ラグヴァルド、再誕……?(1)
「……え?」
……今なんて……?
ショックのあまり、思わず固まる。
「……あー、ええと」
アドリックさんが表情を正して、ごほん、と咳払いを挟むと、言葉を続ける。
「〈キャラクター〉メニュー内の〈ステータス〉から、自分のキャラクターが客観視出来るんすけど……」
言われたとおりにメニューを操作してみる。
……すると。
げ……っ。
そこに表示されたのは……なんというか。
……そのまま、としか言いようもない、現実の自分だった。
首のあたりで切り揃えられた髪を、頭の後ろで括っていて、
白のスクールシャツにネクタイ、チェック柄のスカート、紺のソックスにローファーという学生丸出しの出で立ち。
その上に装備品のぼろっちいクロークを羽織って、背丈ほどもある大斧を構えている。
……もう、何が何やら……。
「……え、だって…………じゃあ、〇〇っす、っていう喋り方は……?」
「え?」
「……私が、歳上の男性だと思ってたから敬語を使ってたんじゃ……」
「ああ、いえ。これはネット上だとなんとなくそう喋っちゃうっていう……癖? それだけっすー」
「僕、普段はFPSとかやってるんすけど……基本周りが歳上なんでー」
……紛らわしいんだけど……。
……いや。こんなおかしいことがあるわけがない。
夢を見ているんだ、きっと……。
だって、間違いなく部屋着に着替えてからゲームを始めたし。
大体、通学はほとんどスニーカーだし。
張りのない眠そうな表情に、髪の毛はちょいちょいと跳ねているし。
……私、普段はもうちょっと、キリッ……としてると思う。
どうせなら、なんでもっと美少女に作ってくれないの。
納得がいかない。
――いや、そういう問題じゃなく……。
「……ぷくくw」
「一体、何をどうしたらそこまで派手に間違えるんです?」
ぐさ。
「てゆーか普通、もっと早く気づくでしょ」
ぐさぐさー。
……がっくり。
思わず膝をついて崩れ落ちる。
心ない言葉のナイフにとどめを刺されました。
もう、ログアウトしてもいいかな……。
――なんだか、妙にちらちらと見られる気がしてたんだよね。
ファンタジー世界に学生が居たら驚くよね、普通……。
はぁ……。
「……と、まあ、冗談はさておき」
明らかに本気で笑ってたよね?
「ラグさん、キャラクリの際に、“オート生成”を選んでそのまま確定しちゃったんじゃないっすかねー」
「……、そうかも……。」
言われてみれば、オートっていうボタンを押した記憶はあるね……。
押しちゃダメだったの……?あのボタン。
「…………ぶふっ。w」
思い出し笑い的な感じで、突然吹き出すアドリックさん。
すぐに咳払いをすると、再びその表情を正す。
……もう普通に笑っててよ。
「……で。この〈オート生成〉って、ゲーム機を初期化した際に保存されたユーザーの採寸データを元に、キャラクターを自動生成する機能なんすよ」
「ちなみに、その際に5段階のつまみのようなものが出るんですけど。このつまみが右に寄ってると、プレイヤーのリアルに“かなり近い”キャラクターが出てくるらしいですねー」
「ふーん……」
「ベータの時も結構居たんすよね。キャラ名は女性なのにキャラクターは男性とか……あるいはその逆パターン」
「サーバーが混んでると、しばらくは結果が帰って来ないですからねー。待ちきれずにそのままキャラを作ると、なぜか設定したはずの見た目が変わっているっていう」
……そういうことね……。
「……でもさ。なんでゲームの中なのに制服まで着てるんだろう?」
「……んー。“リアルなNPC” だとか “動的ワールド生成” がイルリバの売りなんですけど、恐らくはその後者っすね」
「えっと……動的…………、なに?」
「簡単にいえば、見た目も性能も何もかもがユニークなアイテムが、リアルタイムで生成される機能っす」
「……、ゲームが、私が現実で着てた服からアイテムを作っちゃった――みたいなこと?」
「はい、その通りっす」
……何、その余計な機能?
「もっと言えば、鍛冶職人が“世界で唯一の剣”を作ることも出来ますし、……あるいは、強敵との戦いの後、他のプレイヤーの誰もが持っていないスキルを編み出したり――」
「悪名高きプレイヤーを討伐するクエストが発生したりだとか……、プレイヤーがダンジョンを作ることも出来ますし、国家を興して他国に戦争を仕掛けることすら出来るらしいっす。」
「とまあ、無数のプレイヤーの選択の一つ一つが、イルファリアの世界と歴史を紡いでいく、というような触れ込みっすね。」
「……おおー。」
なるほどう。
……それを聞くと、面白そうかも?




