表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/92

ラグヴァルド、再誕……?(2)

 

「まあ、それはそれとしても。イルクロ(前作)のキャラクターの外見を手っ取り早くイルリバ(今作)に持ってきたいなら、もっと簡単な手があるっすよ」

「……――あ、ただし。旧アカウントのIDとパスワードを覚えていることが条件になるんすけど」


 ふむ……。

 IDとパスワードかぁ……。流石に覚えてないかも。


「……ちなみに、どうやって操作をすればいいの?」


「えーと。まず、メニューの〈キャラクター〉から、〈外見設定〉の画面を出して……、」


 言いながら、手元の画面をなにやら操作するアドリックさん。


「画面左に、〈旧キャラクターの外見を引き継ぐ〉、というボタンがそのままあるっす」

「そちらをタップして、IDとパスワードを入力してから、キャラクターを選択すれば――旧作のキャラクターをベースに外見を自動設定することが出来るっす♪」



 ええと、外見設定……、と。


 ――言われたようにキャラクター作成の画面を開いてみる。


 ……あ、あった。

 〈旧キャラクターの外見を引き継ぐ〉。これだね。


 パネル上部の、見逃してしまいそうな小さなボタンをタップ。

 すると……。


    **


 現在、あなたが外見を引き継ぎ出来るキャラクターは存在しません。


 あなたが保有していた旧『イルファリア・クロニクル』上のキャラクターからの外見の引き継ぎ操作を行うためには、旧『イルファリア・クロニクル』上で使用していたアカウントを、現在ご使用している〈ブルームネット〉上のアカウントへ統合する必要があります。

 ※ ゲーム内通貨の第三者への譲渡は規約違反となります。

 ※ アカウントの統合は一度きりの操作となり、やり直すことは出来ません。


    **


 ――と、メッセージが表示され、

 IDとパスワードを入力する為の枠が二つ現れる。


 その下にも、小さな文字で注意事項が並んでいる。

 ……なんだか頭がこんがらがりそう。


「あ……ちなみに、僕からはラグヴァルドさんの手元の操作画面は一切見えないので」

「覗き見、のようなことは心配せずとも大丈夫です。……逆に、他人の操作画面も見ることは出来ないっす」


 ふむふむ。



 ……うーん。


 頭を捻ってみたけど……IDとパスワードは思い出せそうにないね。

 IDは、なんだかめちゃくちゃな文字列だった気がするし。


 ……ということで、ひとまず今は諦めることにした。


「……だめだ。思い出せないや。また後で試してみるね。――教えてくれてありがとう」

「了解っす♪」



 さて。


 それはそれとしても――とりあえず、外見だけは簡単に変えておこうかな?

 この、リアル丸出しみたいなキャラクターで歩き回りたくないし。


 開いていたキャラクター作成画面から、そのまま〈カスタム〉をタップ。

 すると、ゲーム開始時に見ていた――初期設定らしいノルンの男性キャラクターが再び表示される。


 ――無精髭で、身体に傷跡があって、胸板の厚い――“のしーん”とした感じの男性である。

 特に設定を弄らずに、そのまま〈決定〉ボタンをタップ。



『外見を設定しています……。』とのメッセージと共に、ロード中のアイコンがくるくると回る。


 それから数秒の後に画面が消え――ぶわりと、私の周囲を光のカーテンが包んだ。



 ……おお。なんとなく、昔見たアニメの変身シーンみたいだね。

 くるくる回ってみたくなる。


 しゃらーん。



 すると――突然、どーん、と私の視界が持ち上がって。


「うわっ」


 うわ?!


 ――私の声が、野太い男性の声に置き換わった。



 視線を落とし、自分の手や腕を確認してみると……


 そこにあるのは、まるで木こりのようなごつごつとした手指。ぐっと盛り上がった腕の筋肉、身体に残る戦いの傷跡……。

 外見とセットで、着ていた服も、古びた感じのチュニックへと置き換わったみたい。



「……おおお……。」


 性別の変更がこんなに簡単だなんて。

 ……なんだか、こう、複雑な気持ち。



 試しに、今まで使っていた斧を素振りしてみる。


 ぶんぶん。


 ……別に、軽くなったりはしてないね。単にSTR(筋力)値で判断されているみたい。



 アドリックさんが腕を組んだまま……なにやら複雑な面持ちで私のことを見つめている。


「…………なにか?」

「あー、いえ。人の好みは人それぞれなので、特には……」


 何、その言い方。含みを感じるね。



 そのまま、歩いたり、跳ねたり、回ったりをして、操作性を確かめてみる。


 ……ふむ。


 巨大な斧が、大柄な体格に馴染んでいる感じもする……のだけど、プレイしづらくなった気もする。


 現実の私と身長やリーチが違いすぎるせいかな。動いたり歩いたりすると、なんとも言えない違和感が走る。

 ……これは、長時間やると気持ち悪くなってしまうかも。


 …………うーん。

 続けていれば慣れるかな……?



 けれど。自分の体が“ぶ厚く”なったような感覚……。

 やっぱりこの感じ、ロールプレイにはぴったりだね。


 声といい、体の傷跡といい、痛みを知ってしまった歴戦の傭兵――みたいな雰囲気が最高に良いよね。


 これで、雄叫びを上げながら、大斧をぶんぶんと振り回して戦ったら――もう、絶対に! 格好良いよ。


 欲を言えば、鎖で出来た鎧とか、鉄の兜とか、熊の毛皮のマントとかも欲しいな。

 ……あとは、前作のラグヴァルドの外見を持ってこれれば完璧、だね。



 …………ぐふふ。


 ――おっと。つい、妄想に浸ってしまった。



 †



「よーし。」

「……よし、なんすか?」


「ごめんね、アドリックさん。今日はそろそろログアウトしないと」

「あら。……了解っす♪」


「今日は、色々と教えてくれてありがとう」


 私が言うと、引きつったような笑みを浮かべるアドリックさん。


「……なに?」

「いえ、そのー。見た目と口調が……噛み合ってないと言うかー……」


 そう言えばそうだったね。

 ……まあ、アドリックさんには色々とバレてしまったし、もう諦めよう。



「――いえいえ。こちらこそ、初日に遊んでもらえて嬉しい限りっす♪」


 『アドリック(ID: fleurfleur_819)からフレンド申請が届きました。』


 ぽん、とメッセージが現れて、承諾のボタンを押す。


「登録出来た?」

「ばっちりっすー♪」


「またなにかあれば、何でも聞いてくださいね。〈ソーシャル〉の〈フレンドリスト〉から僕にメッセージを投げてくれれば、直ぐに返事をしますので。」


 ……ふむ。フレンドリストからメッセージを送れるのか。覚えておこう。

 ログアウトしたら、今日覚えたことを忘れないようにメモしておいたほうが良いね。



「メッセージするよ。また組もうね――今日はありがとう」

「こちらこそっす♪」


 アドリックさんへと手を振って――街へと戻ることが出来るアイテム――〈クリスタル・オブ・リコール〉を使用。

 数十秒の発動待機時間の後。クリスタルが一際強く光を放ち――そして視界が暗転。



 エリアが切り替わった途端――、またもや、大量の人の波の中へと投げ出される。


 ぎゅう、ぎゅう、ぎゅう……。

 あああ……、もう、痛い、痛い。地味に痛い。


 数分をかけて……やっとのことで、人だかりから抜け出した。



 ――日本時間で夜の8時。

 トレイアの広場には、昼の2倍から4倍は居そうな……大量のプレイヤーが集まっていて、半ばお祭りのような雰囲気と化していた。


 お遊びで決闘をしている人や、なぜか衛兵に追い回されている人、はたまたなぜかぽつぽつと倒れている人々。

 せっかくゲームを購入したのにまともにログイン出来ない、と騒いでいる人も居て……結構な混乱が起きているみたい。


 しばらくしたら、この混雑も解消されると良いんだけど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ