8恋 真山凪沙は告白します
1日遅れましたが、明けましておめでとうございます!
今年も私なりに頑張りますので、どうぞ宜しくお願いします!
8恋
真山凪沙は告白します
来る月曜日の放課後。恋神からはメモ用紙でと言われたものの、真山は真面目な性格だ。ちゃんとした手紙に、読みやすい大きさ。丁寧な字で内容を記入し、高峰を呼び出した。
呼び出したのは4階の第二家庭科室前。家庭科の授業自体、第一家庭科室で行う上に、家庭科室を使う工芸部の活動は週に一度でこちらも第一家庭科室を主に使う。しかも4階。放課後は誰もと言ってもいいくらい人の出入りはない。
内密の話をするのなら、もってこいの場所と言える。
「…………………」
真山は黙って待った。指定の時間を少し過ぎた頃、階段を上がってくる足音が次第に大きくなってきて、それがちょうどこの、4階の廊下を踏んだあたりで静かになった。
「た、高峰………先輩」
この場に来たのは高峰だった。それを見て思わず高峰の名を口にする真山。
「悪い遅れた。えっと、真山だっけ?」
「お、覚えていて……くれたんですね」
先日の『強制意識の右眼』と、レミニアラの妙案によって、真山の存在は高峰の脳裏に名前とともにそれなりに深く刻まれていたらしい。
「この前すれ違ったよな? 放課後に」
「は、はい!」
覚えていてくれたことに、真山はかなり喜び顔を綻ばせる。
「そ、その、、今日は突然呼び出してしまい、申し訳ありません」
「いいよ。これから部活だけど、まだ部員集まりきってないから。それで、何か用かな?」
この展開じゃ、要件なんてだいたい想像はつくだろう。が、聞かずに話を始めるのもちょっと自意識過剰に映ってしまう。結果高峰の言い回しは妥当なものと言える。
「ん………」
次の言葉がなかなか出てこない。ただでさえ人見知りの真山だ。普通にしていたって言葉が出てこないのだから、本件の内容はさらに出にくい。
それでも、グッと拳を握り込み、勇気を奮い立たせ、口を動かす。
「わ、私……実は高峰先輩に、その、、好意をもってて」
真山の口から出た言葉は、告白とも取れるものだった。ここで終わらせればただの告白。だがまだ言葉は続く。
「で、でも、私なんかがいきなり、そんなこと言うのは、失礼だって思ったんです。だからその……………」
「その」の後の言葉が出るまでに間が生まれた。その間の中で、真山は恋神の言葉を思い出していた。
遡ること30分前。所定の位置に着いた真山に、恋神は最後の言葉をかけていた。
「お前と高峰の相性は友達程度はある。だから普通に友達を遊びに誘う感じで挑むといい」
特に何も考えずに恋神はそう進言したが……。
「すみません、私そういう経験があんまり」
真山のコンディションを落とす要因になってしまったようだ。
「あー、別に本物の友達がどうとかじゃねーよ! えーーっと、なんつーか………そうだ、真山この前、服選び行った時にその後、喫茶店に俺を誘っただろ? あの時の口ぶりからして、多分あの時も相当緊張したんだろうが、せいぜいあれくらいの感覚で挑むといい。てか、神を誘えて人間一匹如きを誘えなかったら、承知しねぇーぞ⁉︎」
真山凪沙に、ほんの少しの勢いと、勇気が宿った。
恋神の助言通りに、恋神をあの日、喫茶店に誘った時の雰囲気と言葉をなぞって……。
「私と、デートしてくれませんか!」
噛まずに、目を逸らさずに、真山は言い切った。周囲に人が居たら、もしかしたら聞こえるかもしれない程度の声量で言い切った。
高峰が真山の言葉を受けてから、返答するまでのほんの僅かな時間。それは、真山からすれば時が止まったような感覚に陥るくらい、時間経過を感じされない長い時間に感じられた。
「どこに行くのかわからんが、いいぞ」
「………………………えっ、」
高峰の返事は、真山の申し出を承諾するものだった。
「お前のことは何故か印象に残ってた。今度見かけたら話しかけてみようと思っていたからな。いいぞ。デート」
「………ぁ、ありがとうございます!」
恋神はこの光景を、高峰が上がってきた方とは逆の階段からひっそりと見ていた。恋神の『恋愛開示の左眼』には、真山がデートに誘うよりも引き上げられた高峰の真山に対する好感度が映っていた。
「よかったな。真山」
その後、流れで真山は高峰と連絡先も交換。デートは次の日曜日になった。
土曜日は学校がなく、電話やメールでの話し合いよりも確実性がある対面式の話し合いができないため、当然金曜日の放課後はレミニアラを含めた3名で図書室に集まり、デートの作戦会議を行っていた。
とは言えデートに誘ったのは月曜日。ここまでで3日。つまり3度は話し合いの機会が設けられている。そのため、今日はデートプランの確認が主な話し合いの内容だ。
「えっと、まず最近公開された恋愛ものの映画を観る。次に予め目星をつけた所で食事。その後お互いに服などを選び合い、最後に高峰先輩の私に対する気持ちを聞く。場合によっては、そこで改めて告白する。これで大丈夫ですか?」
「あぁ。まぁあんまり凝ったことやっても、真山の良さが半減するだろうし、それが最適解だと思う」
「良さですか?」
「うん。あんまりデートの計画立てるの慣れてる感じにしちゃうと、第一印象から掛け離れる。まぁズレるのもいいのかもしれないけど、今のままで問題ないなら変わる必要もない。だからこの作戦でいこう」
「はいっ」
両拳を胸の高さで握り、真山は気持ちを高める。
「それにしても、タイミングとしては完璧ですね。夏休みの1週間と少し前。狙った通りに事が運んでいると言っていいでしょう」
レミニアラの指摘通り、上手くいき過ぎているくらい、事はすんなり運んでいる。夏休みは2週間後の木曜日から。いきなり恋神との交流が強制的に減らされる夏休みにギリギリ入らない時期。
「その通りだな。んで、真山。本当にいいんだな? 当日俺たちのサポートはなくても」
真山はデート当日のことでひとつの提案をしていた。それは、デート中のやり取り等は全て自分で決めてること。困っても決して頼らない。ここからは自分でという強い意志が見られる。
「はい。今まで、まさにズルをしてここまで上手く進められました。神様の力を借りること。これは普通あり得ません。なので、ここまでしていただいたのですから、最後は自分の力で決めたいんです!」
「私もその意見には賛成です。慣れているように取られてしまうと、先ほど話に出てきましたが、それと同じでここまでの軌跡は真山さんご自身が築き上げてきたものとは到底言えない。ただ、これまでのはあくまでも準備段階です。高峰という人間に直接関わるのはこれから。その“これから”を、真山さんご自身でコントロールすれば、この恋路は間違いなく、貴方のものと言えるでしょう」
普段あまり長々と話さないレミニアラが、珍しくかなりの長文を口にする。
「恋神様はどう思われますか?」
「同じくだ。本音を言えば、最後まで口出ししてより確実なものにしたいが、真山には俺も世話になった。本のこととかな。だから、やっぱ最後を決めるのは本人に任せるよ。頑張ってこい。んで、デートが終わったら結果をメールなりで教えてくれ。それくらいはいいだろ?」
「もちろんです! 頑張ってきます‼︎」
その言葉で、3名は別れた。
次に真山から恋神に宛てて送られてきたメールには、こう書かれていた。
『高峰先輩と、付き合うことになりました』
読んでいただきありがとうございました!