表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/65

キャラクターを作ろう(2)

 

 ――ひっ……、わああ……ッ!!



 目を瞑り、体にぎゅうと力を込めたところで……落下は止まらない。


 ――()に見えていたそれは、広大な海の上に浮かんだいくつもの雲で……鏡のように輝く水面に、連なる島々に、黒い影を落としている。


 真っ青に輝く目の前の景色に対して、背後には吸い込まれて(・・・・・・)しまいそうな深い暗黒(・・・・)――宇宙空間が広がっている。

 横を見れば、宇宙(・・)大気の層(・・・・)の境目がまるで水平線のように真っ二つに世界を両断している。



『ごごごご……!』、と――地鳴りのような音は次第に激しさを増していき……、


 その、巨大な大気の壁を掠めるように――斜めにその中へと突入していく。


 ……ひいい……!!


 げ、っ、ゲーム、ゲーム! ……これはゲームだから大丈夫うううう!!


 ――まるで空を切り裂く流れ星のように、私の身体がごう(・・)と青白い光に包まれて……、それからばたばた(・・・・)と音を上げて私の服が翻り始める。


 あぶあぶあぶあ……!


 その時、ぱっ(・・)と――……私の目の前にゲームのロード中(・・・・・・・・)に出てくるような横長の進行バーが表示されたかと思うと、風の轟音が少し静かになって……


 1%、2%、と、ゆっくりとそれが伸びて(・・・)ゆく。


『データのダウンロード中……』という文字と――その下にはなにやら無数のデータを読み込んでいるらしい英語の文字列が、目には見えないほどの速度でぱたぱたと表示されていく。


 空が次第にその青さを増していき――いくつもの雲が現れ、私へと迫り、すごい速度で通り過ぎてゆく。


 やがて、その雲の内へと叩きつけられるように突入。暗く、灰色の雲の中――大粒の雨の束を突き抜けるようにし、それからいくつもの雲の層を落ちた先に、いきなり真っ青な空が広がって……ひたすらに私の身体は落ちていく。


 †


 やがて進行バー(・・・・)が100%へと至ると、ぱっとその表示が消え……それからふわり(・・・)とした上昇気流に乗るかのようにし、私の身体がゆっくりと中空に留まる。



 ――……未明の朝焼けのような、透き通るような薄く青い空。


 びゅう、と吹き荒ぶ、頬を切るような冷たい風。



 私の視界に、飛行機の窓から覗くような――遥か高い場所から見える壮大な景色が、一面に広がる。


 遥か足元の、その雲の下にはまるでミニチュアのような中世の街がひろがって、ぽつぽつとオレンジ色の灯りが寂しげに輝いている。


 ――弧を描くような地平線と、いくつもの山々。

 日の昇りつつあるその空を背にして、数体のドラゴン(・・・・)らしきシルエットが遠くへと飛び去っていく。



 それから、私にとっては酷く懐かしい『イルファリア・クロニクル』のテーマが流れ出したかと思うと――、その景色の上に、どーん、とゲームのタイトルが浮かび上がる。


『イルファリア・リバース』――という大きな飾り文字と一緒に『地平線の果ての聖歌』と、ゲームのサブタイトルが躍っている。


 それから最後に、私の手元へとメニュー画面が表示されて――……ふーっ、と長い息を吐く。


 …………と、とうとう来たね、イルファリア・リバース(の、メニュー画面)に……!


 ……よーし……。



 ……。


 ――……やっぱり、ちょっと待って……。


 私の心臓が、未だにばくばく(・・・・)と大きな音を上げている。


 ううっ、ひどい目にあった……。


 ――ぜえぜえ……。うぷ。


 多分、色々とゲームのデータをダウンロードしていた、みたいなんだけど……落ちていくそれがやたらと迫力があったせいで、無駄に体力を持っていかれてしまった。


 ……って、まだゲームを始めてもないのにこんなに疲れてて、どうするの、私……。


 シミュレーションの強度(・・)は、ゲームごとに何段階かに調節できる――と、どこかで読んだ気がするし……この様子だと、少し強度(・・)を弱めたほうが良いのかも。


 †


 それから、ゆっくりと深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着けて……よし、と気合を入れ直してから、目の前に表示されている〈新規キャラクター作成〉という文字をタップする。


 ――すると、ぱっと枠の中の画面が切り替わりキャラクター作成の為の画面が表示されて……中には名前を入力する空欄や、種族を選択するためのリストなどが並んでいる。



 さて、肝心の『キャラクター作成』、なんだけど……。


 作成する予定のキャラクターは既に決まっていて、名前も見た目も職業もなにもかも……私が前作『イルファリア・クロニクル』にてプレイしていたキャラクター、『ラグヴァルド』と全く同じにするつもりだったりする。



 ――ラグヴァルドは各地を放浪し日銭を稼いでいる歴戦の傭兵で、クラスは〈バーサーカー〉。

 顔に大きな傷痕の残る雄々しい雰囲気の男性で……戦場では巨大な斧を振り回し、嵐の如く暴れまわる。……のだけど、その内面は心優しく、弱き者の味方である――……と言う設定。


 どうしてそんな風にしたのかと言うと……、実は、当時ハマっていたアニメのキャラクターに影響を受けたからだったりして。



 と、言うことで……キャラクターの名前欄に『ラグヴァルド』と入力し……


 次に、種族(レース)は〈ノルン〉を選択。



 ――すると、ぱっと場面が移り変わって、私の周囲の景色が北方の村のような場所へと変更され――、


 それから、どーん、と。私の目の前にどっしり(・・・・)とした体格の、金髪の男性が現れる。


 ……おおー……。



 〈ノルン〉とは……――人間種『ヒューマン』のサブ種族(・・・・)で、イルファリアの世界における、遠い北の大地に住んでいる部族の集団のこと。


 私達の世界で言うところの、いわゆる『ヴァイキング』――西暦800年から1100年頃、北欧から発しヨーロッパの各地を荒らし回った民族――、をもじった(・・・・)ような感じかな?



 男性はその左手に木製の盾と、右手には大きな戦鎚(ハンマー)を手にし――なんだか戦闘態勢のようなポーズを取っている。


 息はしているけれど、その状態から動かないので……、なんだか動くオブジェ(・・・・・・)のようにも見える。


 キャラクターはデフォルメ(・・・・・)がかかっていて、写実的ではないのだけど……。それでも、目の前に等身大の(しかも、私よりも一回り二回りは身体の大きい)男性が突然現れると、迫力がある――……というか、ちょっと怖い。



「……えっと、こんにちは?」


 一応、声をかけてみるけれど――……当然ながら、なんの返事もない。


「失礼しまーす……」


 その、構えられた盾へと腕を伸ばしてみると――私の指先が、ぺたり(・・・)とそれに触れた。


 ……ほわー。


 ちゃんと触れるんだね。


 金属で縁取られた盾の()部分はきん(・・)と冷たく――そして、その木製の表面には木のざらざらとした手触りがしっかり(・・・・)とある。



 ――ふむ、ふむ。


 ――……うわー。腕、太いなぁ……。


 その男性の周囲を歩き回って――じっくりとそのキャラクターを眺める。



 ――髪型はいわゆるツーブロック――側頭部を刈り上げているようなスタイルで、無精髭が顎からもみあげのあたりを覆っている。


 年齢は20代後半くらい、かな。顔立ちはなんだかごつごつ(・・・・)としていて……その目は、闘争心に輝いている。筋肉の鎧で覆われたようなその体――腕には大きく、ヴァイキングの文化を彷彿とさせる、紐を編んだような模様のタトゥー(・・・・)が入っている。


 服装は、いかにもRPGの初期装備(・・・・)、といった感じの――麻っぽい生成り(・・・)チュニック(・・・・・)(シャツのような、昔の服だね)に、擦り切れたズボン。


 服はあちらこちらリペア(・・・)の痕でぼろぼろ。チュニックの腰のあたりを使用感のある革のベルトで巻いていて、そこから革の小物入れを下げている。



 ……うーん?


 格好良いけど、私のラグヴァルドはもっと渋くて、年上で、黒髪で――……歴戦の傭兵っぽい感じなんだよね。



 ちなみに、人間『ヒューマン』は、もっと文明的な雰囲気で、線が細い感じ。

 ……ノルン、ヒューマンの他にも、サランという砂漠の民族だったり、はたまたエルフやドワーフなどの定番から、亜人種や獣人種などなど。……多様な種族の中から、キャラクターを作成することが出来る。



 ……そういえば、今作のエルフはどんな風になっているんだろう?


 ふと気になって、〈エルフ〉を選択してみると――、


 ぱっ、と――私の周囲の景色が、白い建物の並ぶ壮麗な都市の中へと書き換わり――それから、金髪に三つ編みの、なんとも美人な女性が現れる。


 陶器のような白い肌。耳は尖っていて、木製のうねった(・・・・)杖を構え……なんだか物憂げに視線を逸らしている。


 革製の鎧の上には白いローブを羽織っていて、その隙間からちらり(・・・)と素敵な太もも(・・・)を覗かせている。



 おおー……。これはこれで可愛いね。


 思わず、ぺたぺたと彼女(・・)に触れてみる。


 ふふふ。

 ……いきなり怒り出したら嫌だなー。



 ……。


 ぺたぺた。


 ………………。



 …………うーん、これは、エルフで魔法使いプレイも面白いかも知れないね……!



 ――……って、危ない危ない。


 つい、脱線しかけてしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ