15恋 中島雄也はまだ足りません
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15恋
中島雄也はまだ足りません
彼の名は、中島雄也。今の今まで中島で通してきた恋神。いいや、恋田神大の最初の友人である。彼は理系選択者124人中、121位という素晴らしく馬鹿な成績を1学期期末テストで叩き出した、とても気持ちのいい生徒である。
「なぁ恋田〜。新学期始まってまだ2日だぜ。もうちょっと後からでもテスト勉強いいんじゃね?」
「ダメに決まってるだろ。中島の前回の成績は知ってる。124人中121位。はっきり言って壊滅的な成績だ。しかも下位3人はいずれも体調不良でテスト期間中に欠席してる。つまり、実質お前が最下位なんだぞ」
2名は中島宅で試験勉強を行っていた。もちろん恋神の指導の元で、だ。
「いやまぁ、中間テストは最下位じゃなかったし、今度はなんとかなるかなぁって。てか、なんで期末の結果をそこまで詳しく知ってるんだよ! 恋田が転校する前だっただろ! 行事の兼ね合いがどうとかで早まったから」
「とあるツテとだけ言っておく。それに、早まった分今回の試験はテスト範囲が広いんだ。早くからやっておかなきゃ死ぬぞ」
「ぎくっ、、」
幸い2名の通う高校に成績関連での退学はない。通知表でオール1を取り続けたとしても、卒業は可能と言うことだ。無論、欠席日数がかさみ過ぎたり、目に余る素行不良別が目立てば話は別だが……。
「この前のボウリング勝負の報酬。その貸しがテスト勉強の指導なんだ。むしろ喜べ」
「へいへ〜い」
今2人が広げているのは、物理の教材。生物と物理が選択できるのだが、中島は物理を選択したらしい。因みに恋神も転校の際に選んだのは理系の物理。たまたま同じだ。なお、真山凪沙は文系の古文を選択している。
昨日の放課後。恋神とデスランは予定通り体育館裏で勝負の詰めの部分の話をした。詰めと言ってもデスランが選定する生徒の話。デスランは昨日この高校に入ったため、交友関係には多少の難がある。そこから勉強を教えるなんて関係は、更に深い交友関係が求められる。だが、その心配は必要なかったらしく、候補に選んだ生徒には既に声をかけてあるらしい。あの人懐っこい性格が功を奏したというわけだ。
「早速勉強会を始めるとは、宣言通り本気で勝負なさるのですね」
耳元でレミニアラが恋神にのみ聞こえる声で問いかける。何がタチが悪いかというと、この場じゃレミニアラにどう挑発されても返答ができないことだ。それと、耳元で囁かれる超本格的ASMRは、一般人からすればご褒美のほかないが恋神からすればただの嫌がらせである。
「にしてもよー恋田。なんで俺に勉強なんて教えるんだよ。しかも俺だけにだ」
「松田も杉八木もそれなりに勉強できるだろ。特に杉八木は上位10人に入るくらい学力が高い。わざわざ俺が教えるよりも自分でやった方が時間とかで考えれば効率がいい」
「さようで……。んあーーちょっと休憩しようぜ〜。俺こんなに詰め込んで勉強した事ねーんだって。もう今ので最高記録だ。褒めて使わしてくれ」
何を言ってんだコイツって顔をする恋神だが、ここである妙案を思いついた。
「仕方ない。お前がやる気ないなら、諦めて真山に勉強を教えるとするか……」
「なに真山さん⁉︎」
やはり真山凪沙の話を持ち出せば、中島は本能的に食いつく。
「そうだ。お前が勉強やらないなら、代わりに別の人間を教える。俺は今、猛烈に勉強を教えたい気分だからな。そうどれくらい教えたい気分かと言うと……同時に2人くらいは余裕ってくらい教えたい気分だな……」
チラッと中島の方を恋神が見ると、中島の顔が目の前まで迫ってきておりめっちゃ焦る。
「真山さん……も、呼ぼうぜ」
中島は、真山が高峰との恋愛を成就させるためにイメチェンした辺りで真山に恋心を抱いている。このタイミングで真山の名前を出せば、確実に食いつくと恋神は思っていただろうが……食いつきすぎである。
「………………いいけど、約束して欲しいことがある」
「ハハっ。言われずともだ。勉強はメッチャ頑張るから‼︎」
「少しでも手を抜くようなら、真山は返すし今後お前が困っても助けてやらないからな」
「任せてくれ」
どちらかと言えば任されるのは恋神なのだが……。
と、いうことで、2名の男子の前には真山凪沙が正座していた。
「こ、ここここここんにちは! 真山さん!」
「あ、は、はい。こんにちは中島君」
意中の女子を自分の部屋に上げたことで完全に上がりきってしまった中島と、単純に人見知りで言葉がつながらない真山。そして、その2人の間の位置に座る恋神。
「えーっと、真山。とりあえず文系教科がどんな範囲か教えてもらえるか?」
「あ、はい」
恋神はレミニアラから前にもらった、前回の定期テストの結果を思い返す。真山の前回の結果は、現代文93点。古典88点。英語79点。世界史72点。数学Ⅱ 43点。化学基礎85点。地学基礎80点。保健体育86点。の8教科合計627点。平均点は78点である。文系は理系より1科目少なく、内容的にも平均点が高くなる傾向がある。真山凪沙は文系科目と基礎科目だけを見れば、その性格に似合った量の努力をするためそれなりの成績を収められるが、数学Ⅱは違う。1学年の時にやっていた数学ⅠAはなんとかついて来れたが、数学Ⅱになった途端いくらやってもそもそも理解ができなくなった。
因みに、文系選択者148人中、真山の順位は38位である。
「これが文系のテスト範囲です」
「凄い。もう範囲を予測してるのか」
テスト範囲の発表はテスト1週間前ほど。2学期中間テストは10月の初め。つまり一ヶ月前からテストの準備を真山は進めていることになる。
「私、容量悪いので早めにやっておかないとダメなんです。特に数学なんて、早めにやっても……」
「じゃあ数学を重点的にやろう」
「ありがたいですが、恋田君は大丈夫ですか? 勉強」
「教えれば自ずとって感じだよ。だから俺が2人に教えるだけじゃない。自然と俺もこの場で勉強をしていることになる。だからあんまり気にしないでくれ」
ペンケースから多色ボールペンを取り出すと、恋神が改めて2人の方を向く。
「それじゃあ、始めようか」
恋神一向が勉強会をしている頃、デスランも勉強を教えることになった生徒と居た。
カラオケに……。
「すげーーー! 90点超え連発かよ乱野」
「へへ〜ん。ボクは歌も得意なのさ!」
デスランの人間界での名前は、乱野秀司である。
「それより、本当にカラオケ奢ってもらっていいのか? 俺、遠慮とかしないぞ?」
「構わないさ。でもその代わり、ちゃんとボクの指導のもとで勉強して満点狙ってもらうぞ?」
「おうよ!」
デスランが教える生徒の名前は阿部。中島と同じく理系選択者で、124人中118位とこちらもある意味でかなりの強者だ。常識的に考えればここから一ヶ月程度の勉強で上位に食い込ませるのは無理な話だろう。無論、恋神との勝負はあくまでも指導した生徒と自分の合計点の勝負。上位なんて狙う必要はないのだが、デスランは知っている。恋神は、自分の常識を逸脱した存在であると……。
「よし。その決意表明が聞けたところで、人数を追加しよう。阿部が知る限りの同学年をここに呼んでほしい。今日が無理なら明日でも明後日でもいいけど、なるべく早くがいいな」
「いいけどどうしてだ?」
「ニヒヒッ。まずは呼べたメンツに次回の定期テスト。高得点を狙いに行こうって話をする。1人でやるよか、皆んなでやった方が面白いことになるからねぇ〜」
デスランは知っている。自分単体の要素だけじゃ恋神には太刀打ちできないことを。なら、その要素をズラしてしまえばいい。選択した以上、勝負に絡むのは自分と阿部の成績のみだが、デスランはより良い成績を取るまでの過程を重んじた。
少数で動くより、大勢が同じ意思を持って動いた方が、人は大きな力を発揮できる。心理的安定は人間のポテンシャルを引き上げる。平たく言えばチームワークがもたらす強みだ。同じような成績の生徒をそれぞれが指導したって、結果は恋神の勝ちで終わる。どうせそうなる。だから恋神が取り得ない手段を織り交ぜる。自分単体の指導力+チームワークによる心理的バフ。
『皆んなでやる』
これが、デスランが恋神に勝つために取る、秘策である……。
時刻は午後8:30。真山が教科書とノートを閉じ、身支度を始める。
「すみません。私そろそろ門限なのでお先に失礼してもよろしいですか?」
高嶺との一件もあった。ご両親も真山の行動には細心の注意を払うようになっていることだろう。
「ああ。お前から俺に教わりたいって言った訳じゃないのに、なんか悪いな」
「いえいえ! 恋田君凄く教えるの上手くて、助かってるのは私の方です! それではまた明日、学校で。あ、あと、な、中島君」
「ふあい!」
人見知りの真山と、緊張でガチガチの中島から変な言動挙動が繰り出された。
「お、お邪魔しました! お互い頑張りましょう!」
「ふ、は、はい! こちらこそよろしくお願いします‼︎」
何言ってんだこの男は……。
真山凪沙が退室して5分ほど。黙っていた中島が口を開いた。
「……………真山さんの匂い。消えちゃったな」
「お前、めっちゃキショいな」
「言ったよなぁ恋田! 俺、真山さんのこと結構本気で気になってんだって」
「聞いた。お前が異性として、真山のことを意識しているのは話からも今日の態度からも伝わった。最近はそれを応援してやってもいいなって思ってる」
「ほ、ホントか⁉︎」
高峰が除外され、恋神の周りにある恋愛要素は現状中島から出た真山への恋心のみ。無から作り出すよりもあるものを利用した方が手っ取り早い。何より、真山と高峰をくっつけるより余程簡単だと恋神は考えている。
だが……。
それはあくまでも、難易度のみを見た場合。
「悪いが、今日のでその考えも白紙に戻った」
「なんで! 勉強ができないからかよ!」
「違う。勉強しようとしてないからだ」
「っ………!」
明らかに今回の自分に欠けていた要素。それを適当ではなく、的確に、鋭い視線とともに言われ、中島は冷や汗をかいた。
「勉強できないことは決して罪じゃないよ。どうしても苦手な奴だって居る。勉強が無理なら、他で取り返せばいい。ただ、取り返せる奴はできない事だってきっと頑張る。それが例え自分が苦手なことでも」
恋焦がれる真山が目の前にいた。決して万全の精神状態ではなかっただろう。だが、それを差し引いてもやる気が感じられなかった。
「…………」
「俺が2ヶ月程度見た真山って人間は、少なくとも人を出来不出来で判断しない。なのにお前は、勉強に大したやる気も出せず、ましてや俺が真山との関係応援に否定的な理由を勉強の出来不出来で片付けようとした。だから俺は、今のお前と真山をくっつけようなんて微塵も思わない。これ以上、アイツに同じ轍は踏ませない」
「ぇ………」
中島は最後の一文に疑問を覚えた。しかし、恋神は去るべきタイミングは今だと判断し、身支度を済ませて立ち上がると、そのまま中島の部屋の扉を開けた。
一歩外に踏み出した段階で、一度恋神は静止する。
「んまっ、今のは俺の個人的な意見だ。全部を真に受ける必要はねー。でももし、今俺が言ったことに少しでも納得がいったなら、今度は中島から声をかけてくれ。いつでも勉強教えるから」
「…………」
中島はかなり浅く頷いた。それを見届けてから、恋神は中島宅を後にした。
「…………同じ轍って、何のことだよ」
恋神にとって中島という生徒は、今回のデスランとの勝負を成り立たせるための駒にすぎない。なんて冷徹な考えは、最初から恋神の頭にはなかった。初めて人間界でできた友人。ボウリングでは本気で勝負もした。中島がいい奴だということはとっくにわかっている。真山凪沙を任せるに足る存在だと……。
「真山を、、『任せる』って、なんだ?」
恋神はあの時、確かに反省をした。非情になりきれない癖に、非情な立ち回りをしたことを。カッコつけたいがためだけに、真山を傷つけてしまったことを。だから恋神は、他大多数の人間よりも真山凪沙を重要視している傾向にある。いわば特別扱いだ。ただ、特別扱いは特別な感情からくるものかと聞かれると少し疑問が残る。
はずなのだが………。
恋神の中に居る真山凪沙が何者なのか、その答えはまだわからない。
読んでいただき、ありがとうございました!
新年度、新学期が始まりましたね♪ 皆さんいかがお過ごしでしょうか。私は新社会人として、ならない仕事に悪戦苦闘しております(涙)
物語の話としては、神と神の学生レベルの勝負の側、恋愛も当然絡んでくる形で話を進めようと思っております!
ではまた次回!




