5恋 真山凪沙は色んな意味で前進します
少しでも呼んでいただけると幸いです!
5話は前話で仲違いしてしまった恋神と秘書の関係ら修復するのか? 真山→高峰の恋愛は動くのか? など内容盛りだくさんです! そして、恋は新たなところにも……
是非呼んでいってください!
5恋
真山凪沙は色んな意味で前進します
月曜の朝。いつもならレミニアラが叩き起こしに来るか、そこで茶を飲んでいるのだが、昨日も今日も来ていない。やはり、土曜日に恋神がついイラついて言い過ぎてしまったのが尾を引いているようだ。
もっとも、恋神が全て悪いわけではない。レミニアラも言い過ぎた点は否めないからだ。
「ハーーァ。若干寝坊したぞ。ちくしょう」
恋神が高校に到着したのは、1時間目の授業が始まる5分前。
「おー恋田遅刻かよ」
登校直後、すぐに声をかけたのは、恋神と席が隣の男子生徒の山中。
「寝坊した。授業には間に合ってよかった」
「1時間目終わったら、高橋先生のとこ顔出しとけよ? 授業は出席になっても、学校自体今のところ欠席になってるっぽいから」
学級担任が必ずしも授業をするわけではない中学・高校でよくあるパターン。因みに高橋先生とは恋神の所属するクラスの担任である。
1時間目の国語の授業を終えると、1番後ろの席に静かに座る真山の肩を軽く叩いて挨拶をし、そのまま職員室へ向かった。
「失礼します。高橋先生いらっしゃいますか?」
と、職員室の扉を開けて声をかけたが、偶然目の前に高橋先生が居たため意味がなかった。
「あら恋田君。遅れて来たのね」
「はい。1時間目には間に合いました」
授業の合間の休み時間は10分。職員室内は次の授業の準備をする教員たちで賑やかだ。職員室の扉の前でやり取りすると、他の教員たちの出入りを邪魔すると考えた高橋先生が、人差し指を廊下の方に向けて、恋神に外へ出るように指示を出す。
「先生。俺は出席の報告ができれば特に話すことはないんですが……」
「冷たいこと言わないの。単純に感謝しないといけなかったから……」
「感謝ですか? 何かしましたっけ」
恋神はピンと来ていないようだが、高橋先生は当然のように感謝の内容を口にした。
「真山さんのこと。美化委員に入ってもらったのはともかく、できれば友達になってあげて欲しい。その意図を孕んで図書室に行くことを勧めた。あの日の恋田君にとっては無茶振りだったでしょ? 正直、あの後少し言い過ぎたかなって思ってたの」
ようやく恋神も合点がいった。確かにクラスで浮いてる存在の真山と仲良くしているのは、自分だけだろうと思い出したからだ。
「アイツ、確かに話すのあんまり上手くないし、他人を怖がってる……みたいなところはあります。でも、真面目で頑張り屋で、いい奴なので、別に無理して関わってるわけじゃないですよ」
その言葉を恋神から。いいや、自分のクラスの生徒から聞けて、高橋先生は担任としてどれだけ嬉しいことか。
「本当にありがとう。体育祭は恋田君がこの高校に来る前に終わっちゃったけど、文化祭やその他の行事はまだこれからある。友達として、これからも真山さんの手助け、してあげてね!」
友達という言葉。その要素。それを人間に抱くこと。感じることの違和感。恋神にとって人間とは、全てにおいて自分よりも下の存在。人で例えればペット。いくら仲良く遊んで友達と称することがあっても、その実ペットという括りから外れることはない。
頭でというより、心がそう理解している。絶対に距離があるはず。どこかで線引きしなければならないと、無意識のうちにセーブをかけているはず。だったが……。
妙に真山と自分の関係が友達だと言われた恋神の心は、晴れていた。悪い気はしなかった。
「了解です」
放課後。いつも通り図書室で真山と待ち合わせをした恋神。ぶっちゃけ同じクラスなら、教室でそのまま合流すればいいのにと考えるが、まず真山が人前で話せないタイプ。そして恋神も、あまり真山と自分が関わっているのを見られると、後々真山の恋愛の対象である高峰との親交に亀裂を入れかねないと判断し、人気のない所で合流するようにしている。
「あ、あの、その、すみませんでした朝は。挨拶をわざわざしてくれたのに、反応できなくて」
人前で話せない真山は、当然クラスで親しい恋神から声をかけられても焦って上手く対応できない。
「気にしてない。それより、昼休みのうちに高峰を『恋愛開示の左眼』で見ておいたぞ!」
「あ、ありがとうございます! それで、先日一緒買った服装だと、先輩との相性はどれくらい上がりますか……?」
真山がかなり不安そうな目で恋神を見つめるが、恋神は心配無用の意味を込めて右手を前に出した。
「前は13%だったが、あの服込みなら32%まで上昇したぞ!」
「ほ、ホントですか⁉︎」
嬉しそうに両拳を握る真山を見て、恋神も嬉しさのあまり頬をかなり緩ませた。
「で、一応参考程度に教えておくが、相性のパーセンテージは親密度でも大きく変化する。例えば、『見た目だけ好みの他人』と、『見た目が好みの友人』なら、相性は後者の方が跳ね上がる。俺の『恋愛開示の左眼』が見抜く相性ってのは、2人が両思い。つまり、恋仲になった時にどれだけ摩擦が少ないかを示しているんだ」
「じゃあ、先輩と話せるくらいになれば……」
「相性はさらに跳ね上がる。今のままで30%超えは正直言っていい線行ってると見ていい。知り合い程度になれば50%は軽く行くだろう」
そして、その鍵を人間の恋愛を司る神である恋神はもっている。
「そこで、まだ使ってないスキル。俺の右眼に宿る『強制意識の右眼』を使う」
「『強制意識の右眼』……ですか」
『強制意識の右眼』は、恋神の右眼の視野に収まった人間同士を、他人。つまりただの背景でしかない者から、意識する者へ変化させるスキル。故にそのスキル名は強制意識の右眼。
今まで他人だった奴が家の近くを歩いても特に意識しなかったが、知り合いになった瞬間によく見かけるようになったと感じる様に、人は意識するしないで認識すら変わる。つまりこのスキルは、高峰に真山という女子生徒を認識させるためのスキルなのだ。
「す、凄いじゃないですか! 流石神様です!」
「けどこのスキルも、人間に近い今の状態じゃ劣化してんだわ。神の状態で使えば、視野の中に何人居ようと、意識させたい者同士を選別して使えたんだが、今はそれができない。つまり、大勢居る中でこれやると、皆んなが皆んなを意識するっていう訳のわからん状態になるんだよ」
「で、では、私と先輩の2人しか、恋田君の視野に入らない状況をつくる必要があるということですか?」
「その通り。けど、アイツ人気者の部類だからそもそも単体に中々ならないのよ」
目を閉じ、必死に解決策を考える。そんな中、ふと思った。
『こんな時、レミニアラならどんな妙案出してくれんのかなぁ』と。
土曜日の夕方の一件以降、レミニアラは姿を見せない。恋神は限られたスキル以外、神としての力を失っているため、レミニアラから姿を見せてくれないと会うことすらできない。本来ならば昨日の日曜は丸々1日、『強制意識の右眼』のスキルの使い方についてレミニアラと案を出し合うつもりだったが、それが叶っていない。
やはり、ここは恋神だけで考えなくてはならないらしい。
「にしても難しいな。俺と真山が学校生活で常に行動を共にしていれば、チャンスを何度かつくれるかもしれないが、それだと意識させた時に変な誤解を生んでしまうかもしれない。アイツの帰宅寸前を狙えば……いやいや、それだと真山の家がアイツとそれなりに近くなきゃただのストーカーだし……………」
ブツブツ言って考えをまとめようとするが、余計に混乱していく恋神。結局その日は。いいや、それから10日間、何もいい案は出てこなかった。
そろそろなんとかしないといけない。そうしないと、神としての威厳に関わる。なんてくだらないことを考え始めた恋神は、今日も図書室に赴いた。幸いこれまでの10日間は、服選びの日に貰った最新刊の話をして場を繋げたが、そろそろその話題も限界が来る。さて、今日はどうしようかと考えていたその時、珍しく真山が、かなりの勢いで恋神に話を持ちかけた。
「恋田君これ見てください!」
「ん?」
真山が見せたのはスマホの画面に表示されている1枚の写真。そこには、本屋の棚が映っていた。
「本屋の棚がどうって……あれ?」
「そうなんです! 最新第3巻が売り切れてたんです! 恋田君には以前に、ちょっと早めに最新刊をお渡ししましたが、正規発売日は昨日。で、昨日の夜に本屋を少し見に行ったのですが、この通り昨日分の在庫が全て売れたみたいなんです‼︎」
あり得ないくらいテンション高いし、多分厳しい図書委員が当番の日なら注意を受けるだろうが、今日は大丈夫みたいだ。恋神が一旦真山を落ち着かせると、詳しく話を聞いた。
「2巻までは売れ残りばっかりで、昨日見た本屋もそうだったんです。でも、最新刊は違かった。本屋さんに聞いても、発注を少なくした覚えはないそうで、単純に売れたんだと思います。それで、原因を調べてみたのですが……」
今度は写真ではなく、ずらっと並んだ文字をスマホで見せた。どうやら1巻と2巻の感想が記載されているサイトのようだ。
「ん? なんだこれ。ここ1週間で物凄い数の感想と評価があげられてるじゃないか」
以前は、感想や評価の数は疎ら。ない日もあるくらいだが、ここ1週間以降はそれが爆発している。
「はい。どこを境にかはわかりませんが、どうやらこの1週間で見てくださる人が増えて、その影響で最新刊が物凄く売れたんだと思います」
「………………」
「恋田君?」
ひとつの感想文を不自然なまでに凝視する恋神に、真山が疑問符を投げる。
「あー、悪い。ちょっと気になる感想があってな。とりあえず、よかったじゃねーか」
「はいっ!」
恋神は一度、トイレに行くと言って席を外した。図書室を出て、廊下を少し歩くと、人気のない所で立ち止まる。
「あの感想。お前だよな? レミニアラ」
「……………」
今の恋神は、力が制限されているため『幻覚のスキル』が使えない。故に、それで姿を隠しているレミニアラの存在を察知することはできないが、少しの疑いももたずに恋神はレミニアラの名を呼んだ。
すると、レミニアラがゆっくり姿を現す。
「先日は申し訳ありませんでした」
レミニアラは深々と頭を下げた。今回の、真山のライトノベルが爆発的に売れた件。その原因には、レミニアラの存在があった。あの後かなり反省したレミニアラは、ちゃんと真山のライトノベルを読み、その上で感想を、あらゆる端末から発信した。もちろん神の力が無ければ成せない部分も多く、最高神から注意を受けたが、レミニアラの意思は固く、最終的に最高神もその行いを許した。
恋神が勘付いた理由は、感想の中に、レミニアラがあの日貶した時に使った言葉の逆が垣間見える文があったからである。
「もう2度と、冗談でも恋神様を貶しません。ですのでどうか、私をこれからも秘書として……」
「いやいいよ。俺もあの時は言い過ぎたし。あと、お前に変に気を使われると気持ち悪いから、いつも通りにしてくれ」
恋神が手を差し出した。
「ゴメンなレミニアラ。これで仲直りしよう」
恋神の言葉を全て聞き終えたのち、レミニアラはその手を握り返した。
「参考までに教えていただきたいのですが、どうしてあの時はお怒りに? いつもの恋神様なら流されると踏んでいたのですが……」
決してふざけて質問しているのではない。この両者は、なんだかんだで互いを信頼している。それが故、怒られないと踏んでの発言が思わぬ形で怒りを買ってしまい、仲違いしてしまった。その原因をちゃんと知って、今後はこうならないようにしたいのだろう。
「どうせお前のことだ、あの本の作者が真山凪沙だってことは知ってたんだろ?」
「はい」
「…………アイツ、めちゃくちゃ真面目で頑張り屋なんだ。確かに俺たち神からすれば、ひとつもふたつも格下の存在だけど、簡単に貶していい存在じゃない。少なくとも、真山凪沙って人間はそうだ」
この時、レミニアラは直感的に理解した。恋神の中で、人間という存在そのものの価値が、以前より変化してきていると。
そしてその感覚は、レミニアラにはわからない。同じ神なのに、恋神にはあって、レミニアラにはない価値観。
でも恋神は自分が付き従うべき神だ。だから心に決めた。もう2度と、恋神の前で人間を貶すのはやめようと。
「わかりました。気をつけます」
恋神が図書室に戻るために再び歩き出すと、それにレミニアラが付け加える。
「そう言えば恋神様。ひとつ思ったのですが」
「なんだ?」
「真山凪沙という人間。眼鏡をかけてましたよね?」
「かけてるな」
真山はかなり度の強い眼鏡を着用している。
「コンタクトにしてみるのはいかがですか? 簡単に雰囲気を変えられますよ」
「……………確かにっ! 失念していた。『恋愛開示の左眼』で眼鏡が好みかどうかも見られるが、総合点や相性ばかりに気を取られて簡単なことに気づけなかった」
「眼鏡未着用者の方が大多数ですし、万人ウケするかと。あと、『強制意識の右眼』の使いどころも帰宅後早速作戦会議しましょう。いい案があります」
「………おうよ、」
いつものように、またレミニアラと話せる。無愛想だが、レミニアラからは仕事に対する確かな熱量が感じられる。からかってくるが、恋神への思いやりも感じられる。
恋神は諸々それらを喜んだ。
次の日。朝のホームルーム直前の時間にて、ちょっとした事件が起きた。
「………おいアレ」
「えっ………」
「イメチェンってこと……?」
男女問わず多くの生徒が、声を漏らして驚く。それらの視線の先には……眼鏡を外し、コンタクトにして登校して来た真山の姿があった。
昨日の放課後、レミニアラに助言をもらった恋神が、真山にコンタクトを勧めたのだ。しかし驚いたのは、言われた次の日に実行して来たこと。特に真山のような性格の人間は、少しずつ、より抵抗が少ないようにことを運ぶだろうが、今回は大胆に動いた。
「ま、真山さん眼鏡外してる……。イメチェン?」
普段話しかけない女子生徒が、真山にことの経緯を質問し始め、真山の周りには自然と人が集まり始めた。
「あ、あう、あの、、これは……」
ようやく恋神相手には心を開き始めて話せるようになった真山だったが、それと他の人間と会話できるようになるのとでは別の話。
だが、他者と会話する能力は、高峰に近づくためには必須の能力。ある程度、少しは話せるようにならなければならないため、恋神は助け舟を出さずに自席からただ見守った。
その時……!
「っ……」
恋神の心拍数が何の前触れもなく上昇する。
「………これは、」
恋神は、神としていくつかのスキルを持っている。『宣言のスキル』『口止めのスキル』『恋愛開示の左眼』『強制意識の右眼』などが挙げられ、以前にレミニアラとの会話で明らかになった通り、これ以上恋愛を発展させるスキルはない。が、ないのはあくまでも「恋愛に発展させるスキル」に限った話だ。人間に近しい状態でも、所有と使用が可能なスキルは他にもいくつかあり、まさに恋神の心拍数上昇の理由も、その他のスキルのひとつが起因している。
そのスキルの名は、『恋する心臓』である。このスキルは、恋神の近くでたった今恋に堕ちた人間を察知し、誰が誰に対して恋したのかをサーチできるスキル。心拍数上昇中。つまりスキルが発動している間に限るが、誰が誰に恋をしたのかも視認することが可能である。
現状、真山→高嶺の恋路以外に首を突っ込むつもりはないが、一応確認はしておく。
まぁ見ずとも、イメチェンした真山に密かな恋心をどこかの男子が抱いたんだろうってことくらいは容易に予想できるが……。
案の定、真山が恋心の終着点になっている。では、この恋心の発信源は誰なのか……。
「え?」
思わず恋神は、真山にたった今恋をした生徒。つまり、恋心の発信源を凝視してしまう。
「よりにもよって……お前かよ」
そう、真山に恋をしたのは、高校に入って1番最初に仲良くなった男子生徒。
中島だった……。
読んでいただき、ありがとうございました!