ラグヴァルド、再誕……?(4)
――『キャラクター:ラグヴァルドから、外見を自動生成しました。』
……!!
おおお……!
出来たー……!
現れたのは――どっしりとした、雄々しい体躯の男性。
後ろへ撫でつけられた白髪交じりの黒髪。眼光鋭く、老熟した雰囲気を湛えた眼差し。
もみあげから顎までを覆う長い髭と、額から頬へと縦に走る、大きな傷跡……。その太く盛り上がった腕には、幾何学的な模様とヴァイキングのルーン文字が組み合わさったようなタトゥーが刻まれている。
――まさしく、その姿は私の思い出のキャラクター、そして私の分身……。
伝説の傭兵であり、幾多の戦場を渡り歩く流浪のバーサーカー、ラグヴァルドだ。
それも、私が脳裏に思い描いていたラグヴァルドをそのままVRの世界に移し替えたような……完璧な出来栄え……!
中学時代の2年程を共に過ごした、深い思い出の詰まったその姿に――思わず、ちょっとだけ涙腺が緩んでしまった。
ふふふ。
お疲れ様、私。
頑張った甲斐があったね。
そして、おかえりなさい、ラグヴァルド。
……うーん、それにしても。
………………ぐふふ。
……やっぱり、渋い、格好良い……!
私のラグヴァルドはこうでなくちゃね。
360度、くるくると何度も回して――帰ってきたラグヴァルドの姿をうっとりと眺める。
思わず、口元がにやけてしまう。
また、ラグヴァルドとして、色んな場所を冒険できるなんて……今から胸が高鳴ってしまうよ。
……よーしっ。
これで、〈決定〉ボタンを押せば、仮設定が完了。
そのまま約一週間放っておけば、勝手に外見が確定される、らしいけど。
……どうせだから、今この場で外見を確定させてしまおうかな。
なにせ、完璧すぎて文句のつけようがない出来栄えだし。
後で、変な操作をして消してしまったりしたら、嫌だし。
ついでに私の黒歴史を上書きして、抹消したいと言うのもあるし。
――よし、決定。
今度こそ、間違わないように気をつけないと。
逸る気持ちを落ち着けて、慎重に。
〈この外見を確定させる〉のチェックマークを付けてから、〈決定〉のボタンを押す。
**
この外見をラグヴァルドとして“確定”しますか?
※ 外見を確定させる設定になっています。確定されたキャラクターの外見は二度と変更できません。
※ 仮設定に留めたい場合、キャンセルを選択し、〈この外見を確定させる〉のチェックマークを外した後に、再び操作をしてください。
※ 作成済みの他の外見は、外見の確定後に全て失われます。他の外見を再び使用したい場合、必ず保存をしてから、再び操作をしてください。
**
……ごくり。
ここで〈はい〉を押してしまうと、良くも悪くも二度と戻せないんだね。
……よし。
…………。
………………。
ちょ、ちょっと待って……。
なんだか、段々と不安になってきた。
ちゃんと、ラグヴァルドの外見が選択されてる……よね?
一応、念の為……確認し直してからだね。
……一度〈キャンセル〉を押して、確認メッセージを閉じる。
『作成したキャラクターの外見』が(1)(2)(3)と三つあって、今は(3)が選択された状態になっている。
そして、その状態で――画面には、私のラグヴァルドが表示されている。
(2)を選択すると、キャラクターが切り替わって――さっきまでつなぎで使っていた、金髪の、初期設定のままの男性が表示される。
(1)は……、一番最初の――あまり思い出したくない、私のそっくりさんだ。
良かった、3で合っているみたいだね。
……ふーむ。
それにしても、この私……。
改めて見ていても、本当に、私に似ている。
顔立ちもそうだけど――佇まいというか、雰囲気が、本当に私にそっくり。
違うところと言えば、髪の色が、私の真っ黒のそれではなく、やや明るめの――いわゆるアッシュブラウン的な茶色になっている。
家の中や作業中は基本的に髪を括っているころすら同じ。
あとは、服装のディテールが少し違うね。
スカートのチェック模様が、より大判な柄へと替わっている。
それと――よくよく見れば、この私の腕にも、ラグヴァルドのそれに似たタトゥーが、右腕の手首のあたりから上腕へとかけて――ラグヴァルドのそれほど派手ではないにせよ――捲り上げたシャツの袖から覗いている。
これは、ノルンの種族的な特徴なのかもだけれど……私は顔立ちが“おとなしい”ので、あんまり似合っていないような。
髪色やタトゥーのせいで少しだけ別人らしく見えるけれど――顔立ちやそれ以外の部分はそのまんま“いつもの私”なので、……うーん。
アドリックさんは、ゲーム機の採寸データ……? を、使ってる、って言ってたっけ。
現実の人間から、ゲーム内のアバターを自動で――それもほとんど一瞬にして――作ってしまえることが、すごいと言うか、怖いと言うか。
それも、なんて言えば良いんだろう……、この私は、気の抜けている時の私、と言うか。なんだか、“ぽややーん”としている。
部屋でぼうっと寝転がって、スマホをいじっている時、とか
――あるいは、他の生徒を写した卒業写真に意図せず映り込んでしまいました、みたいな感じの私。
どことなくだらけてる感じがするし……髪の毛跳ねてるし。
……半分寝てないか……この私。
写真を撮るなら前もって言ってくれればいいのに。
どことなく抜けてて――ゆるキャラ的な可愛さがあるといえばある気もするけど……。
複雑な気分。
――まあ、いいや。
パジャマとか、ジャージ姿よりはましかな。そういうことにしておこう。
アドリックさんにしか見られてないし。数秒後には消すしね。
こんにちは、ラグヴァルド。さようなら、もう一人の私。
数時間の思い出をありがとう――。
……と、私が私の分身に別れを告げていた、その時――。
どーんっ。
「おうふ」
――突然、誰かにぶつかられて、派手に前方へとつんのめった。
「…………おっ、ワリ笑」
見れば、派手なオレンジ髪の――ツンツンとした短髪の、高校生くらいの男の子が、通話をしつつ手元の画面を何やら操作しながら、楽しげに笑い声を上げて歩き去っていった。
……びっくりしたー……!
画面に見入っていたから、もう、すっごい、びっくりした。
でも、こうして考えてみると――プレイヤー同士で衝突するのって、新しい要素だね。
例えば、PvP(プレイヤー同士の戦闘)中に相手の腕を引っ張ったりしたらどうなるのだろう?
ゲーム終盤は、ペナルティ無しでPvPが行える――『フロンティア』と呼ばれるエリアでの大規模戦闘が主体になる筈だし……ゲーム自体にも大きな変化になるかも。
で、
……ん。
…………あれ。
手元の画面へと視線を戻すと、なぜかキャラクターが表示されておらず――ロード中のアイコンがくるくると回転している。
……ちょ、ちょちょ。ちょっと待って。
え?……なんで?
ぽんぽん、と画面を叩くも反応がない。
ぽんぽんぽんぽん。
おーい……。
ナデナデ。
すぱーん。
…………だめだ。
また、サーバーの混雑なのかな?
――と、その時。
ぱーっ、と……、突然に例の――“光の変身エフェクト”が発生して、私の視界が、がくんと落ちるように下がった。
『あなたの外見が確定されました!』
――なんて。そんな通知が誇らしげに踊っている。
さーっと、背筋に嫌な汗が伝う。
『プレイヤー:ラグヴァルドの外見登録が完了しました。 イルファリアの世界へようこそ!』
え?
待って……、
嘘でしょ?
手元に視線を落とせば、そこにあるのは私の指で――
「あ、あー……。」
発声をしてみても……響くのは、聞き慣れた私の声である。
「……。」
……嘘でしょ……。
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
外見をころころと替えていくパートなど、わかりやすく書けていれば嬉しいです。
自分で読み返してみていても読みにくい箇所が結構あるので、そのうちに直したいですね……。
あらすじも考えないと。よろしければ、これからもよろしくお願いします。




