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11恋 恋愛の神様は再会します

少しでも読んでいただけると幸いです

            11恋


        恋愛の神様は再開します

 

 夏休みは濁流のように流れていった。何度も中島たちから学生らしい、遊びの誘いが舞い込んできたが、俺はそれをことごとく断った。

 

 『そうかー、バイト入りまくってるのかぁ。じゃあ仕方ないな』


 「ゴメン。空いたら俺から連絡するよ」


 『わかった。じゃあな〜』


 通話を終えると、既に敷いてある布団に携帯電話を転がし、勢いよく畳に座り込む。もうあれから2週間。話は全く進んでいない……。



 恋神こいがみの元に今日も、レミニアラは現れた。なにをするでもない。ただ自殺未遂をした、真山凪沙まやまなぎさの病院へ恋神と一緒に行くだけだ。


 「恋神様。夏季休暇中の学校の課題、無事終わらせられましたか?」

 「もちろんだよ。あーいうのは早めに終わらせるに限る。面倒ごとほど後回しにしがちだ。んで、必ずそれを後悔する。後悔するって既定路線なら、最初からそれを通らなきゃいい」


 恋神は基本聡明である。砕けた考え方も、ちゃらんぽらんなところもあるが、事務的な作業はもちろん、リスク管理の基礎もしっかりしている。だからこそ、真山の命を脅かしてしまった今回の件は、相当なショックだった。

 レミニアラはそれを理解した上で、あえて真山の話はなるべくしないようにしている。なにを言っても、恋神はもう、進歩も後退もしない。未来を見捨てない覚悟を決めたのだから、恋神はこれから、やることをやるだろう。それくらい、レミニアラは恋神を信頼している。


 「面会が叶うといいですね」

 「ああ。いい加減、アイツに謝りたい。そこからじゃなきゃ始められない」


 病院に到着すると、もん何度も行き来した受付に顔を出す。すると、毎日通ったことでもういい加減恋神の顔を覚えた受付の人が、恋神が要件を言う前に声をかけた。


 「面会、できるようになりましたよ!」

 「……………‼︎」


 受付の人も、恋神が真山をずっと気にかけていることはわかっていたため、やや元気な声でそう伝えた。

 何より男女でこのやり取りだ、何か勘ぐれるところが受付の人にもあったのだろう。

 病室の場所を知ると、すぐに面会者名簿に人間界での名前(恋田神大れんだこうだい)を記入し、最初にこの病院を訪れた時と同じように駆け出した。

 その様子を確認すると、レミニアラもスキルで恋神以外には姿が見えないようにして着いていく。

 真山の病室は7階。エレベーターが1階に到着するまでの間、恋神は足を動かし続けて落ち着かない雰囲気を全面に出している。

 

 「少し落ち着いてください恋神様。急かしてもエレベーターは来ません。それに、どんな形で入室するのか、ちゃんと決めてあるのですか?」

 「ぁ、、」


 2個目の問に言葉が詰まった瞬間、エレベーターが到着した。扉が開き、誰かの乗り降りを待つ。そんな間が数秒、2名は扉がもう間も無くで閉まるという時に、ようやく乗り込んだ。


 「お前の言う通りだよ、レミニアラ。俺、今までただ謝ることしか考えてなかった。また同じことやってるわ。ひとつの大きなこと以外、なにも頭に入ってなかった。俺、いったいどんな顔してアイツに会えばいいんだ……?」


 謝り区切りをしっかりつけたい。それは真山にしてしまった事からしても至極当然であるが、こうも取れる。

 

 恋神の独りよがりだと。


 「…………なら、引き返しますか?」

 「ぇ」

 「引き返して、真山凪沙から目を背けて恋愛を司る神を続けますか?」

 「………え?」


 恋神の疑問符が大きくなる。レミニアラから飛ぶ質問は、今までのどの会話から出たものよりも棘があったからだ。


 「もうどうするか。どうすべきか。とっくにわかっているのでしょう。疑問にすらならないことを疑問にしたって解決どころか議題にもならない。恋神様はなにも考えずに、真山凪沙に今の思いを。純粋な謝罪をすればいいと私は思います」


 我ながら馬鹿なことで悩んだ。そう、恋神は思って一度目を瞑る。エレベーターの扉が開いたと同時に、目を開き、頭の中をまっさらな状態にして、力強い一歩を踏み出した。真山の病室に向けて……。


 「恋神様」

 「もう大丈夫。ちょっと行ってくるわ」

 

 恋神がエレベーターを出るのを待って、1人の患者がエレベーターに乗り込んだ。

 恋神は迷うことなく真山の病室がある方へ歩みを進める。そんな恋神の背中に向けて、小さな声でレミニアラは伝えた。


 「ここ、6階ですよ?」


 因みに、レミニアラの姿と声は恋神にしか認識されないため、6皆で恋神と入れ替わる様にエレベーターに乗り込んだ患者からは、恋神が1人でエレベーターの方を振り向いて、「大丈夫」と言ったようにしか見えなかった。つまり、ただのヤバい奴である……。


 仕切り直して、恋神は7階のエレベーター前に立っていた。


 「なぁレミニアラ。もっと早く教えられなかったの?」

 「いやー、あまりにも力強い一歩でしたので、止めるのは惜しいかと。サーセン」

 「ハーーァ。まぁちょっと緊張が緩んだよ。じゃあ、今度こそ行ってくるわ」


 廊下を駆ける事なく、しっかりとした足取りで真山の病室の前に恋神はたどり着いた。


 「………………………」


 ノックするために胸の高さまで上げた手を、一度止める。覚悟も決意も十分。但し、すんなり行くかはやはり別。けれど、そこから動けないはずはない……。


 「真山、恋田だ。入ってもいいか?」


 聞こえるか聞こえないか。それくらい丁寧で、力のこもっていないノックは、果たして真山の耳に届いたのだろうか。

 それでも、恋神の確かな声は聞こえたはずだ。


 「どうぞ」

 

 5秒ほどたった頃、真山からしっかりとした声が返ってきた。

 すぐに入り土下座したい気持ちを押し殺して、まずはゆっくりと、真山を驚かせないことのみに注力して横開きの扉を開けた。

 すると、恋神の目に飛び込んできた光景は……‼︎


 「真山!」


 床に額をつけ、土下座の姿勢をとる真山凪沙だった……。


 「大変な心配と、ご迷惑をおかけしました! 何より、こんなことしておいて……結局何もかもが中途半端で……」


 中途半端。それはおそらく、自殺を図ったにも拘らず死にきれなかったことを言っているのだろう。

 真山をとにかくベッドに戻さなければならない。そう思い両肩を掴んで支えるようにし、まずは土下座の姿勢を解かせた。


 「謝るのは俺の方だ! お前は少しも悪くないんだ! 俺はお前がこうなるかもしれないってわかってた。わかってた上で、高峰をお前とくっつかせた! だから俺が……」

 「………それは違います」


 2名は。いいや、2人はお互いに床に腰を下ろした状態で話を始めた。


 「前にも言いましたが、恋田君はあくまでも私の恋愛においてズルみたいな存在。本来あり得ない要素なんです。仮に恋田君が居なかったとしても、恋愛そのものが成り立たなかったか、成り立っても同じ結果になっていた。だから恋田君が自分自身を責める事なんてこれっぽっちもないんです!」


 流した涙は頬にかかるあたりで大きさを僅かに変え、流れ落ちるのが恋神の想像よりも早かった。少しやつれているからだろうか。


 「お前……どこまで人がいいんだよ。そんなんじゃ命が幾つあっても足りないぞ」

 「人がいいわけじゃありませんよ。ただ、恋田君は悪くないだけです。それと、私が弱かっただけなんです……」


 高峰にされた仕打ちを思い出したのか、真山が胸を押さえて息を荒くする。


 「落ち着け真山。医者を呼ぶか?」

 「だ、大丈夫です。少しだけ、まだ怖さから抜けきれてないだけですから……」


 真山をベッドに座らせると、しばらくして真山は落ち着きを取り戻し、恋神は一安心する。


 「………学校には、もう戻れなそうだよな」


 真山が学校に戻ることが叶わない前提で恋神は話を切り出した。この状況、明らかに真山は転校し、新しく学生生活を始める。誰もがそう思うし、そうするべきだと考える。


 「恋田君は、どうするべきだと思いますか?」

 「お前の負担が少ない方がいいと思う。だからやっぱり、転校した方がいいのかもな」

 

 2人の間に10秒ほどの間が生まれる。お互いが次に何を言うべきかを決めかねている。沈黙を破ったのは、意外にも真山だった。


 「恋田君は、どうして欲しいですか?」

 「だから転校を……………ん」


 聞き方が先ほどとは少しだけ違うことに、恋神は返答してすぐに気づいた。『どうするべきか』と、『どうして欲しいか』の違いに。


 「俺の意思を聞いて、何か変わるのか?」

 「なんとなく……です。理性じゃない、恋田君そのものの気持ちを知りたい……みたいな」


 恋神は下を向いて頭の中を整理した。今までの真山との会話や行動。そして、今とこれから起こり得る会話や行動を。

 答えようとして、一度口を止める。理由は、自分の自由意志なんて話していいのだろうかと、恋神は考えたからだ。結局自分を優先した結果が真山を苦しめてしまった。それが恋神の新たな自由を縛る。


 「ん……………」

 「やはり、私は恋田君からすると、失敗の象徴なわけですから、邪魔……ですよね」

 「そんなことはない!」


 反射的に真山のネガティブな発言を払拭するが、すなわち恋神の自由意志。「転校なんてしてほしくない」を突き通すことになる。


 「俺は、本当のところはお前に転校なんてしてほしくない」


 一度口にしてしまったら、もう止めることはできない。そこから切り返す器用さなんて、恋神は持ち合わせていない。


 「きっとこれから、真山と前みたいに中身がある話もない話も、その全てが楽しいものになるだろうからな。何より、ラノベの解説がなくなるのはどうにも……」


 言葉の途中、真山から溢れ出た花畑のような笑みに、恋神は言葉を止めた。


 「………そういえば、眼鏡かけてるな」

 「え? あ、外出の時以外は眼鏡を。慣れていますから、眼鏡の方が落ち着くんです」

 「そっか」


 恋神は床に膝をつけていた状態から立ち上がると、改めて真山に頭を下げた。


 「それでも俺は、自分が悪かったって思ってる。すみませんでした。あとは全部、真山に任せる。俺の意思は伝えた。けど、それでどうか自分を縛らないでくれ。転校して、やり直すのがこの場合1番いい動きのはずなんだから」

 「転校はしません」


 もう何度目だろうか。恋神はまた、言葉も動きも止められた。


 「夏休みが終わると同時に、学校には戻ります。正直、高峰先輩のことはまだ怖いですけど」

 「………本気なのか?」

 「はい。せっかく変われたんです。それをぬか喜びなんかにはしたくありません!」


 

 真山との話し合いを終え、恋神は病院の敷地外でレミニアラと合流し、話した内容を詳しく伝えた。


 「やはり高峰が厄介ですね。また何をしてくるかわからない。そんな人間ですから」

 「あぁ。しばらくは真山の近くに居ようと思う。俺が思ってた以上に、人間界に長く居なきゃならなくなるかもなぁ」


 結局は自分が招いたこと。リスク管理ができていれば、こんなにも回りくどいことをせずに済んだはずだ。


 「私が真山凪沙のそばに居ましょうか?」

 「それだとまた、最高神様に注意を受けることになる。自分の過ちで起こったことだ、自分で解決しないとな」


 恋神の、人間の恋愛を司る神としての研鑽は続く……。

読んでいただきありがとうございました

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