみたい。
それ以外にも――なんだか、ボタンがいくつか並んでいて……
……ええと、なになに。
ボイス設定……、モーションの選択……?
プリセットのセーブ、とロード……??
ランダマイズ…………???
……だ、だめだ……。――これは、私にはわからない、かも。
試しに――恐る恐る、目についたボタンの一つを押してみると……。
……うわあ?!
それなりに格好良かった私のキャラクターが、突然大変身して……ぐるぐるメガネに左右へとつり上がったちょび髭の、変な見た目になってしまった。
ちょ、キャンセル、キャンセル――……!
わたわたと、慌てて〈キャンセル〉ボタンを押すと――大量に表示されていたパネルやボタン類がぱっと消えて、同時に元のまともなキャラクターへと表示が戻った。
ふーっ、良かった……。
……実は、私……
いわゆるスマホとか、タブレットとか……機械が苦手なんだよね。
横文字とかがあんまりあると、わからなくなっちゃう、というか……。
……そんなわけで。
ごめんなさい、出直してきます。
と、いうことで……外見設定を諦めて〈オート〉のボタンをタップ。
ひとまずはこのキャラクターを試用しつつ、外見は追々に詰めていくとしよう……。
†
――それから、現れた文字を適当に流し読みつつ……クラスの選択、ゲームを開始する街の選択、などなどの様々な設定を、ぽんぽんと〈次へ〉のボタンをタップし進めていく。
キャラクターのクラスは、ここでは〈ブリガンド〉を選択した。
ブリガンドは……直訳すると山賊とか、無法者、といった感じ、かな?
ラグヴァルドはあくまで『傭兵』であって山賊ではないのだけど……私が目指している〈バーサーカー〉は〈ブリガンド〉の上位職なので、今は選択することは出来ず……しばらくはその基本職である〈ブリガンド〉のレベルを上げていく必要があるのだ。
ちなみに――前作の『イルファリア・クロニクル』では、プレイヤーのレベルが一定に達するとクラス変更のクエストが発生、それを完了することで上位職へと転職ができるようになっていた。
〈ブリガンド〉は、他にも〈レイダー〉や〈マローダー〉といったようなクラスへと派生するみたい。
どれも荒くれ者の近接戦闘クラス、といったイメージかな。
――……て、あれ?
さっきまで表示されていたはずの私のキャラクター(仮)がいつの間にやら消えていて……その場所に、ロード中を示す回転する矢印のアイコンと共に、
『キャラクターを生成しています……』
とのメッセージが表示されている。
…………??
なんだろう。
とはいえ、既に設定は終わっているので〈ゲームの開始〉をタップすると……キャラクター作成の確認メッセージが現れる。
『キャラクター:ラグヴァルドをブルームネットアカウントID:(kunokana113)上に作成します。続行してよろしいですか?』
※ 作成したキャラクターを別のアカウントに移動することは出来ません。
※ アカウントを第三者へ譲渡することは固く禁じられております。
…………
等々……他にも、色々と規約の話や諸々の注意文がつらつらと続いている。……それらを読んだふりをして〈続行〉をタップ。すると手元の操作パネルが消え、画面が暗転――。
『あなたのキャラクター、ラグヴァルドをデータベースに登録しています……』――メッセージが表示されて、矢印がしばらくの間、くるくると回り続ける。
…………回り続ける。
………………そして、終わらない。
うーん……?
きっと、ゲームのリリース直後で混雑しているのかも。
一斉プレイ開始は今日の午後3時――そして、今は午後4時をちょっと回ったところなので……ゲームがプレイ可能になってからまだ一時間しか経っていない。
私と同じタイミングでゲームを始めた――多分、一万人を超えるほどの大量の新規プレイヤーが、一斉にキャラクター作成をしている――と考えると、多少は遅くなるのも仕方がないかな。
†
それからしばらく――数分の間――待っていると。ロード中のアイコンがふつと消え……画面が暗転。
――うわ……っ?!
すると突然、私の目の前で――巨大な翼をはためかせ、風と砂埃を巻き上げて、ドラゴンが飛び上がった。
その迫力に驚いて……思わず、頭を抑える。
……び……、びっくりしたー……っ
どうやら、無事にキャラクター作成が終わってゲームのオープニングムービーが始まったみたい。
それから、再び『イルファリア・クロニクル』のテーマが流れ出して、数分間の映像が流れ――やがて、それが終了すると画面が暗転。
そしてとうとう、私のキャラクター『ラグヴァルド』が、イルファリアの世界へと降り立った――。
†
……降り立った。
――……のだけど……。
ぽん、と私が生まれ出てきた場所は――とにかくひたすらに、人だらけだった。
人、人、人……――!
――左に人、右に人、前も後ろも人……ひたすらに人――。
キャラクター作成を終えた新規プレイヤーが、一斉にこの場所に生まれてきているのか……一箇所へと大量のプレイヤーが押し込まれてぎゅうぎゅう詰めになった、危険な状態。
ひいい……!
つ、潰されて死にかねない……!
それは言うなれば……100人単位の、危険なおしくらまんじゅう状態。ぷくーっ……と膨らみつつある巨大な風船に、上下左右から潰されかけている――そんな状況である。
ぎゅう、ぎゅう。
ぎゅう、ぎゅう、ぎゅう。
あああああああ……。
……ちょ、――ごふっ。
ごすう、と背中に肘らしきが何かが当たった。
ぎゅう、ぎゅう、ぎゅう、ぎゅう。
ちょ、ちょ……!
痛い、痛い。地味に痛い。
なんだかHPが減ってる気がする……っ!
「ちょ、ちょっと……すみませ……っ」
「通してくださーい……!!」
一応、叫んでは見るものの……辺りの喧騒がうるさすぎて、多分、誰にも聞こえていない。笑っている人、怒鳴っている人、悲鳴を上げる人、面白がってわざと押している人、なんなら、足元で倒れている人まで居る。
……あああ……、誰か助けてえ……。
人垣を押し退けて、やっとのことでそこから離れ……人が少ない場所へと避難をしてから――……地面へと崩れ落ちる。
ぜえ、ぜえ。
はぁーー……。
し、死ぬかと思った……。