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レベル上げをしよう(5)

 

「ちな、今はいくら位溜まってんすか?」


「んー……。ポーションとかガバッと買ってるからあんまないぞ。2ちょい(・・・・)ってところかね。ギルドで買いたいモノあると徴収されちまうしなー」

「うわー、相変わらず面倒くさいっすねー。だから嫌なんすよ、攻略ギルドって。暑苦しいー」


「そうかー? お前がうちのメインDPS(・・・・・・)になったら、ワールドで初ドロップ(・・・・・)クラスの最高のアイテムが自然に集まるけどな。……言うほど悪くはないぞ?」


「つか、カナトちゃん連れてウチ来っか?」

 とんとんとん、と操作パネルを叩くルーシィさん。すると……



『プレイヤーギルド《アラネア》への加入申請が届きました。』

 突然、私の目の前にギルド勧誘のパネルが現れて……その下には、〈承諾〉、〈拒否〉という二つのボタンが並んでいる。


 ええ……?!そんな簡単に誘っちゃっていいの……?



「いやいや。唐突っすね」

 私と同じパネルが表示されているらしきニアが笑って言う。「そんなに独断でメンバー勧誘して良いんすかー? 基本閉め切りでしたよね?」


「ま、アドリック(・・・・・)とその友達って言や、うちのリーダーもノーとは言わんだろうよ。……後は実力次第かね」


「あはは。……まあ、そう言ってもらえると悪い気はしないっすけど。正直言うと、あたしはこの世界(・・・・)ではゆったりと暮らしたいですねー……」そう言うと、私をちらりと伺うニア。


「ま、そういうと思ったよ。……カナトちゃんはどうよ。攻略ギルドに興味ない?」

「リアル優先、まったりプレイ(・・・・・・・)の良いギルドよ?……アットホームな雰囲気の笑」


 絶対うそだよね……。


「……その、私も……今のところは、ギルドの所属までは考えていなくて」

「学校のこともあるので……でも、誘ってもらえて嬉しいです。――ありがとうございます」


 ルーシィさんは、ちっ、と舌を打って……

「いい感じの手駒、なかなか見つからねーんだよなー」そう言うと、手元のパネルを叩いて……同時、私達の目の前に浮かんでいたギルド勧誘のパネルがぱっと消える。


「……あらま。メンバー減ったんすか? 一時期はあぶれるほど居ましたよね」


「クロニクルからリバースに移行した際にそのままやめてったメンツが結構多いんだよ。リリース延期もあって、サ終(・・)からリリースまで半年くらい間あったろ」


リバース(・・・・)のリリースでゲーム人口は爆発的に増えたんだが……どこもヘタクソの初心者ばっかで古参はぐっと減ったな」「ゲームの……流儀、っつうの? ――解ってねえ奴ばっかで、正直うざいわ」不機嫌そうに愚痴をこぼすルーシィさん。


「……あとは、古参のくせに名前を変えてこっそり遊んでる奴とかなー。お前もそのクチだろ」


「……ま、そうといえばそうかもっすね?」


 †


 それから、私達は3人でちょっとの間お話をして……ルーシィさんが、寝る、と短く言い残してログアウトをしてしまうと。


 その後、トレイアの北門からフィールドへと出て、〈ルディア丘陵〉というエリアへやってきていた。



 以前にニアと二人で行った、トレイア西門から出た先にある〈レッタ平原〉はひろーい、起伏のある乾いた草原――といった雰囲気だけど。ここ〈ルディア丘陵〉は少し雰囲気が違って、ゴツゴツとした赤っぽい岩場が広がっている。


 丘、といえば丘だけど……どちらかといえば、岩場に近い感じかな。


 ――天気は相変わらず、思い切りに晴れ渡った、抜けるような夏の青空。

 ぎらぎらと日差しが照りつけて、ただ歩いているだけでもじんわりと汗が滲んでくる。



 それからニアと二人、しばらくは街道沿いに歩いていたのだけど。ニアはなにやら地図を眺めながら、ここらへんっすかねー、と呟いて、道なき道へと入っていってしまう。


 ……はぐれないように、その後にぴたりとついていく私。


 本当に大丈夫かな?


 †


 道から逸れて、岩っぽい荒れ地をずいずいと進んでいくと――


 私達を阻むようにして、『アナグマドンキー』『ハリモッタ』『ジャイアントリザード』……といったモンスターが現れ始めた。



 アナグマドンキーは――――Donkey(ドンキー)(ロバのこと)の要素は一切なく、ではなく単に鈍器(・・)(棍棒――主に太めの木の枝)を持った二足歩行の巨大なアナグマである。その外見を簡単に説明するなら、ちょうど私の胸から腰くらいの背丈のオコジョやフェレット……みたいな感じ。

 可愛らしい見た目とは裏腹に非常に好戦的で、小さなドクロ(・・・)を連ねた首飾りをしていて、人を見かけるとその棍棒で襲いかかってくる。


 気配や音の察知にも敏感なようで、とある一体のドンキーが木になったフルーツを棍棒で叩き落しているところを――その背後をこっそりと通り過ぎようとしたら、うっかりと枝を踏んでしまって。パキン、と言う小さな音を察知されて、くるりと振り向いた……かと思うと、突然、襲いかかってきた。


 レベル8相手の2対1だったこともあって、特に問題なく撃退は出来たけれど。攻撃も痛くて……あんまり相手をしたくないモンスターだね。



 ハリモッタは――――やっぱり二足歩行(・・・・)のハリネズミだ。

 草場で身を潜めていることが多く、気付かずに近寄ってしまうと、突然ににょきっ(・・・・)と起き上がって襲いかかってくる。なぜかボクシンググローブのような……武器?を両手にはめていて、左右にステップを踏みながらパンチを放って攻撃をしてくる。


 それほどに強くはないのだけど、背後から攻撃をしてしまうと、わずかとはいえ固定ダメージを受けてしまうのでちょっと厄介だ。……ちなみに、ハリモッタが稀に落とす〈良質なハリモッタの針〉は、銀貨10枚程で売る事ができるありがたいドロップ品だったりする。



 ジャイアントリザードは――――身体の大きい、ずんぐりとしたトカゲだね。近寄りすぎなければ襲ってくることはないけれど、結構強くて、戦闘になってしまうと面倒臭いことになる。



 それと、ちょこちょこと見かけるのは『パルミリング』という植物系モンスター。顔の付いたヤシノミ(・・・・)のような敵で、頭から生えている葉っぱを振り回して攻撃してくる。


 その背の高さは、足から葉っぱの頂点までで、ちょうど私の膝上から腰まで、くらい。


 基本的には静止をして苗木の擬態をしているか、あるいはフィールドをちょこちょこと歩き回っていて、こちらから攻撃をしない限りは襲って来ないのだけど――〈パルミリングの種〉というドロップアイテムを5個集めると経験値(EXP)と銀貨がもらえるクエストが存在するため、見かけた場合には積極的に狩っていくことにしている。


 見た目は可愛らしいのだけど、畑の養分を勝手に吸っていく……とかで、一帯の住民たちには嫌われているみたい。


 パルミリングは何故かアナグマドンキー達にも好かれていないみたいで、道中、3体のアナグマドンキーが集まってパルミリングをぼこぼこと叩いているところを見かけてしまった。


 私達はと言うと――……その隙に、物陰をそそくさと通り抜けて逃げてきたのだった。

 ……ごめんね、パルミリング。



 ――そんな感じで、ルディア丘陵はレッタ平原よりもちょっとだけ難易度が高いみたいで、街からしばらく離れて道を外れ荒野へと入っていくと、レベル5から10くらいの敵がウロウロとフィールドを歩き回っていてぐっと危険が増す感じだ。


 影になった岩場や、茂った藪、群生した木々の辺りから唐突にモンスターが飛び出してくることも多く、気を付けて歩いていかないと全滅しかねないかも。


 †


 そんな、道なき道を行く最中。


 突然に――見かけた岩場の高台へと、しゅぱん(・・・・)テレポート(・・・・・)をするニア。……それから、手のひらで太陽の光を遮りながら周囲を見渡して「……お、あったあった♪」と呟く。


 ちなみに、今のは〈シャドウダッシュ〉と言う、ニアがレベル11で習得したばかりのスキルらしい。


 その効果は『視界に映っている一点へと、短距離を一瞬にして移動する』(見ている限りだと3メートルくらいかな?)らしいのだけど。――間に障害物があるとそれを飛び越えられなかったり、その準備動作として(しば)し静止する必要があったり、一度使用をするとクールダウンがやや長かったり――と、ニアに曰く『思った以上に使いづらい』らしい。


 と、言う割には……ニアはさっきから、事あるごとに無意味にシャドウダッシュを発動させて遊んでいる。……なんだか、使っていて楽しそうなスキルで、ちょっとずるい。



 段差になった岩場を登って、どこ?と私が聞いてみると、「あの辺りにある池なんですが」……と、ある一帯を指で指す。


 指の先には、ちょうど二階建ての家くらいの崖から流れ落ちる小さな滝と、ちょっとした――オアシスを思わせるようないい感じの池があって、辺りには椰子の木がぽつぽつと群生している。


「あの池の一帯にカニが居るの、見えますー?」


「……うんうん」「何体か居るね?」

 少し遠いので、ほとんど点のようにしか見えないけれど……目を凝らしてみると、池の周りには大きな――ウミガメくらいのサイズのカニが居て、日向ぼっこをしながら時折にのそのそ(・・・・)と池の周辺を歩き回っている。


「今日は、あのカニを狩ります♪」


「うん。オッケー」


 †


 私達が池へと近づいていくと〈ヘルベスの秘密の泉〉――と飾り文字が現れた。


 池には、ちゃんと名前がついているみたい。



 それから、池を見下ろすようにある、近くの、少し高くなった岩場の上に陣取る私達。


 池の周りには……水や草に隠れているカニもいて、全てかどうかはわからないけれど――大体、8体前後くらいのカニがウロウロとしている。


「ふむ。結構居ますねぇ……」

 考えるようにしてニアが言う。



「聞いた話では――こちらから攻撃をしない限りは、カニはパッシブ(・・・・)……プレイヤーを襲っては来ないそうです」


「ただし、私達がカニと戦っているところを他のカニに見られると、カニがカニ同士でアシスト(・・・・)しあって共闘してしまうので……あんまり池に近づいて戦うと全滅もありうる、との話っす」


「……なるほど。わかったよ」

 下手にカニを攻撃すると、池中のカニが一斉に襲いかかってくる可能性もあるわけだね。



「それと、こいつらは物理攻撃に対して若干の耐性があるらしくて。本来は、魔法攻撃職と回復役(ヒーラー)も含めた、レベル10以上が最低でも4人は居たほうが安全に狩れる、らしいんですけど。――……まあ、あたしとカナカナなら二人でも行けると思うっす♪」


 おおー。強気だね?


「なので……ひとまずこの辺りまでカニを引っ張ってきて、一匹ずつ安全に狩っていきましょう」


「了解。それじゃあ、今日はカニパだね」

「カニパっすねー♪」


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