【4話・後編】ノートに綴る星空と水槽
続いて、私は、
「朝霞くんの好きなことは何?」
とノートに書いた。彼は少し考えてからペンを走らせ、
「俺の好きなことはね……」
と書き出したところで、ふと彼の趣味を当ててみたいという気持ちが湧き上がった。声を出せない焦りで、私は朝霞くんの手を思わず握り止めた。
手が触れ合った瞬間、朝霞くんの体温が伝わってくる。
「ご、ごめん……」
私は照れくさそうに手を引っ込めたが、すぐに
「私が当ててあげる!」
と書き、息を弾ませながら彼の目を見つめた。その視線の奥に映る静かな光は、まるで夜空に輝く星々のようで、その瞬間、私の心に無数の星が散りばめられたような気がした。
「星を……見ることが趣味?」
朝霞くんは驚いた表情を浮かべたが、すぐに微笑んで頷いた。
「そうだよ。どうしてわかったの?」
「秘密♡」
私は少し得意げに微笑んだ。彼の瞳が一瞬だけ揺れたのが見えて、私の心が温かくなった。
「星を見るのが好きなのは、広大な星空を見ると落ち着くからなんだ」
朝霞くんが書き加えると、私は頷きながら続けた。
「私も魚の動きを見ていると、心が落ち着くの。」
「……私たちって、似ているね」
朝霞くんも笑顔で頷いた。朝霞くんが私の目を見つめ、その視線が心の奥まで届いてくる。まるで星空の下で静かに語り合っているような、そんな錯覚に陥った。
その後も筆談を続けながら、お互いの趣味や興味について語り合った。朝霞くんの書く文字に見入ってしまう。彼の文字はきれいで整っていて、彼の性格を反映しているようだった。
図書室の閉館時間が近づき、ノートを閉じて帰り支度を始めた。外はすっかり暗くなっていた。静かに図書室を出て、帰り道を歩き始めた。
「今日はありがとう、朝霞くん。楽しかった。」
「こ、こちらこそ……ありがとう。」
「また、お話ししたいな」
「お、俺も……」
静かな夜道を並んで歩く私たち。朝霞くんとの距離が少しずつ縮まっていることを感じ、心の中で喜びを感じていた。彼との時間が、私の心に温かさを与えてくれる。
「また明日ね、朝霞くん。」
「ま、また明日、あ……愛月さん。」
家の前で別れる時、振り返って朝霞くんに手を振った。彼も手を振り返し、その姿が暗闇に消えていった。
家に着くと、玄関でちょうどお母さんと顔を合わせた。
「ごめんね、遅くなっちゃった。心結も今帰り?」
「うん、今帰ったところ。図書室でね、本読んでたの。」
「嬉しそうね。なにかいいことあったの?あとで話聞かせて。ご飯作っちゃわなきゃ。」
母の笑顔が、私の心にも伝わってきた。朝霞くんとの時間が思い出され、家に帰ってからも、心は温かいままだった。彼との静かな時間が、私の心に深く刻まれていた。彼との距離が縮まり、少しずつ友達としての絆が深まっていくのを感じていた。
部屋に戻り、今日書いたノートのページを開く。そこに記された文字たちが、私たちの秘密の会話を思い出させる。ページをめくりながら、朝霞くんの笑顔や優しい目元が脳裏に浮かんでくる。
ノートには、彼の丁寧な字が並び、彼の性格が反映されているように感じた。ひとつひとつの言葉が、まるで宝石のように輝いて見える。私も彼にこんなに心を開けるなんて、想像もしていなかった。
(こんなに素敵な時間を過ごせたなんて、夢みたい)
ページの最後には、私たちの約束が書かれていた。
「今度、おうちに見に来てよ」
その一行を見て、再び胸が高鳴る。彼が本当に家に来る日が待ち遠しく、楽しみで仕方がなかった。
(朝霞くん、楽しみにしてるね)
ノートを閉じ、ベッドに横たわりながら、今日の出来事を振り返る。彼と過ごした時間が、私の心に大きな変化をもたらしてくれた。心の中に広がる温かさが、これからの毎日をもっと輝かせてくれる気がした。
静かな夜の中で、彼のことを思いながら、私は幸せな気持ちで眠りについた。
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次回、第5話:授業の中で芽吹く約束
朝霞颯太と一緒に歩く登校時間、そして、授業の中で芽生える小さな勇気。
そんな日常の中で、クラスメイトの柚月からの頼み事が心結の気持ちに大きな変化をもたらす。
放課後、図書館でのひとときに訪れる過去の記憶。
心結に訪れる新たな展開とは──。
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